表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/300

どうせなら楽しもう

 城下町を歩いていると、気付かされたことが多かった。

 どうやら看板の文字からも、ここが異世界であるのは間違いなさそうだ。


 ……なぜ見たこともない文字が読めるだけじゃなく、行き交う言葉が通じるのかは気になるところだが、答えの出ない疑問を考え続ける必要もない。


 町並みは古いヨーロッパを連想させる建造物が多いことから、"過去に飛ばされた"可能性も考えたが、実際に魔法なんてものが存在するとは思えない。


 ともあれ、まずは目的を決めよう。

 そうすることで何かが変わるわけでもないが、ただ闇雲に歩き続けるよりはいいだろう。


 折角の異世界だ。

 どうせなら楽しもう。


 海外に憧れはあったし、何よりもここは映画の中にいるような感覚になる中世ヨーロッパを思い起こさせる町並みだからな。

 剣と魔法の世界なのは十分に気を付けるべきだが、そこまで悲観しなくていい。


 随分とムカつく扱いはされたが、それはすべてあの"豚王"のせいだ。

 この国に生きる人たちすべてに害意がないことは理解できたのだから、そこを間違えてはいけない。



 中年の騎士にもらったコインの価値はまだ想像することしかできないが、まずはこれを資金に最低限必要な食料品と水、それを入れるバッグくらいは買えることを祈ろう。


 武具よりも優先するべきは食料品だ。

 町と町の間がどれほど離れているのかも調べる必要がある。

 準備を怠って旅立てば数日で"詰む"可能性が出るからな。

 旅には金もかかるのだから、ある程度は稼がないとまずい。


 それに勇者が召喚された事実を軽く捉えないほうがいい。

 最低でも魔王と呼ばれる存在がいることや、他国との戦争に使われる可能性も考慮すると、多国間同士の諍いに巻き込まれないように行動する必要がある。


 その点、勇者召喚されたとはいえ放逐されるほどの"無能力者"なら、勇者ではないと判断していいはずだ。

 事情を軽々しく話すわけにもいかないが、信頼の置ける理解者を見つけることも俺には必要かもしれない。

 これについては街道を歩きながら考えていこう。


 この世界は、俺たち(・・・)のいた日本とは違う法則で動いている。

 魔法なんてものが存在してる時点で、十分に警戒するべきだ。



 幸い、中年騎士から様々な情報をもらえた。

 彼は"西を目指せ"と教えてくれたが、周辺の町については話さなかった。


 これは恐らく"言う必要がなかった"と解釈していいと、俺には思えた。

 でなければ食料品も水もない状態で放り出すような非道を見過ごすことになる。


 涼しい顔でそんなことをできるような人ではない。

 彼はこの国でもきっと稀と言えるほど少ない"本物の騎士"なのだろう。

 盲目的に命令を遂行するのではなく、何が正しいのかを理解した上で自分ができる限界点まで力を貸してくれた。


 それがどれだけ危険な行為なのかは、聞かなくても分かるつもりだ。

 下手をすれば一家が罪人として裁かれるかもしれない危険な状況下で、それでも力を尽くそうとしてくれた善意の行動がどれだけ凄いことなのか、残念ながら横にいた若い騎士には分からないんだろうな。


 彼の伝えてくれた情報を、俺は頭に入れ直すように思い出した。


 今夜は雨が降るかもしれない。

 街道を逸れると盗賊が出る。

 近いうちに森へ討伐隊が派遣される。


 雨が降れば視界は悪くなり、悪党は人を襲いやすくなる。

 さらには体力を低下させ、雨の間は移動を阻害されかねない。


 つまり、"その隙を狙う輩も出る"、という意味になる。

 それも王国騎士団が派遣されるほどの厄介な強さを持った"敵"が森を集団で徘徊している可能性が高く、単独で歩こうものなら狙ってください(・・・・・・・)と言っているようなものだ。


 視界の悪い場所は危険なことくらいは理解していたが、どうもこの周辺には悪党が多いイメージがついてしまった。

 なるべく街道からは外れないほうがいいだろうな。


 ここからは草原と街道しか見えないが、少し歩けば森が見えてくるはずだ。

 盗賊以外は若手冒険者でも対処ができる強さの魔物が闊歩する程度なら、本格的な実戦経験のない俺でも対処ができる。

 ゴブリンがファンタジー世界でおなじみの強さなのかも確認する必要があるし、町まで出遭わなければ一度戦わなければならないな。


 危険思想を持ちそうな帝国を避け、このまま街道沿いに西を目指そう。

 この国が敵視してる北東の帝国とは関わらないほうがいい。

 "帝国"と名のついた国に、いいイメージなんて付きにくいからな。


 もうじき正午になるとも彼は言っていた。

 もしかしたら、"夕方過ぎに王都で見かければ逮捕する"とは、夕方になれば隣の町につくことを暗示しているのかもしれない。


 なるべく早歩きで町を目指し、宿を取る。

 翌日は最低限必要な食料品と水、それらを入れるバッグの確保をしよう。



 勇者が召喚されたのであれば、最低でも他国との戦争に利用されるか、それとも魔王と呼ばれる者が目論む"世界征服"を阻止させようとしているのか。

 その場合は人類存亡の危機となりかねないが、それは何もこの国でなければ情報が得られないわけじゃないんだから、他国に向かいながら調べればいいことだ。


 どちらにしても、この国に滞在し続ければ危険なことになる可能性が高い上に、この世界は俺たちのいた日本とはまったく違う法則で動いている。

 "魔法"なんて未知の力が存在してる時点で警戒するべきだ。


 危険思想を持ちそうな帝国を避け、まずは西の国を目指そう。

 評価を入れてくださり、心より感謝いたします。

 アクセス数が前作終了前の20分の1になっていますので若干挫折しそうでしたが、今後の励みとしての活力に繋がりました。


 本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ