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19:冬夜と命

「ここでお前を倒して、雨季の記憶を取り戻す! そのための力は、たった今、手に入れた! 行くぞ、戸門冬夜ァァ!」


 妹の記憶を、幸せを何とも思っていない兄に激昂し、瞬間、左ひじから出でたツタや枝が腕に絡まり、五指の爪を生やしたガントレットとなって、俺の拳を強化する。


 自分の意思で動かせるようになったとはいえ、本来、人間にはない器官だ。

 今は、こうやって絡ませて、左腕が大きくなったというふうに扱うのが、最善だ。


 左腕がまとった破壊が、冬夜の刀に衝突する。火花が飛び散り、それが消える前に新たなる火花が飛び散った。


 そして、三度目の衝突。しかし、今度は腕と刀が掠り、お互いの攻撃が敵にあたる。

 枝の爪撃が冬夜の顔に赤線を穿ち、刀の斬撃が俺の喉を突き刺す。


 気道が鉄で遮られ、それが抜けると、吸った空気が喉の風穴から漏れだす。

 怪物の根が、その傷跡を横切り、縫うように傷を塞ぐ。


 先の破壊の奔流の後のように、痛みだけが残った。

 それにも構わず、左腕を振るう。腕の一撃が、刀を抜くために動作が遅れた魔術師を襲う。


 直前に冬夜が身を捻り、腕から赤が飛び散る。


 それでも、致命傷にはならなかった。


「はぁっ」


 とっさに腕を組み、衝撃に備える。直後に刃が激突し、身体が吹き飛ぶ。


 地面の転がり、枝や根が服を裂くが、刀を受けた左腕に傷はない。

 餓鬼道の怪物の攻撃を受けてなお無傷だった、樹木の腕は、切られた程度じゃ、傷つかない。


「厄介な腕だな。それ一つで強力な刃にも、堅固なる盾にもなるか」


 すぐに立ち上がった俺の様子を見て、冬夜が呟く。

 腕からは絶えずに血が流れているが、それをものともせず、刀を力強く握っている。


「ならば、こんな手はどうだ?」


 言葉と共に、魔術師が刀を振るう。踏み込みはない。俺から遠くで振るわれたそれが、俺のもとに届く気配はない。

 しかし、虚空を切り裂いたその刃は、無意味ではなかった。


「はっ?」


 刀が降りぬかれると同時に、冬夜の姿が消えた。

 昼間、俺の中の怪物が暴れていた時にも見た光景だ。


 困惑。一瞬の後、胸を衝撃が貫いた。


「かはっ」


 痛みの自覚とともに、視界に冬夜の姿が現れる。どうやら、胸を殴られたらしい。


 半ば反射的に、左腕を振るう。しかし冬夜は、すかさず刃を振るって姿を隠した。

 行き場を失った攻撃が、虚しく止まる。


 次の瞬間、側頭部に衝撃が走った。


 不可視、防御不能の蹴りが、頭を揺らす。

 倒れそうになる身体を、体内に張り巡らされた根を使って無理矢理起こす。


「倒れて、たまるかよ!」


 叫びながら、左腕を振るいあげる。破壊の怪物をまとった拳は、しかし、刀の閃きによって、目標を見失う。そして、


 なおも拳を突き出した。


 当たりうるものは見えない。しかし、想像が正しいのなら、


 確かな手応えが返ってきた。


「ガハッ」


 無防備な状態で一撃を喰らい、虚空が血反吐を吐く。

 次の瞬間、虚空から、冬夜の姿が現れた。


「幻覚。ただ見えなくするだけの魔術。それがお前の魔術だろ? 見えなくなっただけなら、殴ることはできる」


 昨日、雨季と話したことが役にたった。


 防犯カメラの画像から一樹の姿が消えた理由。

 あの場でいくつかの仮説をたてたが、今回、冬夜が起こした現象は、それと酷似している。


 質量保存の法則が適用されない超常だの、画像加工、細断は当てはまらないものとして考えると、可能性は二つ。


 幻か、高速移動かだ。


 もし高速移動だとしたら、それに伴う空気の流れや、モノの移動があるはずだ。


 それが無かったということは、冬夜が使った魔術は前者。


 姿は、消えたのではなく、見えなくなったのだ。

 そう、見えなくなっただけ。だから心配せずとも、攻撃が当たる。当てられるのだ。


 姿を現した魔術師に、さらに拳を向ける。冬夜の身体が十メートル以上吹き飛び、二者の距離が空いた。


「二度見ただけで、私の魔術を理解するか。誰かに入れ知恵されたな? 〈正義〉か? 〈進化〉か?」

「雨季だよっ」

「…………」


 言葉を並べる魔術師に、俺はその妹の名前をだす。

 それに対し、魔術師は言葉を止めた。

 そして、


「……貴様が、」


 冬夜が、手にした刀に手をかざす。瞬間、印が浮かぶ。形状は、雨季や生枝先輩が使っていた爆発するお札に書いてあったものと似ているが、細部が異なっている。


「貴様がその名を、口にするな!」


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