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兄の忠告 

ディラン様とお付き合いを始めて二週間が経った。


とても順調だと思う。


つい先日、お互いの休みが合わないままディラン様は出張に行ってしまったが、毎日魔鳩のやり取りはしている。


仕事が休みの今日は、ディラン様に魔鳩を飛ばした後はのんびりとしていて、昼食をどうしようか考えているとドアがノックされた。


トントン。


誰かしら?と思いながら、「はーい。どなたですか?」と言って鍵をカチャリと開けると、バン!!っと勢いよくドアが開けられた。



「わ!!」


「こら!クレア!しっかり確認をして鍵を開けろ!!」


「お兄ちゃん!!びっくりした・・・」


「なんだ!その恰好は!はしたない!そんな恰好でドアを開けるな!」


「ええ・・。開けたのはお兄ちゃんなのに。理不尽」


「なんだと?クレアが鍵を開けると、こうやってすぐに入ってこれるんだぞ?強盗や変質者がきたらどうするんだ!」



私の頭をポンっと触ると「元気にしていたか?」と言い兄は部屋を見回し、ずかずかと入って来た。


膝が隠れる丈の少しくたびれたワンピースを部屋着にしているだけなのに。はしたないなんてひどい。ただ、これ以上文句は言われたくないので私はエプロンを掴んで急いで着けた。



「私は元気よ。お兄ちゃんは元気?お兄ちゃんは今日はこっちで仕事?」


「俺は元気だ。クレア、食事はしっかりとってるな?果物とパンを買ってきたぞ。偏った食事はとってないか?少し痩せたか?今から食事か?」


「痩せてないわ。ちゃんと食べてるわよ。で、今日は王都に泊まるの?私の部屋に泊まっていく?お昼、スープならあるけど」



兄は部屋を見回すと、窓を開けキョロキョロと見回りキッチンの奥とシャワー室まで見ると戻ってきて椅子に座った。



「うん、問題はないようだな。明日の朝からこっちで仕事になってな。さっき王都に着いたんだ。仕事はどうだ?オリバーとはどうなんだ?」


「え?あ、うん」



私は少し顔を赤くしながらコクコクと頷いた。兄は私の顔色を見ながら片眉を上げると、ゆっくりと頬杖をつき、「ほおぅ?」っと言って私に椅子を指さした。


この間あった時は「最近、少し太ったな」と言ってお腹を触って笑っていた兄だけど、どちらかと言うとガッチリムッチリしている。その、ガチムチの兄がニコリと笑って椅子を指さすのは怖い。普段は優しい熊みたいな人だけど、圧がかかると怖い。



「クレア?全部話してみろ」


「え?本当に大丈夫よ?」


「クレア?いいから吐け」


「そんな。妹を犯罪者みたいに・・・」



兄は王国軍団の隊員だから、尋問もお手の物だ。国の治安維持に尽力をしている兄に頻繁に会う事は出来ないが、王都で仕事がある時はこうやって私の所にいつも来てくれる。


事前に連絡が無いのは抜き打ち検査だと思うが。


年が離れている兄は忙しい父母に代わって私を背負って遊んでくれて可愛がってくれた。兄が軍団隊員になってもお菓子を買ってくれたり休みには公園に連れて行ってくれた。私の進路の相談に乗ってくれ、入学式にも仕事で来れない父母の代わりに来てくれた。


そんな兄の過保護は父と母が私の就職を見届けた後、事故で亡くなってしまってから加速した。



「オリバーと何かあったのか?」


「最近、オリバーと別れたの。で、別の方と付き合う事になったの。良い人よ」


「は?オリバーは幾らかマシだと思ったが何かあったのか?困った時はちゃんと言えって言ったろ?もう次の男がいるのか?俺はそんなふしだらな妹に育てた覚えはないぞ?」


「いや、あの。色々あってね?話すと長くなるから。オリバーの事はもういいの。別れ話の時にね、助けて貰って。その人、所長の紹介で前から私を好きでいてくれてたらしいの。で、私がまだ、気持ちが追い付かなくてもいいって言ってくれて、お付き合いを始めたのよ。とても素敵で優しい人なの」


「は?どこのどいつだ?」



私は悪い事をしていないのに、姿勢を正して兄に話していく。



「ディラン・オニール様です」


「はあ?」



兄は頭を抱えて蹲った。



「お兄ちゃん知ってる?」


「知らない隊員はいないだろう?同姓同名なのか?それとも本当に筆頭魔術士の?」


「筆頭魔術士のオニール様です」


「本当に?死神で、オニール侯爵家の?」


「うん、死神の。でも優しい人よ」


「そうか・・・。相手から言われたのか?で、お前の所長も間に入ってるのか?」


「うん」



「はああっ」と大きなため息を吐いた後、兄は「うーん」と言って腕組みをした。私はどうしていいのか分からず「お茶を淹れるね」と言って立ち上がると、兄は黙って頷いた。


お茶を淹れながら兄の方をチラチラを見るが、兄は何かブツブツ言い、魔鳩を出しては何処かに飛ばしていた。



「お兄ちゃん、ディラン様は紳士な方よ?とても良い方だと思う。所長の紹介だし。だからお兄ちゃんが心配するような事はないかと」


「お前は。いいか、男は獣だ!外面よく生きているんだ!それにオニール侯爵家だぞ・・・。お前の所の所長も貴族だろ?俺らと感覚が違うんだ。あ!お前、まさか、愛人なのか?」


「は!?」



お茶を兄に出しながら私は驚いてしまい、お茶を零しそうになった。



「私が愛人?」


「はあーーーー。いいか?俺らは平民だ。今は昔ほど家柄を煩く言う事はないだろうがな。それでも、ディラン・オニール様は侯爵家を継がれる方だ。それに古くからの家柄で、王家からの覚えも目出度い。公爵家や王族と縁を組んでもおかしくないんだぞ。平民であれば大商人で大金持ちの娘ならまだわかる。他国との交易も結べるからな。だから普通の平民のお前が側に呼ばれるのは遊び相手、愛人だ」


「え、そんな・・・」


「どんな話で付き合う事になったんだ」



兄は「はあ」と溜息を着きながらお茶を飲んで、可哀そうな子を見る目で私を見ていた。


兄の言葉が頭の中で回る。


愛人?


私、愛人?そりゃ、付き合ったばかりで結婚なんて話は出てないけれど、初めからそういう目的だったと思うと悲しい。


私はオリバーと別れる経緯を話し、ディラン様との出会いや付き合った事を兄に話した。


兄は相槌を打ちながら、席を立ち窓を叩いている魔鳩を受け取っていた。



「そうか。成程な。お前の所長とも話が出来るかな」


「お兄ちゃん、所長は悪くないよ?」


「いや、話を聞くだけだ。妹を愛人候補として紹介してるかもしれないんだぞ?」


「・・・」


「愛人の話を抜きにしても、俺はオニール様はやめておいた方がいいと思う。学園時代に科は違ったが一年に凄い奴が入って来たと話題になった。俺達とは世界が違いすぎる。お前が不幸になるだけだ。それに、お前もいい年だ。そろそろ結婚を考えて、ちゃんとした人と付き合え。軍団隊員でいいなら紹介が出来るが」


「え」


「俺はお前に幸せになって欲しいんだ。泣いて暮らして欲しくないんだ。幸せな家族を持って欲しい。筆頭魔術士なら家を空ける事も多い。それに貴族同士の付き合いもあるだろ。お前が貴族の家を切り盛り出来るのか?社交界なんて言うのもあるんだぞ?早めに別れろ」


「・・・」


「さ、飯を食おう。ゆっくり考えてみろ。俺だってこんな風に言いたくはない。でもお前は何回も駄目な男に騙されただろ?」


「うん・・・」



兄は席を立ち慣れた様子で食器の準備をして、残っていたスープを温め買ってきたパンを皿に出した。



「俺の家族はもうお前だけだからな。頼むから心配を掛けないでくれ。大切な妹には幸せになって欲しいんだ」


「うん、分かってる。お兄ちゃんには私も幸せになって欲しい」


「そうか、じゃあ、食おう」



私は黙ってパンを切り、兄の前に差し出すと二人で昼食をとった。


最近の兄の様子を聞いて、私はエマの話をして食事を終えるとソファーに兄の寝具を置いた。



「一週間程王都にいる。宿舎に泊まる事も出来るが、夜はここに来てもいいか?」


「うん。夕食の準備はしておくから」


「そうか。有難う。帰る場所があるのはいいな。一度詰所に顔を出してくる。夕方には戻る」


食事を終えると兄は私の頭を撫で、「いってくる」と言って部屋を出ていった。


「いってらっしゃい」



私が兄の背中に言うと、ドアは閉まり、私は自分の部屋に行きベッドにボスンと飛び込んだ。



「どうしよう・・・」



顔を覆って、目を瞑ったがいい考えは浮かばなかった。

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