襲撃
一夜明け、支度をして朝食を食べ、出発した。
今日は昨日よりも街から離れたところまで行くようだ。
「……」
ふと、ミゲルさんの顔を見る。
彼は険しい顔をして空を見上げている。
昨日よりも暗く、今にでも雨が降りそうな空模様だ。
「ミゲルさ」
重々しい空気の中、何とか場を明るくしようとしたその時。
──キィィィィィィン
遠くから金属が擦れるような不快な音が鳴り響いた。
「今のは……なんだ?」
誰が口にしたのかは覚えていない。しかし、この場にいる誰もがそう思っていたはず。
相当遠くから聞こえたような気がする。もしかして、街から……?
「ヤグモ、できるだけ早く街に戻るぞ」
有無を言わせない剣幕でミゲルさんが言う。僕は今までこんなミゲルさんを見たことがない。
「了解」
そこからのヤグモさんは速かった。来た道を引き返し、行きより早く帰路につく。
昨日よりも張り詰めた空気がキャラバンに漂う。
誰からも指示を受けたわけではないが、各々が自分の武器をすぐに構えれる位置に置いている。
僕たち以外に生き物の気配はしない。猛獣はおろか、鳥すら飛んでいない。
一体何が起きているというんだろう。昨日から感じる嫌な予感と関連しているのか、または別の何かなのか。おそらく街に戻れば何かがわかるだろう。
しばらくすると、城壁が見えてきた。しかし、いつもとは様子が違う。
奥から無数の煙を上げているのだ。襲撃か? いったい誰から……。
「カミラ! オキニス! 走るぞ!」
焦ったかのようなミゲルさんの声が聞こえた。
「はい!」
「行くよ!」
僕たちに断るなんて選択肢はなかった。明らかに様子のおかしい街、煙の原因。何一つわからない。
一つ、わかっていることは街がピンチに陥っているということのみ。
僕たちはキャラバンから飛び降り、街へ走っていく。
城壁まであと少しというところで、不可解なものを目にする。
「あれは……巨大な魚? いや、しかし魚は空なんて飛ばないよな」
そう、魚が空を飛んでいたのだ。しかも、ただの魚じゃない。クジラくらいありそうな体躯に、サメのようなフォルム。終いには口からビームを出している。
おそらくあいつが街を破壊したんだろう。
空を周回していた一匹がこちらに狙いを定め、近づいてくる。
目の前に来ると、より一層大きく見えた。しかし、問題なのはその巨体じゃない。
──殺気。
例えるなら、猛獣は殺されるかもしれないという感情が混じっていた。
だがこいつにはそれがない。
まるでお前らには何もできないぞという圧。いうなれば蹂躙。
僕は足がすくんでしまった。殺気にあてられ、身動きが取れない。
──キィィィィィィィィィィィン
またあの音だ。なんだろうと考えていたら、空飛ぶ魚が引き返し、空へと帰っていく。背中に魔法陣のようなものを浮かべながら。
「助かった……のか?」
「……どうやら、そのようだね」
ミゲルさんとカミラさんは額に脂汗を浮かべ、ふぅ、息を吐き緊張を少しずつ解いていく。
「オキニス、大丈夫か?」
「……はい。なんとか」
「なんとか、か。俺もだ」
ミゲルさんからはいつものような軽い雰囲気は感じられない。カミラさんも同様で、険しい表情を浮かべている。
「二人とも、動けるか? 街へ行くぞ」
「ああ」
「はい」
ぐっと足に力を入れ、僕たちは街へ向かった。