勧誘
数日間が過ぎた。僕らは街の復興を手伝っていたり、猛獣の素材を解体したりと目まぐるしい日常を過ごしていた。
「おーい、オキニス。サラと一緒に素材屋に行ってきてくれないか?」
ここ数日、サラさんは部屋にこもって何かをしている。それの気分転換を兼ねているのだろう。
「わかりました」
サラさんはうなずいた後、僕の方へ寄ってきた。
「少し……待ってほしいです」
「全然大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
サラさんは寝れてないのか、目の下に少しクマを作っていた。目も少し充血している気がする。
「30分ぐらいで……戻ります」
そう言って、サラさんは部屋へと向かっていた。
「何してるんだろう……?」
そんなことを考えていたら、口から出てしまった。
「ちょっと頼み事をしてな。ま、そのうち披露するさ」
僕の発言を拾って、答えたのはミゲルさんだ。
「そうなんですね」
僕はそう言うしかなかった。
「お待たせしました」
きっちり30分後、サラさんは再び僕の元へやってきた。
「全然待ってないですよ」
僕は僕で槍のメンテナンスをしていたので、待った感覚はなかった。
「お、今から出発か?」
そこへミゲルさんがやってきた。
「はい」
僕が答え、サラさんがうなずく。
「一つ頼まれてくれないか?」
珍しく真剣なまなざしでミゲルさんは言う。
「なんでしょう?」
「リンを空の旅に誘ってきてくれないか? 別に答えは聞かなくていい。考えておいてくれって伝えるだけでいい」
意図はわからないが、それぐらいなら僕でもできる。
「はい、やってみます」
なぜミゲルさん自身がいかないのか、謎は残るが、何か考えがあるんだろう。今は大人しく従おう。
しばらくして、僕たちはリンさんのいるお店に辿りついた。
街は未だ復興作業中で、リンさんも例外じゃなかった。
「サラさん! オキニスさんも!!」
僕たちに気づいたリンさんが声をかけてくる。
少し遠いところにいたが、小走りで寄ってくる。
「どうしたんです?」
どうしたのかと聞かれたら、少し困る。リンさんのお店は半壊しているので、素材の買取はまだできないだろう。適当にしゃべりに来たというか。
「リンさんに、会いに来ました」
僕が悩んでいると、サラさんが声を出した。
「私に? まだ素材の買取はできませんが……それだとサラさんじゃなくてカミラさんかミゲルさんが来ますよね」
この店によく足を運ぶ二人だろう。僕も、サラさんがここに来るイメージはない。
サラさんがこの後何を言うか、様子を伺っていると困ったような目で僕を見てきた。この後何を言えばいいかわからないといったような感じだ。
「……実は、リンさんに検討してほしいことがあってきたんです」
「私に? なんでしょう? できる限り検討しますよ」
会ったばかりというのに、こう言ってもらえるとは、ミゲルさんたちの信用が大きいと分かる。
「僕たちは近々、旅に出ます。遠い場所に旅立つんです」
僕がそう言ったら、リンさんは目を見開き、少し俯いた。
「そうですか……寂しくなりますね。まだオキニスさんとも話してみたかったんですが」
この後に一緒にどうですかと言ったらどんな顔をするのだろう。好奇心が抑えられない。
「リンさんも僕たちと一緒に来ませんか?」
俯いたリンさんは少しずつ顔を上げた。その顔には困惑の色が見える。
「私も、一緒に?」
信じられないと言うような声色だ。僕も同じ立場なら同じ反応をするだろう。
「そうです。ミゲルさんからリンさんを誘ってくれと言われていまして。なんでかはわからないんですけど、僕もサラさんも、リンさんがいたらとても楽しいと思うんです」
隣でコクコクと頷くサラさん。適当に言ったが、合っていたようだ。
「別に今すぐ答えが欲しいわけじゃないんです。考えてくれるだけで充分です」
そう告げると、リンさんは何とか口を開いた。
「わかり、ました。ちょっと時間が欲しいと思っていたんです。考えておきますね」
先程よりもトーンが落ちていた。余程衝撃を受けたのだろう。
「はい。よろしくお願いします」
俯きながら立ち尽くすリンさんを背に、僕たちはアジトへと向かう。
「よく……わかりましたね」
道中でサラさんが僕に話しかけてきた。
「何がです?」
「リンさんいたら楽しいって……私、言いましたっけ?」
そのことか。適当と言ってしまってもいいのだが、ちゃんと理由がある。
「サラさん、リンさんのところに行く前に僕に待ってくれって言ったじゃないですか」
「……はい」
「ミゲルさんからの頼み事を処理してるのかなって考えていたんですけど、服装が変わっていたので、もしかしたらって思ったんです」
「すごい、です。周りを、よく見てるんですね」
「それほどでもないですよ」
実際8割適当だし。
僕たちの行為が何に繋がるかわからないが、何か意味があるんだろう。ミゲルさんに報告しないと。