シークレット1
ドンという車がぶつかる音がした。
吹き飛ばされる小さな体。
ざわつく人の声。
――交通事故か?
昴はちらりとそちら見た。
――え?
ピンク色に可愛くあしらわれたレース。
見覚えがあるランドセル。
心臓が激しく鳴った。
逆流していく血液。
間違いない。
倒れていたのは妹の加奈だ。自分の姿を見て追いかけてきたのだろう。
「加奈!」
――加奈、頑張れ!
昴はランドセルと荷物を放り投げると止血をする。祈るようで救急車を待つ。
数時間後――。
機械につながれている体。
ピー。
機械的な音が病室に響く。
医師がマッサージを始める。
「先生」
昴は医師の腕を掴む。
加奈が苦しいよ、辛いと言っているようで。
心臓マッサージを止めに入った。
「いいのですか?」
「これ以上、妹と傷つけたくありません」
「分かりました」
八月の暑い日。
午後四時二十五分、加奈、永眠。
よく頑張ったという意味を込めて彼女の髪を梳く。
「手続きなどもありますし、施設の人を呼びましょう」
「お願いします。一つ我儘を言ってもいいですか?」
「一日だけでもいい。加奈を施設に連れて帰ることは可能ですか?」
「今回は特別です。許可しましょう」
「ありがとうございます」
昴は医師に頭を下げた。
児童養護施設「いこいの場」
「昴君、加奈ちゃん!」
施設の子供たちや施設の人が出てくる。
「ご心配をおかけしました」
「少し休めばいいわ。食べられそうな食事を作っておくわね」
「ありがとうございます」
そのまま、自室に入った。
コンコン。
遠慮がちなノックな音。
「はい、どうぞ」
入ってきたのは一人の女の子。
確か、加奈と仲が良かったはずだ。
だから、こうして、昴の元を代表として訪れたのだろう。
「あの……あのね」
もじもじしながら、差し出した。
色とりどりの色紙の花。
そして、施設の皆と撮った写真。
確か、加奈の誕生日会の時の写真だ。
彼女の照れくさそうな――でも、嬉しそうな笑顔で写真に写っている。この時のケーキも施設の人が手作りで用意をしてくれた。
とてた、楽しかった誕生日会だったことを昴は覚えている。
「作ってくれたのか?」
周囲の子たちの態度がぎこちなかったのも、昴に隠れてこの花を作ってくれていたのだろう。
「うん! 皆で作ったの! その方が加奈ちゃんも喜ぶでしょう」
「きっと、加奈も喜ぶよ」
加奈の棺に入れる。
棺の中がとても明るくなったような気がした。