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シークレット・ラブ  作者: 朝海
14/16

シークレット11‐2

「ここはどこ?」

 麻子は見知らぬ部屋で目が覚めた。

 何かの研究装置につながれている人たち。

 バイオ水槽の中で眠っている人もいる。どうやら、どこかの研究施設のようだった。学校帰りに昴と帰る約束をしていたが、男に甘い薬をかがされて気が付いたらここにいた。そのあとの記憶がないことから眠らされていたのだろう。

 麻子は起き上がろうとしたが、乾いた音がした。両手足を鎖で拘束されていることに気が付く。すると、部屋のドアが開き一人の男が入ってきた。

 この男は危険だと本能が訴えている。

 早くここから逃げるべきだと警鐘を鳴らしている。

 だが、拘束されているために動くことができない。

 自分が昴にとって足かせになってしまった。そうなってしまったことが悔しくて仕方がない。

「ああ。目が覚めたのか?」

「ここはどこ? あなたは誰?」

「ここは山奥にある最先端の研究施設だ。それに、私に名前はないこの場所に集まっているのは愛理様の信念に賛同する者ばかりだ」

「私をさらってどうするの?」

 麻子は男を睨む。

「そうだな。愛理様の信念に賛同しない者は徹底的に叩き潰す」

 この男が言っているのはクローンの「コピー」を不良品と見なして、殺していくという愛理の信念を引き継いでいた。彼女の信者みたいなものだ。だから、愛理に不良品と見なされた麻子はいらない存在だった。

 彼女の信念を引き継いだのには理由がある。

 実験使われ恐怖に染まる人たちをみてみたいという快楽からだった。

「私は米田愛理のやり方には賛同できないわ。「コピー」も「オリジナル」も関係ない」

「煩い――黙れ」

 男が彼女のつながれている鎖を乱暴に引っ張った。麻子は痛みに顔をゆがめる。

 ああ、その顔が見たかったのだと男は笑う。

「それに、すぐ助けが来るわ」

「本当にそうだろうか?」

 男は麻子の腕に注射器をさした。薬が注入されていく。じわりじわりと体を蝕んでいく。全体に広がっていく感覚が気持ち悪い。

 心臓が激しく音を立てる。

 にくい頭痛がする。

 吐き気がして呼吸が早くなる。

 いつもより、血の巡りも速いような気がした。

 じんわりと汗も出てくる。

 何の薬と投与されたのだろうか?

 自分はここで死んでしまうのだろうか?

 もう、昴たちと話すことができなくなるのだろうか?

 そんなのは嫌だった。

「何をしたの?」

 その中でも、麻子は気丈に男を睨みつけた。男は彼女の顎を支えると、視線を合わせてにやりと笑う。

 虚ろな瞳。

 その瞳が愛理と重なってしまった。

「大切な人を忘れてしまう薬さ」

「私は負けないわ」

「強がっていられるのは今のうちだ」

 麻子の意識はそこで途切れた。

 数時間後――。

「私は――」

 彼女は瞳を開いた。

 周囲を見渡す。

 ――私は中田麻子。

 中学一年生。

 そこまでは覚えているがそのあとの記憶が思い出せない。まるで、そこの記憶だけが抜け落ちているようだった。

 自分には必要ないといわんばかりに。

「麻子」

 麻子は名前を呼ばれて振り返と、一人の男が立っていた。

「ご主人様」

 本能がこの人が主人だと悟っている。

「そうだ。私がお前の主人だ」

「私は何をすればいいのでしょうか?」

「この男を殺してこい」

 ――桜井昴。

 写真に写っているのは一人の男子生徒。

 真面目そうな印象だ。

「――分かりました」

 麻子は男からナイフを受けと取るとふらふらと歩き出した。



「――麻子?」

 名前を呼ばれて麻子は歩いていた足を止めた。目標である昴がこちらを見ている。

 ナイフを出されるとはおもっていなかった彼は、大きく目を開く。

 麻子が駆け寄ってきた。

 彼女を正気に戻そうとした瞬間。

 ずぶり。

 麻子は昴の腹にナイフを突き立てた。彼女はそのまま、フラフラと歩き出す。

 しんわりとした熱。

 痛み。

 刺されたのだと理解した。

 昴のその場に倒れこんだ。

 必死に麻子に手を伸ばした。

 ――行くな。

 行くな、麻子。

 ――行ったらダメだ。

 戻ってこい。

 だが、伸ばした手は彼女に届くことはない。伸ばされた手が力なくおろされる。

 彼女を元の麻子に戻さなければいけない。食いしばって動こうとするが、体がいうことをきかない。

 自分の体ではないようだ。

 コンクリートの道に爪をたてる。

 混濁する意識に抵抗するように。

「昴君!?」

 すると、丁度遊びに来ていた琥珀、雄二、幸美が駆け寄ってきた。救急車を待つよりも車で病院に向かった方が速い。雄二がすぐに車を回してくる。

 さすが、いつも一緒に仕事をしているだけある。

 てきぱきと動き動作も手慣れた者だった。

「あ……さこが」

「無理をしなくてもいいから!」

「い……も……あ……と違っていた」

 ――いつもの麻子と違っていた。

 肩で息をしながら言葉を絞り出す。

 昴が敬語でないのも、それなりの信頼関係があるからだった。昴も麻子も自分たちには懐いてくれている。それが、幸美も琥珀もうれしかった。

「違っていた?」

「う……ん。目に……がなかった」

 ――目に力がなかった。

 昴が血を吐き出す。

 限界が近いようだ。

 これ以上、無理をさせるわけにはいかない。

「昴君。もういいわ」

「お願い……調べてほしい」

 彼が止血をしている琥珀の腕を掴む。

 今、残っている自分の力を振り絞っているのだろう。

「分かったわ。だから、今は休みなさい」

 幸美の力強い声に安心したのか昴は瞳を閉じた。


 情報屋カフェ「縁」

 この男ですねとマスターは幸美、琥珀、雄二にパソコンを向けた。パソコンには一人の男の情報が記載されている。

 米田愛理の思想を受け継いだ科学者だった。残党だと考えてもいいだろう。こんな男をこの世に残しておくなんて危険すぎる。また、どこで人を殺すか分からない。愛理を逮捕すれば終わると考えていたが読みが甘かったようだ。

 ピロン

 すると、パソコンが音を立てた。

 映し出されたのは赤い点。

 赤い点はここから数キロ離れた山の中を示していた。どうやら、米田愛理を追っていた時にマスターが渡していた位置装置の機械が作動したらしい。

 昴が麻子につけたらしかった。

 麻子を失いたくない。

 彼の咄嗟の判断だろう。

 子供たちが挫けることなく戦おうとしているのだ。それに、大人が応えなければいけないだろう。見守る力も必要になってくる。

 昴と麻子を見捨てるほど薄情ではない。

 ならば、共に戦おうではないか。

 迷惑だと言われても手を伸ばそうではないか。

 笑顔溢れる未来のために。

 信じてくれている二人のために。

 それが、できないのなら警察官になった意味がない。

「昴君がつけたのかな?」

「そのようだな」

「彼、大丈夫かな?」

 まだ、意識は戻っていない。

「昴君を信じよう」

 あとは、病院に任せて自分たちはあの男を追跡しよう。

 琥珀、雄二、幸美は車に乗り込んだ。


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