プロローグ
お久しぶりです。初めまして
昔、空と地上で世界が分かれた。
大きな地震とともに、浮島が現れたのだ。
突如現れた浮島は、地面から出て留まることを知らず、空へと浮かび上がった。
それは、世界各地で出現し、瞬く間に第二の世界へと変貌を遂げた。
空への進出を許されたのは政治家や大企業の社長、各大統領などの一部の金持ちのみ。
いつしか空を上級国民、地上を下級国民として区別されるようになった。
これは、突如として下級国民の領地に迷い込んだ一人の記憶消失である少年の話。
「ここは……どこだ?」
知らない草原。知らない空。知らない浮島。ここはどこなのか、自分は誰なのかすらも思い出せない。かろうじて、自分の名前を憶えていることが救いか。
すると、視界にすらっとした男性の顔が映る。
「よう、起きたか?」
気さくに話しかけてくる。過去の自分と何かしらの関係があったかと思い、思い出してみようとするが、記憶に靄がかかってるかのように思い出せない。
「あなたは?」
「おっと、すまねぇ。自己紹介がまだだったな。俺はミゲル。幼馴染集団のリーダー的な役をしている。お前さんはなんていうんだ?」
心地よく耳を抜けていく声で、ミゲルは自己紹介を済ませた。
「……オキニス」
「オキニスだな。お前さんはどうして倒れてたんだ?」
どうしてと言われても、自分が聞きたい。自分が何者で、何をしてきたのか。
「わかりません。自分が何をしていたのかも、親の顔すらも」
ミゲルの気さくな接し方がそうさせたのか、何も隠さずそのまましゃべっていた。
あたたかな風が頬を撫でる。
ミゲルは顎に手をやり、少し考えこむ。
「記憶喪失ってやつか。てことは行く当てもないのか?」
「はい」
行く当てなんてあるわけがない。そもそもこの辺に知り合いがいるかどうかもわからないのだ。
「そうか。もしお前さんが良かったら、しばらく俺たちと一緒に来るか?」
願ってもない申し出だ。しかし、見ず知らずの自分にどうしてここまでよくしてくれるのか、少し警戒してしまう。
「いいんですか?」
「まぁ、普通ならよくはないんだろうけどよ。お前さんからは悪いやつの気配がしないんだ。俺の勘がそう告げている」
よくわからない理由でそういわれたが、本当について行っていいものなのだろうか。
「勘で決めるなんて、もし僕が危ない人だったら後悔しますよ?」
「そうだなぁ、詳しくは説明できないんだが、俺は昔から自分の勘を信じるようにしてるんだ。俺の勘は外れない。だから安心してついてきていいぜ」
相当な自身だ。そこまで言うなら、お世話になろう。行く当てもないし。
「すみません、少しの間だけでもいいのでご一緒させてください」
「おうよ。そんじゃ、少し離れたところに仲間たちがいるから、案内するぜ。ちょっと癖の強い連中だが、大丈夫。すぐ馴染むって俺の勘が告げてるんだ」
また勘って言ったよこの人。本当に大丈夫か?
太陽が顔を隠しつつある中、僕たちは草原を少し進んだ。
「ついたぜ」
ミゲルに連れられた場所は、少し開けていて、野営地のようなところになっていた。
「遅かったね、ミゲル」
最初に声を発したのは、ぱっと見美人で、白髪ロングの似合う色気のすごいお姉さんだ。
「ごめんね、自己紹介が遅れた。私はカミラ。堅苦しいのがきらいでね、気安く読んでちょうだい」
落ち着くようなテンションで、カミラは明るく微笑みながら言う。
「オキニスです。よろしくお願いします」
「こいつは記憶喪失らしくてな、多分この世界のこともあまり知らないんだ。だから優しく教えてやってくれ」
この流れだとミゲルさんが教えてくれるんじゃないのか? と不思議な目で見ていたらバツが悪そうにミゲルさんが口を開く。
「すまないが俺は歴史と説明が嫌いでな。他の奴から聞いてくれ」
そうは見えないが、本人がそう言うなら他の人から聞くことにしよう。
そう思い、他の人に目を向ける。
「このちみっこいのがサラ。こいつは難しい事を考えるのが得意でな。うちの生成部門を担当している」
「よろしく……お願いします」
消え入りそうな声で挨拶をするサラさん。
ちみっこいという紹介通り、身長は小さく、整えられた茶髪は清潔感にあふれている。
「そんで、こいつがヤグモ。無口ですこし目つきが悪いが、根はいいやつだ」
「おう。よろしく」
ヤグモさんはすらっとした細身で、体の半分ぐらいの刀を腰に掛けている。
「ちなみに、ヤグモが一番説明がうまいからな。こいつに色々聞くといい」
人は見かけによらずとはこのことか。無口なのに説明がうまいとは、世界は広い。
パチパチ、と焚火の音が周りを包んでいく。それだけではなく、みんなの談笑も聞こえ、とても心地がいい。
みんな気を使ってくれて、時々話題を振ってくれた。しかし、自分は記憶喪失ということもあって、少しだけ離れた位置でみんなのことを見ていた。
「みんな、仲いいだろ」
そんなとき、ヤグモさんが声をかけてくれた。
「そうですね。何も思い出せない僕にも、あんなに仲のいい友人がいたのかなって、感傷に浸ってました」
「そうか、お前は記憶喪失だったな」
ヤグモさんは少し申し訳なさそうな顔で言う。
「全然大丈夫ですよ。自分自身まだ実感がわかないんです」
「そうか。それなら少し俺の話を聞かないか?」
自分一人だとうまく感情がまとまらないので、話してくれるというならありがたい。
「はい、お願いします」
「少し長くなる。わからないことがあれば聞いてくれ」
みんなが談笑している姿を見ながら、落ち着きのある声でヤグモさんが語りだした。
「昔、世界は一つだった。しかし、突然変わった。空に浮かぶ島が見えるか?」
そういって、ヤグモさんは空を見上げる。
「あの島が姿を現した。当時の人類は相当に荒れたらしい。島に行こうとする人、島には近寄らないほうが良いという人」
やや間があって、ヤグモさんは話を続ける。
「最終的に金と権力がある人間が、あの島々に行けた。今ではあそこに住んでいるものが上級国民と呼ばれ、ここ、地上にいる人たちは下級国民と言われている」
ここで、僕は疑問をぶつける。
「島には何があるんですか?」
「それは……わからない。俺ら下級国民は確かめる術がない」
悲しそうな顔をして、ヤグモさんは言う。
「ただ、空賊と呼ばれる輩はいる。上級国民の物資を狙っていたり、たまに地上に降りて物資を奪っている。それと、」
ヤグモさんは少し溜めを作る。
「空には魔物がいるとも言われている。上級国民は独自の技術で島を守っているらしい」
魔物はそこまで脅威じゃないのか、それとも確認されていないのかわからない。それにしても、僕には関係ない話ではありそうだ。
「今日はここまでだな。夜も深い。もう寝よう」
「そうですね」
少し冷え込んだ夜の空気に、ちょっとだけ心地よさを感じた。