伝説の勇者と無能力者
「おぉ!!
この輝きは歴代勇者の中でも圧倒的な力を持つと言われる"金色"!!
まごうことなき"伝説の勇者"でございますぞ!!」
嬉々とした表情で王に語りかける男。
その瞳の色からは狂気を感じた。
「まぁ、俺からすれば当然だな!
魔王なんざ、俺の剣でぶった切ってやんよ!」
こちらもこちらで嬉しそうだが、一条に関しては危機感を覚える。
先ほどの言動も相まって、このまま魔王討伐に向かえば危険だ。
最悪の場合は帰らぬことになりかねないと俺は思うが、素直に忠告を聞き入れてくれるような男でもない。
ましてや同い年の男に注意されても理解できないだろう。
むしろ自尊心を深く傷つける結果になることも考えられる。
この先訪れるだろう俺への扱いよりも、一条のほうが遥かに危うい。
しかし、現状でそれを正しく伝え、考えを改めさせるのは難しそうだ。
なんとか上手く伝える術はないものか。
そう考えながら俺は魔水晶とやらに手を添える。
……その後に起きた事象、いや、起きなかったと表現するほうが正しいか。
やたらと怒号のような言葉が飛び交う謁見室で、俺は他人事のようにそれらを適当に受け流しながら、今後取るべき行動について思案を巡らせていた。
どの道、考えたところでいい案が生まれるはずもなく、結局は一条に指をさされながら爆笑されることになるんだが。
それにしても、勝手に呼び寄せといて偽物だとか、挙句の果てには魔王の息がかかった者だのはさすがに聞くに堪えない罵詈雑言だった。
品性の欠片を感じない言葉が飛び交う中、ついには腹を抱えて笑いだした男に呆れながら事の成り行きを見守る。
ここで行動を起こすとロクなことにならないだろうからな。
幸い俺は処刑ではなく、"王都追放"の刑で済むようだ。
俺にとっては好都合だが、一条と離れることは気が引けた。
「鎮まれ!!
勇者でもない者が偉大なる王の御座す場に同席することなどまかりならん!!
即刻王都から追放せよ!!!」
「ぶははは!!
じゃあな鳴宮!!
お前の代わりにこの勇者様が世界を救ってやんよ!!」
ふたりの衛兵に腕を強く掴まれ、強制退室をさせられる俺の姿を見ながら、一条は終始ゲラゲラと笑っていた。
その声は謁見室につけられた重々しい扉を閉じられた後も耳に届き、俺は何とも言えない気持ちにさせられた。
……ったく。
他人事だと思って爆笑しやがって。
それに、勇者になれることってのはそんなに嬉しいものなのか?
正直よく分からないし、少なくとも知りもしない世界のために命がけで戦うなんて、俺にはできそうもないが……。
一条があまり頭の切れるタイプじゃないのは分かってるつもりだが、これまでのことに何の疑問も持たないどころか、幼少期から待ち望んだ冒険が今にも始まると考えていそうな輝きを瞳に宿すのは、現状から導き出される情報や言動としては軽率な思考だとしか俺には思えなかった。
……いや、俺が特殊なのかもしれない。
彼の取った行動こそが、一般的な高校生だと言えるんだろうか……。
ため息を小さくつきながら、ふたりの兵士に腕を掴まれたまま王城を後にした。
……体よく使い捨てられるなよ。
少なくともこの国に長居し続ければ、ロクなことにならない。
本質を見抜く目を養い、研鑽を積み続けろ。
勇者と呼ばれる者の中でも最高の資質が備わっているのなら、この世界の誰よりも強くなれるはずだ。
一国と敵対しても対処できるだけの隔絶した強さにまで到達できれば、誰もお前に危害を加えられなくなる。
でなければ、後ろから刺されかねないぞ。
同郷の俺だけが唯一の味方かもしれないんだ。
……悪いな、一条。
あとは自分自身で何とかしてくれ。