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シークレット・ラブ  作者: 朝海
12/16

シークレット10

 ――りさん、―りさん、愛理さん。

 ――私を呼んでいるのは誰?

 愛理は真っ暗な場所で目が覚めた。

 光も何もない。

 あるのは暗闇だけ。

 自分は精神病棟の鎖につながれていたはずなのに。

 なぜ、ここにいるのだろうか?

 この場所は何のだろうか?

 すると、光の粒子が集まって人に形になった。

 暖かな光。

 この人なら大丈夫。

 なぜか、そんな安心感があった。

 姿を見せたのは中田麻子の「オリジナル」のクローンである桜井加奈。

 学校の制服を着て。

 髪はお団子にしてある。

 恐らく、死んだ時の姿なのだろう。

「桜井加奈?」

「私のことを知っていてくれて嬉しいわ」

 加奈はにっこりと笑う。

 無邪気な笑顔は小学一年生そのもの。

「あなたが私に何の用なの?」

 麻子と昴と重なってしまいむかつくが、話を聞いてみようと思った。不思議と話を聞いた方がいいと本能がいっていた。

加奈に誘導されて椅子に座る。

 なんだか、丸め込まれているような気がした。

「愛理さんは人間としていきたくない?」

「どういう意味?」

「私はここの番人なの」

 加奈曰くここはクローンが人間に戻れる場所なのだという。

 それが、何なのだというのだ。

 精神病棟に入れられて食事も喉を通らないし、まともに眠れていない。

 あとは死を待つだけ。

「だから、何なのよ? 何のために私を呼んだの?」

「何とね!」

 加奈がピッと指を立てる。

 もったいぶる言い方にイラッとくる。

「早く言いなさいよ」

「クローンとしての記憶を消して、人間として生まれ変われるの! お兄ちゃんたちもあなたのことを覚えていないわ」

「――は?」

 予想外の言葉に愛理は間抜けな声を出した。

 私に赤ん坊からやり直せというのか?

 聞き間違いではないだろうか?

「あれ?」

 ここに来た場合、皆食いついてくるというのに。

 何か気に食わないことでも言っただろうか?

 加奈は瞳を瞬かせた。

「私には無理よ! だって居場所がないのだもの」

「うん。だから、生まれ変わって新しい家族と幸せになるの!」

「勝手に決めないでよ!」

「大丈夫! 次は必ず幸せになるから」

 不意に空間が歪んだ。

 浮かんでくる映像。

 ――ねぇ、あなた!

 私、妊娠したわ!

 ――男の子か? 女の子か!

 ――女の子よ!

 ――よっしゃ、よくやった!

 ――名前を考えないといけないわね。

 ――俺、つけたい名前がある。

 ――聞いてもいいかしら?

 ――海を元気に走り回れる意味を込めて「渚」。

 ――渚か。

 ――いい名前ね。

 ――三人で幸せになろうな。

 ――楽しみだわ。

 映し出されたのは、二人の夫婦。

 嬉しそうで幸せそうな家族だった。

 キラキラとして希望に満ち溢れている。

 ここの家庭の子供に生まれ変われるのだろうか?

 どちらにしろ、眩しすぎて見ていられない。

 自分の居場所とは違いすぎる。

 愛理は視線を逸らした。

 いつの間にか、映像は消えていた。

「それに、今の私はどうなるのよ?」

「見て!」

 再び映像が映し出された。

 鎖につながれている惨めな自分が見える。

 次の瞬間――愛理の体がサラサラと崩れていく。

 まるで、最初からいなかったかのように。

 魔法を見ているようで彼女は目を見張った。

「き……えた?」

「そう。これで、あなたのことは誰も覚えていないわ。だからね――」

 力を使って麻子、昴、琥珀、幸美、雄二の記憶を消したのだという。

 加奈が愛理の背中をドンッと押す。

 ――幸せになって!

 愛理はぽっかりと開いた大きな穴に飲み込まれていった。

 それから、一年後――。

 おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ!

 一人の女の子の産声が響いた。

「お父さん、お母さん、おめでとうございます! 元気な女の子ですよ」

 女性が子供を抱っこする。

 彼女の名前は「野田渚」。

 渚と名付けられた女の子が、今、ここに誕生した。


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