表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/85

8:思い出と命

 ガ…………ン、…………トン


 夢を見ていた。まだ何も忘れてはいなかったあの日の夢を。


「みっちゃん、あそこ……」


 誰かが俺に話しかけてくる。ミコトの一文字目をとって、みっちゃんなんだろう。

 話し相手が指差す先、若干ぼやけて見える景色の先には、ブランコを揺らす少女の姿があった。

 縮こまっている姿は小学生のように見えるが、服装から察するに、戸門学園の中等部の生徒だろう。


「悲しそうな顔している」


 隣の人物がそういうように、少女の頬は涙に濡れている。失恋でもしたのだろうか? 


「わたし、行ってくるねっ」


 悲しそうにしている人は見過ごせない。同行者は、そんな精神を胸に、ブランコの少女へと駆け寄っていく。


「君、大丈夫?」

「だれっ?」


 同行者の声掛けに、ブランコの少女は疑問の声を上げた。話しかけられるのが苦手なのか、少女の身体は震えている。


「みっちゃん、どうしよう? 話しかけたら、怖がらせちゃったよぉ」

「お前、口調がいく姉に似てきたよな」


 同行者の質問には答えず、俺は話を逸らす。

 初対面の、それも傷心の思春期少女の機嫌をとるなんて、俺にはできない。


「みっ……ちゃん?」

「そ、ミコトだからみっちゃん。女の子みたいでしょ」


 俺のあだ名に反応した少女に、同行者が答える。


「……あたしもみっちゃんって呼ばれてたから」

「へぇ~、どうして?」


 こちらが心配しているのを察したのか、少女の口数が多くなっていく。

 それに対応して、同行者が少女に近寄る。


「あたしの名前が実菜だから」


 涙に濡れた顔で、少女は名を明かす。それは後に、オカルト研究部の後輩になる少女だった。

 名を明かし、ほんの少しだけ心を開いた実菜に、同行者は手を差し伸べる。


「なんで泣いてたのか、教えてくれる? 心の傷を癒すことはできないけど、痛み止め位にはなるから」


 ズカズカと、無遠慮に、しかし優しく、同行者は実菜の心の傷に触れようとする。


「ほら、みっちゃん、いや、それだとややっこしいか。ミコトも、そこでムスっとしてないで、一緒に話そっ」


 ガ………トン、………ゴトン


 実菜の手をとり、同行者の顔がこちらに向けられる。見知った顔のはずなのに、その顔には靄がかかっていた。見られない。

 その人のことを考えようとしても、思考が闇に吸い込まれて消えてしまう。


 しかし、夢の中だからだろうか? なぜか、その同行者の名前だけが、するりと思い浮かんでしまった。

 ガタンゴトン、ガタンゴトン


「分かった。でも、俺のコミュ力に期待すんなよな、一樹」


 それは、存在するはずのない、いく姉の妹の名前だった。



『戸門学園、戸門学園、次は、■■■に停まります』


 夢から覚めると、駅のアナウンスが聞こえてきた。昨日と同じなら、今も夢の中だから、『夢から』という表現はおかしいが。

 つーか、駅のアナウンス。今、次にどこへ停まるって言った? 上手く聞き取れなかったが、同じようなアナウンスを、昨日も聞いた気がする。

 しかも、電車内の電光掲示板に何も映ってないし、車窓からは相変わらず、人っ子一人いやしない。

 昨日のあれを見た後というのもあるが、いかにも怪しい。


「なるほどねぇ、直で見るのは初めてだけど、随分と面白い場所ねぇ」


 警戒する俺の横で、生枝先輩は呑気な声を上げる。


「それじゃあ、行こうか。電車内で、さっきの話の続きをしよう」


 言って、魔術師は散歩に行くような足取りで電車の中へと歩んでいく。そこが最悪の悪夢に向かっていると知りながら。


「ちょっ、そっちは……」

「言っとくけど、電車の先で何が起きるかはある程度予想できてるけど、この駅に留まってたら、どうなるか分からないよぉ」


 脅しにも似た言葉をかけながら、生枝先輩は俺を電車の中へと引きずり込む。

 そして、俺の体が電車内に入ったと同時に扉が閉まった。


「さて、一樹の話の前に、少しだけこの場所について説明した方が良いわよねぇ」


 左腕を離し、俺をこの世界へ誘った魔術師は告げる。


「ようこそ、命君。ここは6時60分と7時00分の狭間の世界。これからあなたを、未だ見ぬ異世界へと連れ出すわぁ」


 瞬間、真っ黒だった電光掲示板に、オレンジの文字で『異世界行き』と表示された。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ