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シークレット・ラブ  作者: 朝海
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シークレット9

昴と麻子は学校帰りに車の中に閉じ込められた。手足をロープで縛られて目と口をガムテープでふさがれる。きっと、米田家だけが所有している部屋にでも連れていかれるのだろう。

 計画通りすぎて笑いたくなるが何とか堪える。

 どれぐらい乗ったのだろうか?

 感覚は分からないが車が止まる。

 ほら歩けよと背中を押された。目と口にしているガムテープがとられる。部屋のライトの眩しさに昴と麻子は、瞳を細めた。

 その背後には雄二が立っている。

「中田さん、桜井君。いらっしゃい」

 愛理がにっこりと笑う。

 さぁ、どのように使っていこうか?

 記憶を消し「コピー」を殺すための殺人クローンとして育てるのもいいだろう。

「米田さん、あなたかわいそうな人ね」

「かわいそう? 私が?」

「気に入った人に相手にされないなんてかわいそう」

「家族の言いなりの人生なんてつまらない人生だな」

「何よ! 二人揃って私に説教するつもりなの? うっとうしい。今、ここで、死んで!」

 愛理がナイフを振りかざした。

 カラ、カラ、カラン。

 ナイフが床に落ちる音がする。

 雄二が愛理の手を掴んでいた。

「止めろ」

「とう……さん?」

 雄二は私の味方ではなかったのだろうか?

 唯一の理解者ではなかったのだろうか?

 なぜ、止めようとしている?

 愛理が信じられないといった顔になる。その傷ついた顔を見てすっきりとした。

 それに、今までの行動と言動からして愛理はかなり短気な性格だ。彼女がいつ攻めてくるか分からないので、今回の作戦自体時間もなく急ピッチで立てられた。

 その分、強引な部分がある。それなのに、愛理はこんな単純な罠に引っかかったのだ。まさか、彼女も大人たちの手で踊らされているとは思ってもいないだろう。

 すると、操られたように愛理の足が勝手に動き始めた。踏ん張ろうとしたが止まらない。

 くるり、くるり。

 くるり、くるり。

 糸につながれた機械(マリオット)人形のように回り続ける。切り落としても糸は絡みつき纏わりついてくる。

 あははは。

 フフフフフ。

 壊れた笑い声とともに。

 ――あなたたちは何なのよ!

 ――私たち?

 ――あなたに殺されたクローン「コピー」の成れの果てよ。

 機械的な声が響く。

 機械人形に囲まれた。

 ――私は悪くないわ!

 ――あら。

 反省をしないのね。

 ――なら、罰を受けてもらわないとね。

 プツリ。

 ようやく、そこで糸が切れる。

 体が自由になる。

 そのまま、ズルズルと座り込んだ。愛理は無理矢理腕を引っ張れて現実に引き戻された。あたりを見渡しても、親から与えられた当たり障りのないマンションの一室だ。

 無様に舞台で踊っている自分などどこにもいない。それに、雄二や昴、麻子には見えてないようである。

 ――よかった。

 あれは夢だったのね。

 愛理は周囲に悟られないように、緩く息を吐き出した。


「私の芝居はここまでだ」

 次の瞬間。

 カチャリ。

 雄二が彼女の手に手錠をかけた。

 冷たい鉄の感触。

 まるで、逃がさないと言っているかのように。

 機械人形たちが言っている「罰」がこのことなのだろうか?

 手錠を外そうとするが、カチャカチャと乾いた音がするだけだ。

「父さん、何のつもりなの?」

「ここまで来て、気が付かないとは。私は潜入捜査官だ」

 クローン対策警察特別室。

 警部・中田雄二。

 米田雄二なんかではない。

 ただ、役を演じていただけだ。

 これが、「彼」の本当の姿。

 雄二が昴と麻子のロープを切った。あの時、向けられた雄二の優しい瞳と応援の言葉は、こういうことだったのかと麻子は納得をした。

「父さん、裏切るの!」

 愛理は雄二を睨みつけた。

「裏切るも何も私はこの道のプロだ。なめられたものだな」

「でも、お母さんがお姉ちゃんを殺した時に見殺しにしたじゃない! 何もしなかったじゃない!」

「私が何かしら?」

 聞きなれた声。

 愛理は背後を振り返った。

「お姉……ちゃん?」

 みずきに殺されたように見せたあの日。

 クローンの専門家の医者にところに、予防のために行ったが何の異変もなかった。だから、こうして、ここにいる。生活をしている。

「さすが、雄二さん。名演技だったわ」

「まさ……か」

「そのまさかよ」

 幸美も警察手帳を広げる。

 クローン対策警察特別室・副室長。

 警部補・米田幸美。

「いやよ! いやよ! お姉ちゃん、助けて!」

 愛理が叫ぶ。

「都合のいい時だけお姉ちゃんと飛ばないでくれるかしら?」

「だって、私のお姉ちゃんでしょ! 助けなさいよ!」

「ああ、そうだ。言い忘れていたわ。いいことを教えてあげる」

 幸美が愛理の隣に立った。

 ――私、本当はあなたのことが大嫌いなの。

 私のことをお姉ちゃんと思っているのはあなただけよ。

 桜色の唇が毒を吐く。

 幸美の甘く優美な声。

 ――さようなら。

 そして、ふ、と笑った。 

「そんなの嘘よ! 嘘だと言って! だって、お姉ちゃんは私のことを大切にしてくれたもの!」

「これは、現実よ。受け入れなさい」

「顔も見たくない。連れて行ってくれ」

 雄二が待機していた警察官に愛理を引き渡す。幸美は先に帰るわねと声をかける。その場の空気を読んだようだ。


「君が桜井昴君だな」

「はい」

「暫くの間、麻子を頼む」

「一つ聞きたいことがあります。中田教授。あなたは本当にクローンの研究をしていたのですか?」

 こうして見ると、クローンの研究をしているとは思えない。

 娘を思う親という印象しかなかった。

「桜井君。君は賢い子だな。私がやっていたのは、見せかけの実験だよ。政府のやり方に嫌気がさしてね。実験に使われていた子供たちに投入していたのはただのビタミン剤だ」

 政府から実験のために送られてきた子供たちはこっそり解放をした。

 クローンを作るよりも今ある命を優先したのだ。

 子供たちのために。

 もちろん、家に帰ったとしてもトラウマが残るだろう。カウンセラーの手続きもしていた。つまり、雄二は政府のやり方に反旗を翻したことになる。

 それでも、守りたいものを守る。

 正義感が強い雄二らしかった。

 これから、尋問などもあり、忙しくなるだろう。今は麻子のことを昴に託すしかない。

「よかった。よかったわ。父さんが犯罪に手を染めてなくて」

 麻子がポロポロと涙を流す。

 昴の細い指が彼女の涙を掬い取った。

「麻子。私が帰るまで時間がかかると思う。昴君と待っていてくれるか?」

「当たり前じゃない! 父さんの居場所はここよ」

「それを、聞いて安心した。ありがとう、麻子」

「だから、お礼を言うことじゃないの! 家族として当然よ!」

「行ってくる」

 麻子と昴は雄二を見送った。

「僕たちも行こうか?」

「ええ」

 二人は部屋を出ると歩き始めた。


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