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凄まじい剣技

 最後は"デュラブルグリズリー"だな。

 デュラブルと名称が付いた通り、並外れた耐久性を持つ魔物って話だ。

 肉を切らせて骨を断つような戦い方をしてくるかもしれないな。


 だが、その程度なら"グランドオグル"のほうが遥かに厄介だ。

 肉体的に強靭な相手は、技を使わなければ剣が通らない。

 今回試した倒し方とは別の対処法を見つけておいたほうがいいかもしれないな。


 あの頭目はオグルを真っ先に仕掛け、俺たちが疲弊しきったところにボアとベアの波状攻撃を狙った可能性が高い。

 残念ながら、その目論見は露と消えることになると思うが。


 グリズリーの魔物だろうと、クマはクマ。

 生物である以上、"一閃"に耐えられるとは考えにくい。


 ……武器は衝撃に耐えられずに砕きかねないから、気をつける必要はあるが。


 剣を犠牲にすればどんな相手でも倒せるだろうが、せっかくもらった剣をむざむざ折るわけにもいかないし、一振りの剣を傷つけずに使い続けることも鍛錬になるからな。

 なるべく硬いものは打撃のみで倒したほうがいいだろう。



 猛スピードで突っ込んでくるクマを見据えながら、まずは確実に倒して周囲の安全を確保することを優先しようと気持ちを入れ替える。


 こげ茶で体高が約140センチ。

 まるで膨れ上がった筋肉の鎧を纏っているように見えた。

 こんなに大きかったのかと思えてしまうが、考えれば動物園のクマとは明らかに違うだろうし、これほど間近で見たことのない俺が違和感を覚えるのも当然だな。


 大きく飛びかかってくるかと思ったが、勢いをつけたまま右前足を振り上げた攻撃動作に思わずため息が出そうになった。


 所詮はクマか。

 直線的な攻撃しかできないんじゃ、相手にもならない。

 せめて強靭な足腰を使って、足元で力を溜めた後に放つ一撃なら相当の強さを感じるだけの攻撃になるんだが、クマに何を言ったところで通じないから考えるだけ無駄だな。


 右前足が振り下ろされるよりも速く行動に移る。

 "明鏡止水"で強化された身体能力を最大限に使い、クマの真横を一瞬で通り抜けながら喉元に剣を通した。

 噴き出す雫を浴びないよう多少奥へ進みつつ、地面に血振りをして鞘へ納めた。


 一葉(ひとつば)流武術・絶ノ型、"紫電一閃(しでんいっせん)"。

 本気で使えば雷を連想する剣閃が直線状に伸びる美しい技だが、その威力はとても笑えないほどの強烈な威力を秘めている。


 同時にこの技は"明鏡止水"を使う状態で放つものだから、一般人が極限まで肉体を鍛え上げたものを遥かに凌駕する速度を叩き出す。

 剣閃が見えたと知覚した瞬間にはもう斬られている(・・・・・・・・)ほどの凄まじい速度で襲い掛かる、軽々しく使うこともできない恐ろしい技となる。


 こんな技、人間を相手に使えるはずもなく、教えてくれた父も生涯使うことはないだろうと笑いながら話していたほどの凄まじい剣技だ。


 古武術として現代まで脈々と継承される"一葉流"が、大昔の戦場ではためらいなく使われていたのかと思うと恐ろしくてたまらないが、元々武術ってのは武道とは違い、より効率良く人を殺めるために編み出された武芸のことだと聞くし、それを恐ろしく思える俺は平和な世界に生まれ育てたことを証明しているんだろうな。


 気配は絶命寸前だが、転がるクマに視線を向ける。

 手応えもしっかりと感じたから起き上がることはない。

 だが、斬撃と刺突耐性を持つグランドオグルは厄介だと再認識できた。


 異常と言えるほどの硬さを持つ表皮は、直線的な行動ばかりをするイノシシや耐久だけ優れた程度のクマを遥かに凌いでるのは間違いなさそうだ。

 今回は所持していなかったが、情報じゃ大木を片手で振り回せるだけの握力と筋力を持つみたいだから、持ち前の巨体から繰り出される攻撃範囲の広さを考慮すれば魔法による遠距離攻撃での討伐が妥当か。


 たったの一撃で優勢を一気に傾かせ、全滅すら考え得る最悪の状況を一瞬で導きかねない危険な相手だったと、改めて思えた。


 あんなのがゴロゴロと森の奥にいるんじゃ怖くてパルムにいられないと考える町民も多いだろうが、相当特殊な魔物みたいだし、そう何度も遭遇するような魔物でもないのが救いだ。

 本音を言えば、この世界の住人がどうやってあれを倒すのかは興味深いが、恐らくは数名の犠牲を払うことでようやく倒せるような化け物なのかもしれないな。


 ……それを単独で倒した俺にも返ってくる話になるし、こういったことはあまり考えないようにしよう。


 しかし、森を含むラウッカの林の調査はしっかりとする必要がある。

 ついでに盗賊団の残党も壊滅させれば、魔物を呼び寄せる植物"ヴィレムス"の群生地を片付けやすくなる。

 いずれは周囲に生える希少な薬草も手軽に入手できるだろうから、そうなればパルムはようやく落ち着きを取り戻すはずだ。


 それは俺でなくてもいいだろうし、必要とされることもなさそうだな。

 町で美味いものでも食いながら、ゆっくりサウルさんたちを待とう。


 周囲の索敵に魔物と動物の気配もなくなっていた。

 どうやら危険種どもの威圧に逃げ出したみたいだな。


 俺の行動が他のチームに迷惑をかけてないといいが、ともあれ"森の厄介者"もついでに排除できたことは重畳か。

 森には貴重な薬草だけじゃなく、キノコや野草などの資源も豊富だろうし、随分とパルムが潤っていくはずだ。



 ……いや、その前にやるべきことがあるか。

 連中の拠点が発見できなければ、そこに残党が隠れ住むかもしれない。

 そうなれば濃霧を利用して襲い掛かってくるだろうから、まずはその調査をするべきだろうか。


 このまま町に戻るか。

 それとも残党が態勢を立て直す前に林の調査に向かうか。


 まずはウルマスさんに魔物討伐の報告と、指示を仰ぐことが先だな。

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