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4:部活と命

「なんスか、その夢? もしかして先輩、異世界に行きたいとか思ってる人ですかwww」


 ウザいという概念を擬人化でもしたかのような人間からムカつく言葉が聞こえてきた。

 俺の目の前にいるのは部活の後輩、月石実菜だ。椅子の背もたれに肘を置き、ニヤニヤとした顔をこちらに向けている。


「いやはや、随分と前から、先輩のことはバカな非リアだとは思ってましたが、まさか現実を捨てて、異世界に逃げたがるレベルだとはwww笑えるっス」

「笑えねえよ! っていうかバカじゃねえよ」


 俺が昨日見た散々な悪夢の話をした瞬間これである。先輩だから敬えとは言わないが、もっとこう、違う接し方があると思う。

 そう思った瞬間、黒いニット帽が、俺と実菜の間に割り込んでくる。


「まあまあ、ミコトがバカなのも、ミナがウザいのも今に始まった話じゃないだろう? 少しは落ち着けって」

「だから、バカじゃねえよ! つーか、今の話、俺の頭関係なくないか?」

「あたしもうざくないっス。あと、駅でそんな長い悪夢を見るほど熟睡する人を、世間じゃバカっていうらしいっスよ」


 二人の喧嘩を宥めるように割って入った男に対し、俺と実菜がほとんど同時に反論する。地味に、実菜の反論が俺にも向いているけど。


「はいはい。ところでミコト、今言った夢の話、どこまでほんと?」


 言って、ニット帽はこちらに鋭い目つきを向けてくる。

 ちなみにニット帽ってのは、こいつのあだ名。交通事故で負った傷を隠すために、いつも被っているらしい。


「オマエの嘘はばれやすいんだよ。まるっきり嘘じゃあないだろうけど、誤魔化したところはいくつかあるよな」

「いやっ、べつに大したことじゃないんだけど……」


 女の子に助けられまくった挙句、夢から覚めてもその子の幻覚を見たなんて言えません! 


 心の中で叫びつつ、俺は眼前のニット帽と実菜から眼を反らす。


 俺がこいつらに話したのは、夢で見た森や怪物の話だけだ。それを話す過程で、駅で爆睡したことや、電車内に人がいなかったことには触れたが、雨季と名乗った少女のことには、一切言及していない。


「まあ、話したくないならいいけど、少し不思議な点もあるからもう少し話したいかな。ほら、内、オカルト研究部だし」

「ここ、雑談部じゃなかったんスね」


 微笑みながら部名の書かれた横断幕を指差すニット帽に、実菜が大真面目な顔で食いついた。


 戸門学園、オカルト研究部。別称、もしくは蔑称を雑談部。

 一応、部活動としての体裁を保つため、オカルト的な話題が上ることが多いが、結局、何ら生産性もない会話で終わる。

 部員は、俺、ニット帽、月石実菜、それに三年の部長の四人で、いつもどうでもいい話題で盛り上がるだけの部活だ。


「まあ、夢に対して何かを言うのも変だとは思うけど、さっきの話で奇妙な点は二つある」


 指を二本たてて、ニット帽は口角を上げる。


「一つは、時間だ。昨日の補習が終わったのは6時50分なのに対し、夢を見終わった時は7時過ぎだったってのは変だろう。学校から駅まで5分、ベンチで寝付くまでに5分と考えても、時間が短すぎる。

 昔の夢と電車の夢、森の夢。場面が二回も変わってる。そんなに長く夢を見ている時間はない」


 事実だ。それにニット帽には言ってないが、俺はあの夢の中で、雨季に眠らされている。その時に過ごした時間ですら、1分や、2分じゃないはずだ。


「それと二つ目、これはミコトに聞けばすぐに分かるんだけど、君が言った夢の描写、妙にリアルな感覚で言ってたよね。顔の上で虫が蠢いていたって時とか、電車を飛び降りた時とか」

「ああ、怪物の爪が掠った時にも、嫌な痛みが走ったよ」

「やっぱりね、それも普通の夢ならありえない」


 ニット帽がそういったのと同時に、扉が開く。我らが部長が入室してきた。


「ごめんね、みんな~ 少し遅れちゃったぁ」


 甘ったるい。しかし、よく通る女性の声。オカルト研究部の部長にして、俺の一つ上の幼馴染、丸生枝先輩だ。


「あれれ、話、遮っちゃった? ごめんね~、続けて、続けて」

「別に大した話じゃないっスよ。ただ、バカな命先輩がバカな夢を見たってだけです」


 謝りながら席に着く生枝先輩に、実菜が笑いながら話題を説明する。

 今日の部活は、なかなか頭の痛いものになりそうだ。

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