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気持ちをさらけ出して 

逃がさない、話をしようと言ったディラン様を私は睨んだ。


怖い。だけど、私だって、怒っているんだ。


目を逸らさないようにディラン様を睨み続けた。


私の顔を見て、ディラン様は眉間に皺を寄せると「ふー」と息を吐き、「ああ、くそ」と言った。



ディラン様がくそと言った?汚い言葉も使うんだ、と私はディラン様を驚いて見つめると、ディラン様は目を逸らしたまま、「王妃様との約束が・・・」とか「一ヵ月の休暇手当が・・・」とぶつぶつ言い、「ふーーーー」っともう一度大きく息を吐いて、「怖がらせてすまない。クレア嬢は笑顔の方がいい。手を前に出してくれ」と言った。


?だらけでもなぜか体は動き、ディラン様に言われた通りに手を前に出すと、「両手を。嫌がる事はしない」と言われたので自分の前に両手を上げた。



「いい子だ」



そう言う声は少し先程よりは柔らかくなっていたが、私は睨んだままだった。


ディラン様は私が差し出した両手を片手で握り、空いたもう片方の手で私の髪の毛を触り始めた。


私の髪をいじりながらもじーっと私の顔を見ている。私は目を逸らして自分のつま先を見ていた。



「クレア嬢?」


「・・・はい」


「私は君の事が好きだ」


「は・・・本当に?」


「ああ、勿論。どんな君でも好ましい。が、私は君には笑っていて欲しいと思う。私の横で美味しい物を食べて目を細めて笑う姿が見たい。何度も言うが君に嫌われる事はしたくないし、言いたくはない。だから、そうやって睨まないでくれ。君に嫌われる事が一番怖い」



私の顔をじーっと見ながら話している。


私の頬をゆっくりとディラン様は指でなぞるが、優しい仕草とは裏腹に眼はちっとも笑っていない。


空気もピリピリとしたまま。でも、怒ってない事が分かった。


ゆっくりと髪を撫でられ、耳に掛けられた。



「今度、髪飾りを買おう。ここを留めると可愛いと思う」と言われ、手を引かれてオニール様は私を立たせるともう一度引っ張り、私はオニール様の脚の間にポスンと収まった。


後ろから抱きしめられて、髪の毛をゆっくりといじられている。


私は自分の手を握って後ろを振り向けずに、じっとしているが、どうしたらいいのだろうか。



「この家はクレア嬢と一緒にすごそうと思って購入した。屋敷では広すぎるし、父上がいる。クレア嬢の職場にも近く治安もいい。隣との距離も適度にあり、隣人は身元がしっかりとした人ばかりだ。部屋数は少ないが、日当たりのいいバルコニーがある」



私の髪を編んでいるオニール様の声を聞きながら私はこの部屋に入ってくるまでの間取りを思い出していた。


屋敷と言うよりは小さいだろうけれど、十分に家族で住める広さだと思う。


髪の毛をいじるのに飽きたのか、ディラン様は三つ編みを二本作ると手を離し、今度は首をつつーっと爪で触り出した。


振り向きたいけど振り向けない。


一緒に住む家なんて初めて聞いた。同棲するなんて聞いていない。



「アパートの荷物はすぐに移そう。ここから仕事場に通える。必要なら警護もつけよう。私は暫くは屋敷と半々の暮らしになるだろう」


「あ」



別邸。



私はサーっと血の気が引いて行くのが分かった。寒いのに震えもしない。頭が冷えて行くのが分かる。もう、何も感じない。


ああ。そう言う事。


貴族や、金持ちの人が愛人を自分の家とは別に住まわせる家。


私はぽろぽろと涙がこぼれた。


ああ、やっぱり。やっぱり。やっぱり!



「ふうううーーー!!」


「な!どうした?泣く程この家が嫌だったか?」


「嫌!」


「そうか!なら別の家にしよう!今日だけはここで許してくれ!そうだ!もっと大きな家を買おう?衣装室も作ろう!嫌なんて言わないでくれ。ただ、今日だけはここですごそう。ゆっくり話をする場所が必要だ」


「なんで、私が住む場所をディラン様が決めるんですか?私の家はあります」


「・・・それは・・・。勝手に決めて悪かった!ただ、あそこだと二人で住むのは狭いだろう?ああ、そうか、カーテンだな?カーテンは一緒に決めよう!歩いて買いに行こう!おそろいのカップも買おう!」



オロオロとディラン様が私の涙をぬぐうが、なんでカーテンを一緒に買いに行くのか分からない。



「い、嫌!!」


「クレア嬢・・・。何が嫌なんだ?まさか家ではなく私の事が?なんだ?どこだ?私に不満があるなら言って欲しい。髪か?顔か?何が欲しい?どうすればいい?」



ディラン様の周りの空気が凍っていく。


空気がぐにゃりとゆがんで見えて、ドアも凍っていた。私の吐く息が白く、ディラン様の赤い眼がゆらゆらと燃えるように見えた。


私をジッとみる眼は怖そうと周りに言われるだけあって鋭いし、声も低くて怒っている様に聞こえる。なのに、よく見ると、不安そうに眼が揺れてる。


「ふうう」っと言いながら息をゆっくりと吐くとディラン様を見つめ、声が震えない様に喋った。



「ディラン様はど、どういう、つもりで、ここに、私を、住まわせ、るんで、すか?私は、聞いて、ません」



白い息を吐きながらどうにかディラン様に訊ねると、ディラン様は首を傾げて答えた。



「すまない。勝手に決めて悪かった」



私はディラン様を見上げた。ディラン様は身体をかがめ、私の頭にコツンと自分の頭をくっつけた。ディラン様は「少しも離れたくないんだ」と言った後に、



「私の仕事上、中々会う時間がない。だから朝、夕だけでも一緒にすごせる時間が欲しかった。そうする為には一緒に住むことがいいと思った」


ディラン様は「クレア嬢が望むなら私はクレア嬢の部屋でもいいが」と言って、頭を離すと、ぎゅっと私を抱きしめた。


「私は出張が多いだろう?クレア嬢を一人にするのは不安だ。私の屋敷でも、と思ったがクレア嬢は嫌だと思ったんだ」


私はディラン様の魔力のせいなのか、緊張が解けてきたせいなのか、涙がまた出そうになった。


「泣き顔も可愛いが、泣かなくていい」と言って、目元にキスをすると「何が嫌なんだ?」と改めて聞かれた。私は訳が分からず、首を横にぶんぶん振ると「よしよし」と言ってディラン様に頭を撫でられた。


「父上も最初は二人きりですごした方がいいと言われた。落ち着けば屋敷をクレア嬢の好きに改装しながら子供部屋を作ったらいいと。子供と一緒に遊ぶ、お爺様の部屋と言うのを作って欲しいと言われたが」


ゆっくりと頭を撫でる手は優しい。撫でられていると眠たくなってきた。顔も熱くて頭も緊張と泣きすぎでぼーっとしてしまっている。そこをディラン様が優しく撫でるから、私はだんだん気持ちよくなってきた。


「私は・・・。この家が嫌ではなくて・・・。ディラン様が、帰る家が、この家じゃないと思ったのが嫌だったんです・・・。同棲を勝手に決めたのも、嫌・・・」


「すまない。次からはちゃんと聞く。全部クレア嬢が決めていい。許してくれ」



ディラン様は優しくて紳士な凄い魔術士だと思ってたけど、自分勝手で我儘に振る舞うのに、不安がってオロオロする人。


ぎゅうぎゅうと私を抱きしめながら「私の事は嫌じゃないんだな?」と言っているディラン様を可愛いと思う私はおかしいのかもしれない。


怖い人であるのは間違いないと思う、でも可愛いと思うなんて、やっぱり私はディラン様が好きなんだ。



「あの。ディラン様。私は、ディラン様が、好きです」



私が目を閉じてディラン様の胸におでこをくっつけて呟くと、ディラン様は固まった。


ピシリという感じで。



「可愛い。ディラン様」



私がそう言うとパリンと言う音がして、私の頭の上にパラパラと氷が降ってくるのが分かった。



「あ?は?え?私が?クレアたんじゃなくて?」


「私はディラン様が好きなのに・・・、ディラン様の恋人は私だけですか?・・・私はいつまでの恋人なの?私はディラン様だけなのに・・・。私は、ここで待つだけなの?」


「え?は?クレアたん?待て、一体?あ、もう一度」



私は身体がふわっと軽くなる気がすると、もう眠たくなって、そこからはウトウトと話し出した。



「なんで・・・ディラン様・・・。愛人・・・嫌・・・」


「は?」


「・・・」


「くそ!魔力酔いか!クレアたん?!もう少し・・・話・・・クレ・・・」



私の呼び方が変だなと思いながら、ディラン様の声がだんだん遠くになり、私はそこで力尽きてしまった。


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