02 規格外
我が家の安全闘技場で、無双乙女騎士たちが何かいたすようです。
もちろん、見逃す手は無い。
なんせ知り合いの女騎士さんたち全員、
めっちゃ強いは当たり前、
見目麗しくて凛々しい規格外の乙女騎士揃い。
何をしでかすのかは分からないけど、
これを見逃すなんて、俺の『モンスター』がすたるってもんだぜ。
「それでは、闘技場をお借りします」
シェルカさんが、興奮した様子で、礼。
「しばし、お騒がせします」
シスカさんが、真剣な表情で、礼。
「アランは、どうするのだ」
リリシアが、興奮を抑えきれないといった表情で、俺を見つめる。
「俺は、少し離れたところで見学させてもらうよ」
クルゼス王国に里帰りしていたシェルカさんが、先日戻ってきた。
何やら向こうで大暴れしたらしいのだが、詳しいことは後でカミス君から教えてもらおうかな。
なぜシェルカさん本人から聞かないのかは、彼女を良く知っている人だったら理解してもらえるはず。
えーと、ものすごく綺麗でものすごく性格が真っ直ぐな女性って、対面することそれ自体が大変なのですよ。
ましてや興味本位で「里帰りで大暴れしてきたそうですね」なんて、面と向かって聞けるわけないって。
で、そのシェルカさん、こちらに戻ってくる際に、いろいろ頑張っちゃってクルゼス城の宝物庫から秘宝の盾を持ち出してきたそうなんです。
そっちの件もすごく気になるけど、やっぱり詳しくはカミス君から、だよな。
で、いまシスカさんが手にしている、真っ白でシンプルな盾がまさにそれ。
『守り手の片翼』と呼ばれている、伝説級の秘宝だそうです。
見た目は真っ白で装飾的なものは何も無い、言っちゃなんだが地味な盾。
なぜシスカさんが装備してるのかと言うと、
彼女の愛用してる片手剣も『守り手の片翼』だから。
つまり、伝説級の秘宝がシスカさんの元に、ふたつそろっちゃった状態。
なんだけど、特に変わった様子は……
「今まさに、我々は"伝説"を目撃しているのですっ」
シェルカさんは、すごく興奮しているけど。
「使い手を選ぶ『片翼』が、シスカさんにその身を任せている事こそが何よりの証し!」
何だか言い方がアレですよ、シェルカさん。
「それでは、始めましょうかっ」
シェルカさんとシスカさんがスッと向かい合い、戦闘準備開始。
いずれ劣らぬ凛々しさの女騎士ふたり、
気を込めて構えた、その凛とした立ち姿、
凛々しさ二倍どころじゃないぞコレ、
すんげぇゾクゾクする。
「目付きがアレだぞ、アラン」
すまんリリシア、目が離せないんだよ。
その、いろんなところから……
「今、私たちが完全武装である事を、忘れずに、な」
……剣より先に、釘を刺されちゃったよ。
「行きますっ」
シェルカさんが、シスカさんへ向けて容赦無く降り下ろした剣撃は、
「!?」
全員が、唖然。
例の盾で受けたシスカさんは、あれ程の勢いの剣撃なのに、全く動ぜず。
「衝撃が、全く無いのだが……」
きょとんとしているシスカさん。
何だか可愛らしいですね、普段は絶対にお目にかかれないその表情。
その後、数回試してみたが、いずれも結果は同様。
どうやらあの盾は、物理的な衝撃を完璧に吸収してしまう模様。
魔法攻撃も防げるのか試したかったけど、
攻撃魔法が得意な娘さんたちは、現在任務で出払っております。
「シェルカさんは、この凄まじい能力はご存知無かったのですか」
リリシアの問いに、シェルカさんも戸惑い顔。
「闘いの場であの盾を構える事が出来た騎士は皆無」
「耐久試験の際は、壁に立てかけるか地面に置いて、でしたので……」
初めて判明した衝撃の事実ってとこかな。
って、あれ?
シスカさんの様子が……
「失礼っ」
シスカさんが慌てた様子で片手剣を振ると、
って、なんだそりゃっ。
剣から出た衝撃波で、このクッソ硬い地面が裂けちゃったよ。
「申し訳無い、剣に何かが溜まっているような妙な感触に、つい我慢出来ず……」
もしかして、さっきまでの盾への攻撃の衝撃が全部、あの片手剣に溜まっちゃってたとか。
「やはりこの秘宝たちは、私には過ぎたものでは……」
えーと、困惑顔も素敵ですよ、シスカさん。
「確かその片手剣は、シスカさんの願いに応じて力の有り様を変えられるはず」
「シスカさんほどの騎士であれば、必ずやその強大な力を御する事が出来ましょうっ」
シェルカさん、めっちゃ嬉しそうな笑顔。
「今ここに、ふたつの秘宝とシスカさんが一堂に会したことこそ、正に運命」
リリシア、感無量の表情。
「私に出来ることは、ただ精進あるのみ、ですね」
シスカさん、覚悟の表情。
三者三様の凛々しい女騎士、ここに三人揃い踏み、
皆晴れ晴れとした面持ち、凛とした笑顔。
そして俺だけ、ただひたすらに場違い感。
えーと、絶対に壊れないはずの闘技場の地面が、
規格外の威力のせいで裂けちゃってるんだけど、
アリシエラさんから怒られちゃったりしないかな。
ネコしっぽ、ピーンって立たせたりしちゃってさ。