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13:ピストルと雨季

「うぐっ、あが」


 電流がほとばしり、身体が動かなくなる。痺れているという感覚もない。稲光に、目も潰された。

 意識が消えなかったことが奇跡にすら思える。


 しかし、このまま倒れていれば、魔術師に隙を晒すことになる。

 銃は多分、手を放していない。微妙に感じられる右手の感覚は、銃を握った形のままだ。


 右腕に力を入れる。正確には入れようとする。本当に力が入っているのかどうかは分からない。

 でも、詠唱をしないければ、ダメージすら与えられない。


「の……ノウマク・サンマン……ダ」


 耳の感覚は残っているらしい。途切れ途切れだが、きちんと詠唱できている。後は、後半部分だ。


「バザラダン……カン」


 あとは術の名前を言い、引き金を引けば、爆発の銃弾が発射される。

 しかし、


「素直に撃たせると思ったぁ?」


 鈍い感覚の中で、右手に痛みが走る。押しつぶされるような感覚。

 どうやら、銃を持つ腕を踏まれているらしい。

 この状態では、引き金を引いても当たらない。


 でも……


「素直に撃つと思った?」

「なっ」


 私の言葉に、魔術師が困惑する。それが、言葉を口にする隙を生み出した。


「一字咒、急急如律令」


 早口での詠唱の終了とともに、弾倉に残った五つの銃弾が反応する。


 銃諸共、右手諸共、五つの銃弾が爆発する。撃たなくても、撃てなくても、この爆発は敵に届くはずだ。


 問題になるのは、自分を巻き込むことだけだ。

 それでも、立っているものと、倒れているもの。死んでいるものと、生きているものでは、前者の方が、ダメージが大きい。


 痺れが抜けてきた感覚を、耐え難い灼熱が襲う。右手の状態はよく分からないが、もうこの戦闘では使えないだろう。


「ああ、あああああ」


 悲鳴が響く。

 復活した視界で見上げると、火だるまになった身体が映る。死穢を纏った彼女に、不動尊の炎は普通の炎より効くはずだ。


 自らの命を簡単に投げ出すような狂人が、ただ苦痛に呻いてのたうち回っているほどだ。


 ピストルは爆発したから使えない。雷電と爆炎のせいで、お札も燃え尽きた。

 残存する武器は、不動尊の梵字が刻印された弾丸、弾倉に入れてなかった予備の弾丸が一つだけ。

 それ以外の攻撃は、全てあの魔術師に通じない。

 覚悟して、左手に銃弾を握りしめる。

 しかし、


「ああ、あああ、あははははあ」


 魔術師の悲鳴が、笑い声に変わる。

 炎は消えていない。あらゆる不浄を燃やす火の中で、少女は爛れた肌で笑っていた。


「あはっ、あはははは、バカだ。馬鹿だ。バカだ馬鹿だバカだぁ。こんな炎で私を倒せるわけないのにぃ」


 嗤う。苦しんでいたはずなのに。痛いはずなのに。熱いはずなのに。ただ、嗤っている。


「たしかに苦しい。たしかに痛い。たしかに熱いわぁ。でも、それだけ。この感覚はどこにも繋がっていないのぉ」


 甘ったるい口調。明確な悪意がそこにある。


「雨季さん。あなたはさぁ、すでに死んだ人間をどうやって倒そうと思っているのぉ?」


 恐怖。取り落としそうになった銃弾を、もう一度握りしめる。

 現実に存在する死霊、死者の思念のエネルギーのなれ果ては、不動尊の炎やその他術式によって祓われる。宗教的な軋轢が生まれる言い方だが、『成仏させる』という表現の方が正しい。


 つまり、本来あるべき死者の世界に導いているのだ。

 しかし、


「ここは黄泉、私たち死者の国よぉ。いくら祓ったところで、私は、死者は倒れない。倒せない。この勝負最初からあなたの負けなのよぉ」


 なるほど。無駄に手の内を晒し、言葉を重ねたのは、これに気づかせないためか。


 それに気づかず、まんまと口車に乗り、負け戦に追い込まれた。

 制限時間は、会話の時間を考えると20分にも満たない。万全の状態なら逃げおおせることもできたはずなのに。


 満身創痍となった今では、それもできない。

 それでも、


「習合。世界と世界とを繋げる魔術。あれ、すごい完成度ね」

「いきなり何かしら? まあ、自信作よぉ」


 私を嵌めるのに夢中で、彼女は情報を話し過ぎた。


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