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確かに受け取ったよ

 俺たちがこの世界へ召喚された理由も分かった。

 そして、何の目的で呼ばれたのかも。


 想定外だったのは"降り立った場所"だ。

 これまでの話から魔王が強引に引き込んだことは間違いない。

 異界と異界を繋げるトンネルのような場所から引きずり込んだ(・・・・・・・)とも言えるか。


 ともかく魔王は"光の魔力を使える勇者"を手中に収め、リヒテンベルグを護る結界を無効化させるために一条を利用しようと画策した。

 光の結界は、魔王も手が出せないからだ。


 だが、それを阻止しようと一役買った人物がいる。

 ラウヴォラ王国騎士団長のレフティ・カイラだ。


 彼女が王国最強と呼ばれる所以も、アイナさんやレイラと同じなんだろう。

 アウリスさんたちにも言えるが、200年もの時を生きるのだから、相応の強さに到達するのも当然だと思えた。


 彼女の目的は、勇者をなるべく王都から離しつつ、追放された俺を"西の果て"へ一条よりも先に辿り着かせるつもりだったのかもしれない。

 でなければ、一条がたらい回しにされるように町を行き来する理由がない。


 同時に、これは他にも協力者がいるのは確実だ。

 アウリスさんたちは時期や彼らの話から察すると、団長との繋がりはない。

 彼らは彼らで考え抜いて行動したことは間違いなさそうだ。

 そういった思い詰めたような表情を、ふたりはしてたからな。


 それをこの場にいるふたりへ話すと、彼女たちは隠す様子もなく答えてくれた。


「ハルトさんの仰る通り、私はレフティ様からお願いをされていました。

 それはカナタを王都から連れ出し、可能な限り遠ざけたことにも繋がります」

「……あたしは魔術師団長から頼まれた。

 元々強くなるための研究をしていたのも、すべては魔王を倒すため。

 ……でも、200年の努力が報われることはなさそうだけど」

「そんなことはない。

 その強さは勇者育成の大きな力になるよ」


 少なくとも、俺がこの世界に来て初めて攻撃を当てられたのはレイラだ。

 まるで父と対峙してるような、感覚が研ぎ澄まされていく経験ができたことは、俺にとってもいい刺激になった。


「……そう言ってもらえると、すごく嬉しい」

「レイラも私も、魔王と対峙することすら叶いませんが、それでもカナタのためにできることがあるのなら力を尽くします」

「……ん。

 そうだね」

「……なぁ。

 もしかしなくても、俺の傍にいてくれたのは、"任務"だから……なのか?」


 満足そうに答えるふたりへ、一条は疑惑を向ける。

 そう思ってしまうのもこいつなら仕方がないとは思うが、それが彼女たちに対してどれだけ失礼な発言なのかを理解していないことに、俺は強い憤りを覚えた。


「一条」

「ハルトさん、私から伝えます」

「……わかった」


 俺がどう出るかも分かっていたんだろうな、ふたりは。

 きっと一条がこうなることも、分かっていたんだ。


 なら、俺が口を出す問題じゃなかったな。


「カナタ、私たちがそれぞれの団長からその話を聞いたのは、カナタと王城を出ると決めた後のこと。

 それは私たちがカナタと一緒に王城を出ることを団長に申請した時です。

 同時に退団届も受理していただきました」

「……それって……」

「……あたしたちは話を聞く前から、カナタと一緒に行くと決めてた。

 元々、王城を離れるつもりだったと話したでしょ?

 あれはね、魔王と対峙する手段を見つけるためでもあったの。

 その報告と退団届を提出した際、師団長にカナタのことを頼まれた。

 "あの子は大人が護ってあげる必要があるから、傍にいてあげて"って」

「……じゃ、じゃあ、俺と旅に出るって決めたのが先……なのか?」

「そうですよ。

 王都を離れる以上、私たちは正式に団を抜ける必要がありました。

 レフティ様からは"どうか雛鳥を護ってあげてください"と言われています。

 それは決して任務などではありません。

 信頼の置ける古い友人としてお願いをされた(・・・・・・・)んです」


 聞けば騎士団長と魔術師団長は、200年前から親交が深かったらしい。

 さらに言えば、魔術師団長は"勇者召喚の儀"に立ち会っているようだ。


 つまり、一条と同時に送られた俺の強さと人格をひと目で見抜き、追放されることに口を出さなかったのだと思えた。


 武芸者だけでなく、人に技術を教えられる立場にいることまで分かった上で、団長たちは俺が王都から放逐されるのを見守っていた。

 いずれ再会する一条を、魔王討伐が叶う強さにまで鍛え上げてもらうようにと。


 恐らく中年騎士のヴァルトさんもレフティ・カイラと繋がりがある。

 だが彼の瞳を思い起こしても、任務のための行動だったとは思えない。

 それぞれの思惑がすべて魔王討伐へと向けられていることは言うまでもなく、多くの協力者が俺たちに世界を救ってほしいと願いを込めた行動だったんだな。


 どんなに強くなったとしても、たとえそれが王国最強と言われたとしても、魔王と対峙できないのであれば虚しさしか感じなかったんじゃないだろうか。


 それはきっと、地獄のような日々だったと思う。

 願うことしかできない200年がどれだけ辛いのか。

 その欠片を想像するくらいしか、俺にはできなかった。


 俺も結局のところ魔王と対峙しても倒せないのだから、彼らと同じ気持ちを味わうことになる。

 それでも動けるだけ、彼らよりも苦悩することはないが。


 でも、託された"想い"は、確かに受け取ったよ。

 ……確かに、受け取ったよ。

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