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オリバーの足を踏んでやろう 

「クレア・・・」



私が顔を上げると、悲しそうな顔でこちらを見つめるオリバー(元カレ)とジュリア(元カレの従妹)。


ああ、もう来ないと油断していた。


私が下を向いて溜息が出そうになった時に、ジュリアの声が聞こえた。



「クレア、ごめんなさい・・・。私のせいで、オリバーと喧嘩して別れるって聞いて・・・。私はそんなつもりはなかったんだけど、私のせいで嫌な思いをさせているってオリバーが言って・・・」



私が事務所に顔を向けると、残業していた同僚が私に気付き急いで所長室に入って行くのが見えた。ジュリアの方を見ると、目を潤ませて口元に手を持ってウルウルしている。


その仕草が可愛いと思うのはハムスターだけだと思う。



「分かったわ。で、何の用?私とオリバーは別れた。貴女とももう関係ないわよね?私、この後、所長と用事があって忙しいの」


「っ!!そんな言い方しなくても!謝ってるんじゃない!なんで優しくないの?」


「そうだ、クレア。俺らは行き違いがあったんだ。別れなくてもいいんじゃないか?ジュリアはこうやって謝ってるんだ。俺達が結婚したらジュリアは君の親戚になるんだぞ?」


「「は?」」



オリバーの言葉にジュリアと私の声が被った。


私は目を丸くしながらオリバーを見ると恥ずかしそうにこちらを見ている。


何、その頬を染めた顔。


近くにいた女の子が「キャー」と言ってこちらを見ている。


私もそっち側に行って、一緒に「キャー」と言いたい。


私がオリバーを見ていると、オリバーの眼が少し潤んで、眼のふちも少し赤かった。オリバーが恥ずかしそうに口を開いた。



「今回、クレアから別れを切り出されて、改めて俺の中でクレアの事が大切だって気付いたんだ。クレアの同僚も言ってただろう?クレアの気持ちに寄り添えって。だから俺は、クレアを一番に考えるよ。クレアはしっかり働いているし、可愛いし気遣いも出来る。ジュリアのせいで嫌な思いをさせたと思うけれど、ジュリアもちゃんと自分の事は自分でする。クレアがジュリアの世話をする事もない。クレアは俺の事だけでいいから。ジュリアも成人して一年も過ぎたし、ジュリアももうすぐ俺の家を出て行く。だからクレアとジュリアが一緒に住むこともない」



オリバーはキラキラした目で私を見ている。



「クレアは俺の事をよく理解しているし、俺だってクレアの事はよく理解している。俺はクレアとの時間もよく取っていただろう?デートの時の服装だって、クレアが恥ずかしくない様にちゃんと色々教えてあげていた。ほら、お互いが寄り添っていける。クレアも仕事を続けたらいい。その方がお互い好きな事も出来る」



オリバーとジュリアのせいで人が集まり出してしまっている。



「なあ、クレア。仲直りしよう。そして俺と結婚をしよう」


「「「キャー」」」


キャーじゃないわよ・・・。


オリバーは、私の前に手を差し出した。


ナニコレ。


私は白目をむきたくなった。気絶が出来るならもうしたい。


初めてのプロポーズなのに・・・。


別れ話からなんでプロポーズになるの?


もう、思い切り頭を事務所の壁にぶつけて気絶しようかしら。


所長、所長、早く来て!!


私が心の中で所長の召喚を唱え、オリバー達に何も答えないとジュリアがプルプルと震えながら喋り出した。



「オリバー?どういう事?私があの家を出て行くって。なんでクレアと結婚するの?別れたんでしょ?だからスッキリ別れる為に私が謝って、これからもクレアは良い友人で私達二人を助けてくれるんじゃないの?オリバー、クレアの様な芋女より私の方がいいでしょ?」



芋?ジュリア、芋って言った?


まあ、芋は美味しいからいいけど。


私は怒る気も失せて、事務所の窓を覗こうとするが、人垣が出来て上手く見えない。



「何を言ってるんだ?クレアはいつも薄化粧なだけで芋なんかじゃないよ。ジュリアは確かに可愛いけど、化粧が濃いよ。一緒に暮らしているから、化粧前に会うと驚いてしまうしね」


「な!!酷い!」



オリバーの言い草に、周りの人もクスクス笑っている。ジュリアの顔はかーっと赤くなった。



「そもそも、ジュリアの世話は学園を卒業するまでって叔父さんとうちの父で取り決めていただろう?君は王都の学園に編入する為に、うちに来ただろ?ただ君の卒業後、叔父さんからもう1年だけってお金が振り込まれたんだ。父も困ったけど、王都の方が進学にしても就職にしても君が探せるだろうって。君も一緒に聞いていたじゃないか」



オリバーは不思議そうにジュリアを見て、何を今さら、という感じで話している。


「そんな・・・。酷い、オリバー・・・。可愛い従妹って言ってくれてたじゃない!」


「ああ。それは変わらないよ?でも、ジュリアはそろそろ自立した方がいいんじゃないかな?」



私が二人を眺めていると、ジュリアはオリバーの腕に手を置いた。



「そんな事言わないで!オリバー。私、家を出されたらどうしていいか分からないわ。オリバーから伯父様に頼んで。だって私従妹でしょう?」


「ああ。そうしたい気持ちもあるけれど、無理だよ。君も聞いていただろう?それに進学か就職が決まらなくても、家を出ても住む所はあるよ。叔父さんの知り合いの所に就職できそうだって、昨日父が手紙を貰っていたよ。良かったね。君の地元のトーガー商会って所らしいよ。僕達の結婚式には来れるように招待状は贈るからね」


「はあ!?トーガー商会ですって?まさか、あの醜男の店?嫌よ!!意地悪女もいるのよ!?ね、オリバー、クレアとは別れたんでしょう?私と付き合ってよ!田舎に戻るなんて嫌よ!王都にずっと住みたいのよ!」



オリバーは驚いて、ジュリアの手を払いのけた。



「何を言ってるんだ?俺はクレアと結婚するんだぞ?俺が好きなのはクレアだ。ジュリアと付き合うなんて考えた事もないよ。ジュリアは家事も何もしないじゃないか。従妹ならいいけど、俺の言う事も何も聞かない恋人なんていらないよ。母さんもクレアの様なタイプの方が好きだからね。クレアは可愛いし、家事も仕事も出来る上に俺の仕事も手伝えるんだよ?」


「え・・・。そんな・・・」



二人はそれぞれショックを受けている。


いつの間にか、オリバーの中で私との結婚は決定になっているようだけど、どうなっているの?私は結婚してオリバーの世話と、家事と仕事をするって事?その上、仕事の手伝いまでやっぱりさせるの?オリバーの実家に住むのは決定なの?


冗談じゃない。あ、それにしても所長、来るの遅くないかしら。


私がそう思っていると、オリバーが私の手を握り自分の方へグイッと寄せた。


私は思わずオリバーに倒れ掛かってしまった。



「な!!!」



ジュリアはそんな私達を見て、ワナワナと震えている。



「ふう。ごめんよ、ジュリア。君がそんな風に俺の事を見ていたなんて・・・。でも、俺にはクレアがいるから」



申し訳なさそうにジュリアに告げるオリバーだが、なんだか芝居くさい。


私はオリバーとの身体を離そうと力を入れて距離を取ろうとするが、オリバーは私よりも力が強い。私はオリバーを睨みつけて「ちょっと!!止めて!!離れて!!」と、身体を押した。



「クレア・・・。照れなくてもいいよ?恥ずかしいの?クレアは小さくて可愛いね」



ふお゙お゙お゙!!!!!


ぶあっと鳥肌が立ったわよ!!


今なら私、飛べるんじゃないかしら・・・。


いや、羽を毟られた鳥か・・・。墜ちるしかないのか・・・。


そうか・・・、飛べないならオリバーの足を踏んでやろう。


私が本気を出せば、きっとオリバーの足を粉砕出来るはず!


私は思い切り足を上げてオリバーの足を踏み抜こうとした。


すると、グンッと身体が押され、バランスを崩したまま私が足を下ろしたところにはオリバーの足は無く、後ろから「パシュン」と音がして、オリバーと私の間に1メートル程氷の壁が出来ていた。



「大丈夫ですか、バーキントン嬢」



私のすぐ前に現れたのは筆頭魔術士のローブだった。










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