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4:カウンセラーと命


「ここが、カウンセラー室」


 ほとんどの生徒は、来ることのない場所だ。

 俺も今の今までどこにあるのか知らなかった。


(昨日、〈正義〉の魔術師が指定した場所)


 別れ際、あいつは今日、ここに来るように言っていた。魔術とは関係のなさそうな一室だが、何かあるのだろうか? 


 心を決してドアを開く。すると、


「香里ちゃん、今日もかわいいね」

「ぜひ、カウンセリングしてほしいな」

「ずるいぞ! 俺が先だ!」

「そんなに元気なら、カウンセリングは必要ないかな~。ほら、もうすぐチャイム鳴るし、行った行った!」


 声が響いてきた。カウンセラーと思しき若い女性の周りを、三人の男子が囲んでいる。香里ちゃんと呼ばれたカウンセラーは、ハツラツとした声で生徒たちを部屋の外へ追いやっている。


「ちょっ、香里ちゃん!? そいつは……」

「ん? ああ、彼? 彼はこれからカウンセリング」

「うおおおおおお、羨ましい」

「香里ちゃんと二人きりなんて、ご褒美だz」


 言葉が言い終わらない内にドアが閉まる。香里ちゃんはドアの前で一息つくと、改めて俺の前に向き直った。


「ごめんね~。あっ、この部屋防音だけはしっかりしてるから、外に声が漏れる心配はないよ~」

「本名、香里って言うのか? あんた」


 カウンセラーが下げているネームプレートには『都香里』と書いてある。しかし、俺が彼女を呼ぶにはもっと相応しいものがある。

 彼女の右腕。プラスチック製の義手がそれを示している。

 年齢は三十代前半位だろうか? その目鼻立ちも、黒くて長い前髪も、昨日垣間見た仮面の下と一致している。


「無論、偽名だ。この年じゃ、Sクラスの生徒を名乗るのは難しいのでな。書類上では、この学園のカウンセラーということになっている」

「そんなキツイあたりじゃ、カウンセラー失格だろ」

「知らん。何にせよ、勤務時間中は、給料通りの仕事はするつもりだ」


 香里ちゃん改め、〈正義〉の魔術師。彼女は、懐から角の欠けた鬼の面を被ると、慣れた手つきで義手を外し、言葉を付け加えてきた。


「与えられた仕事通り、生徒の悩みは聞いてやる。魔術に関する質問から、恋愛相談まで、何でも受け付けているぞ」

「じゃあ、顔見た方が話しやすいから、その鬼仮面とってくれ」

「魔術関係の仕事のときは、仮面をつけると決めている。今から恋愛相談に相談内容を変えるなら、外してやるぞ」


 俺の軽口に、魔術師は冗談交じりに答えを述べてくる。ちなみに、「好意を素直にだせず、ウザい態度をとってしまう六月生まれの後輩」が狙い目らしい。

 恋愛相談つーより、占いだなこれ。カウンセラーも魔術師だし。


「分かったよ。そろそろ本題に入ろう。雨季の記憶を消した魔術師は、どこのどいつだ?」


 言葉に、憎しみを込める。


「なんだ。魔術師が記憶を消したという答えは得たのか? タイミング的には異世界の怪異と考える方が自然だが」

「一年前にも、同じようなことがあったって聞いた。それには、異世界は関係ないはずだ」


 今朝、実菜が話してくれたこと。あれもきっと同種の事件だ。

 実菜が被害を受けているのを見る前に、もしくは見られたと実菜が認識する前に、雨季から実菜の記憶が消えたと考えれば説明がつく。


 だから彼女は、Sクラス以外で過ごしたことがあるにも関わらず、学年の区分を知らなかった。

 雨季は実菜との思い出を、イジメから逃れるために『全部なかったことにした』のではなく、魔術師によって『全部なかったことにされた』のだ。


 そうして実菜は一年が経っても癒えることのない傷を負い、俺は昨日、路頭に迷った。

 いかなる理由があれ、その魔術師を許すわけにはいかない。


「……そうか。貴様のいるオカルト研究部とやらは、彼女も在籍していたのだったな。(じゃあ、今朝やった恋占いは、そういう……)」

「実菜を知ってんのか? ってか、少し笑ってない?」


 仮面を押さえ、魔術師が肩を震わせている。


「すまない。一年ほど前にカウンセリングした中学生が、今、平和に青春を謳歌していることを知って嬉しくなっただけだ。気にするな」


 お前、本当にカウンセラーの仕事、ちゃんとしてんだな。


 実菜は戸門学園の中等部から内部進学で高校に入った組だ。イジメでカウンセリングを受けたことがあるなら、カウンセラーは香里ちゃんこと、〈正義〉の魔術師ということになる。

 当然、実菜のことを知っているわけだ。


「話を戻そう。あの子の好みはたしか、Mから始まるファストフード店のポテトだったな」

「無理に本題を恋愛相談にすり替えようとすんな! あと、生徒の個人情報を簡単に売んなカウンセラー」


 話が進まない。というより、魔術師が話を進めるのを、拒否するような立ち回りだ。生徒の恋愛事情に介入したいというより、俺に魔術師の話題を話したくないんだろう。


「別に、そこまで話したくないんなら、俺も無理に聞いたりしねえよ。先生、〈進化〉の魔術師辺りなら、答えてくれそうだし」

「いやっ、ちょっと待った。分かった、話す。正直、貴様に話したくはないが、ワタシがやるのが一番安全で確実だ」


 部屋を出ようとした俺に剛力が襲い掛かる。昨日も思ったけど、こいつ、見た目より力が強い。何か魔術を使っているのだろうか。


「はぁ、まずは戸門雨季の話からだな。あいつが魔術師ではないということは、貴様も知っているな?」

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