仕方ねぇだろ
「……なんもねぇな」
町から結構歩いたが、こんなに静かなもんなのかね。
これじゃ、俺のいた世界とたいして変わらねぇぞ。
「確かにそうですね」
「……小動物も見かけなくなった。
小鳥のさえずりも聞こえない」
「明らかに異常ってことか?」
「……あたしはそう判断する」
レイラが言うなら間違いねぇな。
けど、そんなことあえりえんのか?
光がこんだけ入る森なら、動物の1匹や2匹いんのが普通だと思うんだが。
「ま、調査すりゃ分かるか」
「ポジティブですね、カナタは」
「……そこがカナタのいいところ」
「なんも考えてねぇとも言えるがな!」
「……そこもカナタのいいところ」
「そこは否定しろよな!?」
「……悪口じゃないことが伝わらないのは悲しい」
ぐぬぅ。
ああ言えばこう言いやがって……。
「……ちなみに、"ああ言えばこう言う"は、人の意見や忠告を聞かずに屁理屈で言い返すことを指す。
つまるところ、いつものカナタがしてる言動を象徴するような言葉」
「座学に言葉のお勉強も追加しますから、あとでしっかり学びましょうね」
「ぐぬぬッ!」
超能力者かよ!?
なんでいつも考えてることが分かるんだ、このふたりは!?
本当に思考を読み取ってるんじゃないか!?
「……知られたくなければ、カナタはまず顔に感情を出さない努力をするべき。
かといってハルト君からもあたしたちには伝わることが多いから、きっと何年学んだところで現状を変えるなんてカナタには難しいとは思うけど」
「表情こそ読み取りにくいですが、ハルトさんの瞳はとても純粋で正直者の美しい色彩をしていますからね」
なんだよ、あいつも一緒なのか。
なら別に――
「……"なら別にいいか"、なんて思うのは良くない。
ハルト君は結構巧みに感情を隠そうと努力してる。
普段から何にも考えてないお花畑みたいなカナタとは違う」
「俺だってこれでも色々考えてんよ!」
「例えばどんなことをカナタは考えているんですか?」
「そりゃあ……今日の晩メシ、なに食おうかな、とか」
「……ほら、やっぱり何も考えてない」
「なんだよ、いいじゃねぇか!
メシは活力だろ!?」
「"バランスよく食べることで活力に繋がる"、ですよ。
なんでも好きなものを食べればいいって話じゃないんです……」
すっげぇデカいため息をアイナにつかれた。
……でもよ、俺だって色々考えてんだ。
鳴宮に負けてからも努力してきたし、誰にも負けねぇって気合も乗ってんだ。
あいつとの差はぜんぜん埋まってねぇけど、努力すりゃ絶対届くって信じてる。
今だってそうだ。
俺がこうしてる間に、あいつは努力してる。
俺にはこんなことしてる時間も惜しいくらいなんだ。
なのに、俺は今なにしてんだよ……。
そう思っちまう気持ちが頭から離れねぇ。
「……焦っちゃダメ。
焦りは色んな悪いことを引き寄せる。
怪我なら魔法薬を飲めば治るけど、治ればいいってものでもない」
「そうですよ、カナタ。
ハルトさんとは随分離れていますが、一歩ずつ着実に歩いて行けば必ず手の届く場所に辿り着けるはずです。
気持ちばかりが駆け足しててもダメなんですよ」
「分かってんよ!
……分かってんだよ、俺だって……。
でもよ、あいつは俺の倍がんばってっかもしんねぇだろ!?
……なのに俺は、よくわかんねぇ調査依頼なんか押し付けられてよ、断ることもできずにこんなとこ、歩いてんだぞ……」
あいつより何倍も努力しなきゃ、絶対に届かねぇ。
あいつより何倍も頑張らなきゃ、足元も見えねぇんだ……。
焦る気持ちが抑えられねぇのも……仕方ねぇだろ……。
「……カナタ」
「……なんだよ」
「……キノコ生えてた。
とりあえず焼いて食べよ?」
「ぅおい!?
今、ものすごい真面目な話してたんだけど!?
だいたいなんだよ、その紫色のキノコ!?
見るからに毒キノコじゃねぇか!!」
「……む。
見た目で判断するなんて、いかにもなお子様の発想。
これはね、"ヒトヨダケモドキ"って言うの。
毒キノコに見える普通のキノコ。
こうして毒キノコに擬態することで、動物に食べられないようにしてる。
生命の神秘とも言える、とても賢い"毒キノコモドキ"なの」
なんだよ、その微妙な言い方!
結局毒キノコなんだろ、そいつは!
俺ぁぜってぇ食わねぇからな!
「……お腹が空いてるからナーバスになる。
かりかりする"やさぐれた心"も、お腹いっぱいでスッキリ」
「そうですね、そろそろ食事の準備をしましょうか」
「腹減ってるわけねぇだろ!?
町着いてすぐにメシ食ったじゃねぇか!
そんな短時間で腹減るかよ!」
「……育ちざかりは1日5食が当たり前」
「どこ基準だよ!?」
ガキ扱いしやがって。
いつになったら俺を男として見てくれるんだ、ふたりは。




