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今度のペンは壊れない 

ディラン様とのブレスコでのランチは本当に美味しかった。


スペシャルランチにスペシャルデザート。


もう本当に美味しくて、今度のボーナスが出たらまた来ようと思った。


予約を早めにしておこう。


オニール様が私を名前呼びをしたいと言われた時から、告白の返事を言わなきゃ、とそわそわドキドキしているが、言うタイミングが分からない。


食事中に「告白の返事は?」なんて聞かれるかな?と思ったけれど、何も聞かれないまま食事が終わり、デザートも食べ終わってしまった。


まさか、告白は無かった事になんてなってないわよね?



「さ、少し散歩をしよう。王立公園の方を歩くのはどうだろうか?今は花が綺麗なようだ」


「はい」



私が返事をすると、ディラン様はすっと手を出してくれてゆっくりと立ち上がらせてくれた。その後も、手は繋がれたままで、ここでも会計はせずにディラン様はサインだけすると店を出た


お金持ちって私の常識と違うんだな、と思った。


ハナが言っていた意味が少し分かった。


チラッと斜め上を見ると、ディラン様の長い髪と少し細い眼が見えた。


今日の朝まではディラン様と付き合おうと思っていた。でも、今日のデートで自分とディラン様の生きている世界が全然違う事を知った。不安が大きい。


ディラン様は貴族で、魔術士で、お金持ちで、優しい。


私は休憩時間に食堂にサンドイッチを食べに行って、売店のお菓子の新商品が出たら嬉しくて買うのが楽しみな魔力が無い事務員。


エマから言われた言葉も響く。


結局、私の自信がないんじゃないかって。ダメな男を選んだのは私自身。だから私の方にも責任がある。


私のペースで歩くディラン様は長い脚をゆっくりと動かしていた。足の長さも違う。


ディラン様は一つ一つが優しい。


怖いって皆が言ったりしていたけど、眼つきが鋭いだけでとても優しいと思う。


ペンだって、壊したって正直に言ってくれたもの。


所長から「昨夜、ディランが来た時に、クレアが落としてたペンを踏んで壊したんだよ」って言われた時にはオニール様からの謝罪の魔鳩が事務所に届いていた。


あのペンはもう捨てようかと思ってたのに。


店員さんも壊れやすい物だって言ってたから気にしなくて良かったのに。


新しいペンにとてもいい物を選んでくれた。


私達は手を繋いで黙って公園迄歩いて、ディラン様が屋台の甘いお茶を買ってくれてそれを手に四阿に座った。



「疲れてないだろうか?」


「平気です。歩くのは好きですから」



「そうか、歩くのが好きなのか」と言いながら、オニール様は四阿のベンチにハンカチを広げてくれた。


こうやって、何も言わなくてもハンカチを置いてくれたり、お茶を買ってくれる。


今迄と違いすぎて、私の頭はパンクしそう。


ディラン様のハンカチと私のスカートの値段だったらハンカチの方が高いと言う事もあり得る。


私はハンカチに「お尻が乗りますよ、ごめんね」と申し訳なく思いながら座って、ディラン様を見た。



「良い天気で良かった」


「あの。ディラン様。お付き合いの事なんですが」



私が話し出すとディラン様はコップをゆっくりと私の方に一つ置き、眼を少し大きくして頷かれた。



「正直、自信が無いのです。私は平民で、普通の事務員です。ディラン様は貴族で、お金持ちで、筆頭魔術士で、優しい方ですし」


「え?もう一度?」


「正直自信が」


「あ、そこではなくもう少し先から」



ディラン様は私の手を取ってにっこりと微笑んだ。大きな手に私の手がすっぽりと包まれて本当に恥ずかしい。



「ディラン様は・・お金持ちで・・、貴族で・・・。えっと、なんて言ったかしら・・・。素敵で、優しい?」


「あ。うん。もう閉じ込めよう。鍵は三つだな」


「あ、違いました?お金持ち?だったかな?そうそう、筆頭魔術士です」


「うん、一番奥の部屋がいいな。で、なんの問題が?」



私はディラン様の方を向き直って顔を上げた。


ディラン様はずっと私の手を包んで、もう片方の手で優しく撫でている。ドキドキが聞こえるんじゃないかしら。


馬鹿みたいに顔も赤くなって、口の中がカラカラだ。



「あの。私はディラン様の事がまだ好きかどうか分かりません!」


「大丈夫だ。「まだ」なんだな。問題ない」


「ああう・・・」


「自信が無くてもいい。不安に思うのなら言って欲しい。取り除けるように努力しよう」


「ああ。うう」


「お互いが知らない同士でもお互いが知ろうとしていけば問題ない。それに私はクレア嬢の事なら何でも知りたい」


「おおお」


「私はクレア嬢がいい」



なんで、ディラン様は言い切れるんだろう。


凄いな。と思いながら、私は手を強く握った。



「ディラン様。その。宜しくお願い・・・し・・ま・・す」


「ああ。好きだ」



ディラン様はゆっくりと手を握り返してくれると、ふふっと笑ってくれた。


私が少し目を上に上げると、少し細い目がもっと細められた。


なんだか恥ずかしくて、私はキュッと目を瞑って下を向いた。



「このまま閉じ込めたいな」


「え?」


「いや、いけない。そんなに可愛い顔をしては。ああ、そうだ。これを渡しておこう。付き合い始めた記念にもなった」


「先程の?」


「揃いのペンだ」



ディラン様はペンを包みから一本出すと、自分の分は胸元のポケットに刺した。



「有難うございます。大切にします。」


「今度は壊れない。例え足で踏みつけても壊れないように強化の魔法をかけておこう」



ディラン様は杖を出すと、私のペンに向かって杖を振るった。


キラキラがペンに降って、とても綺麗。



「ふふ。誰も踏みつけたりしませんよ。ああ、でも落として石が割れたりしないのは良い事ですね」


「そうだな。誰も踏んだりはしないだろう。まあ、踏むような足は切り落とせばいい」


「え?ふふ。ディラン様も冗談を言うのですね」



私が顔を上げて笑うとディラン様は「そうかな?」と言って私の左手を握ったままだった。



「あの、ディラン様。私とディラン様の出会いっていつなんですか?」


「大分前、クレア嬢が学生の時に魔術士を助けた事があったろう?魔術の授業で魔術士の実践を見る期間の時だ。その時に学園の図書館の裏で具合の悪い魔術士を治療室に連れて行ってくれただろう?それが私だ。あの時はとても危険な状態だったんだ。そして一年以上前になるが、クレア嬢の事務所の近くでぶつかった魔術士がいただろう。その魔術士の落とした書類が飛ばされたのを生垣の中まで一緒に探してくれた。それも私だ」


「え?あの魔術士がオニール様?オニール様とローブの色も髪の色も違ってましたよ?何色だったかは覚えてないですが」



学生時代の時はうっすらとしか覚えてないけれど、一年位前にあった事はなんとなく覚えている。でも、オニール様のローブの色じゃなかったし、オニール様と会ったのなら覚えているはず。


私が不思議そうな顔をしていると、オニール様は頷かれた。



「一年前は仕事の関係上ローブは一般魔術士の物を着ていたし、髪も目の色も変えていた」


「凄い、そんな事が出来るんですね」


「ああ。秘密だ。だからこれを知ってしまったクレア嬢はとても大変な機密事項を知ってしまった事になる。私の為にも秘密にして欲しい」


「え!そんな事を喋ったら駄目ですよ。あ、でも、誰にも言わない様にします」



私がそう言って、コクコクと頷くと、ディラン様は優しく私の手をなぞって、自分の口元に持ってくると、指にチュッとキスをした。


「約束だ」


「あい!」



変な声で返事をしてしまった。ディラン様は私の様子に目を細めると「ああ、噛んでしまいたいな」と言って、ニコリと笑った。


「分かりました!秘密、秘密ですね!はい!」


「うん、嬉しい。痕をつけたいな」



私はゆっくりとなぞられる手にゾワゾワしながら、壊れた人形の様にコクコク頷く。



「私は助けて貰ったのはクレア嬢が初めてだった。大体が遠巻きにされ誰も私に近寄ってはこない。それなのに、クレア嬢は二度も助けてくれた。あれからずっと好きだ」



私の心臓はドキドキともう煩い。


ああ。チョロいとエマやハナに言われそう。



「具合の悪い人を治療室に連れて行ったり、探し物を一緒に探しただけですよ?」


「うん、そうだろうな。でも、好きだ」



私は空いた右手でお茶を飲んで、その後はたわいもない話をして、綺麗だという評判の花を見て、アパート迄送って貰った。







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