街へ
目が覚めたら明け方だった。
最後に記憶があるのは昼前だったので、結構な時間寝ていたみたいだ。
不思議とおなかはすいてない。
「少し外に出てみよう」
太陽が顔を出す前、風が少し冷たく肌を刺激する。
アジト前の庭に出ると、ミゲルさんが空を見上げていた。
「おう、おはようさん。よく寝れたか?」
どうしようかと考えていたら、ミゲルさんから話しかけられた。後ろに目がついてるのかと思うぐらいの反応だ。
「はい、おかげさまでよく寝れました」
「あの後ぐっすりだったからな。よほど疲れていたんだろ」
「自覚はなかったんですけど、そうみたいです」
「疲れってもんは自分ではわかりにくいもんさ。お前さんがゆっくり休めたんならよかったぜ」
「ありがとうございます。それより、どうしてここにいるんですか?」
最初から思っていた疑問をぶつける。
「難しい事じゃないさ。お前さんがここに来る気がしたんだ」
「勘ってやつですか?」
「そう、俺の勘だ。よく当たるんだ」
ミゲルさんはニカッと笑う。まるで少年がいたずらをするような、明るい笑顔だが、ミゲルさんはそれが良く似合っていた。
「今日はカミラに街を案内してもらってくれ。そこで必要なもんもそろえる手筈だ。遠慮すんなよ?」
「何から何までありがとうございます。どう感謝したらいいか……」
「気にすんな。俺らこれでも結構稼いでいるからな」
そうして、僕とミゲルさんは他愛のない話をしながら時を過ごした。
「さて、そろそろあいつらも起きてくる。飯の準備でもしよう」
「はい」
ミゲルさんは軽い足取りでアジトへ向かう。僕はそれに続いて、なるべくペースを合わせるように歩いた。
「おはよう。よく寝れたか?」
キッチンに立っていたのは、ヤグモさんだった。
「おはようございます。おかげさまでよく眠れました」
「そうか。少しだけ待ってくれ。そろそろ朝飯ができる」
「ありがとうございます」
「オキニス、こっちこっち」
そういって手招きするのは、カミラさんだ。
大きな丸いテーブルを囲むように、みんなが座っている。
そのうちの、カミラさんの隣の席に招かれている。
「失礼します」
せっかくなので、招かれている場所に座る。
「ヤグモの作るご飯をおいしいよ。楽しみにしてていいよ」
「楽しみです」
ヤグモさん、繊細なことが得意なのか。御者といい、料理といい、とても意外だ。
「できたぞ」
そこへ、ヤグモさんが朝食を持ってやってきた。
ベーコンエッグとウインナー、それにトーストだ。今までは何も感じなかったが、それを見た瞬間にまるで空腹を思い出したかのようにお腹が鳴り出す。
「おかわりもある。たくさん食え」
「ありがとうございます! いただきます」
そういえば何も食べてなかったな。
ヤグモさんの作ってくれた料理はとてもおいしかった。
「じゃあ、いこっか」
「はい」
カミラさんに連れられて、街へと繰り出す。
ヤグモさんの説明では、迫害を受けていると言われていたが、街は活気に溢れていた。
結構人が多く、行き交う人たちには笑顔が見える。
街全体はきれいで、道も整備されている。馬車も多く走っていて、物流面でも賑わっている。
「結構賑わってるんですね」
「そうだね。ここは地上でも珍しいぐらいに活気に溢れてるんだ」
僕の質問に、カミラさんは答えてくれた。
「いい街ですね」
「そうだろう?」
しばらく歩いていると、目的地に着いた。
「最初に用事だけ済ませたくてね、ちょっと付き合って」
「全然大丈夫ですよ」
商店街に連なる一つのお店で、規模はそこまで大きくない。
「ここは素材屋でね。私たちの採取したもんを買い取ってくれるのさ」
「なるほど……ところで、カミラさんたちは何をしてるんですか?」
ここで、疑問に思っていたことを口にしてみた。
「私たちは猛獣狩りさ。増えた猛獣を狩って持ち帰って解体して、素材屋に売ってるんだよ」
そこまで言って、カミラさんは店内へ入っていく。
「あ、カミラさん!」
店の奥から声がする。
「やぁ、リン。今日も元気だねぇ」
「もちろんです! 元気だけが取り柄なんですから!」
そういう少女はニカッと笑う。
「紹介するよ。この子はリン。この素材屋の看板娘さ。見ての通り元気な子だよ」
「リンです! よろしくです!」
「よろしくお願いします。オキニスです」
リンさんは動きやすそうなカーゴパンツに、半袖のシャツを着ている。頭にはゴーグルがあり、少し癖のある髪の毛を押さえつけている。
「それで、カミラさん。今日は何を売ってくれるんです?」
「今日はこいつさ」
そう言って、カミラさんは鞄からいくつかの素材を取り出した。
「あれ、少なめですね。何かあったんです?」
「まぁね。オニキスと出会ったから途中で切り上げてきたのさ」
「なるほど、オニキスさんは何をされてるんですか?」
リンさんが問いかけてくる。
「それは……」
しかし、僕はそれに答えることができない。答えようがないのだ。
「悪いね、オキニスは記憶喪失だったんだ」
「あっ……すみません、私……」
「いえ、気にしないでください。僕も同じ立場なら同じ質問してますから」
僕は苦笑交じりにそう言う。冷静になって考えてみたら記憶喪失なんて意味が分からない。
「そういっていただけると助かります。これからもよろしくお願いします」
僕とリンさんは握手を交わす。その時、少し心の距離が近づいたような気がした。
一通り街を案内してもらった後、僕たちはアジトへと向かっていた。
「リンは悪い子じゃないんだ。ただ、人との距離が近すぎるというか、結構踏み込んでくる子でね。そこが長所であり短所でもあるんだ」
「はい、そんな感じがしました。とても明るい人でしたね」
「ああ。だから嫌わないでやってくれないか?」
カミラさんは申し訳なさそうに言う。しかし、僕は本当に気にしていない。
「大丈夫ですよ。握手したときに仲良くなれた気がしたんです。だから、僕はリンさんと仲良くなれる気がするんです。あ、もちろん皆さんともですよ?」
リンさんとしか仲良くなれないみたいな言い方になってないか、不安になったので訂正を入れる。
「それは嬉しいね。それにしても、握手したときに感じたのかい?」
「はい。なんていえばいいんでしょう、何かが繋がったような気がしたんです。上手く言葉にできませんが……」
「いや、十分さ。言ってくれてありがとうね」
カミラさんは優しく微笑んで言ってくれた。