10:洞窟と雨季
『戸門学園、戸門学園、次は、■■■に停まります』
最早、聞きなれたアナウンスにより、私、戸門雨季は目を覚ました。
相変わらず誰もいない。一昨日、隣に座っていた男の子も、今回は傍らにいない。
6:66。時間の単位を変化させるという願い、それが持つ魔力が生み出した、幻の時間。異世界への電車が現れる唯一の時間だ。
軽く辺りを見回し、誰もいないことを確認すると、改めて電車に乗る。
マジで、どっかの誰かさんが、睡眠薬に抗って無理矢理乗り込んできたら洒落にならない。
ドアが閉まり、電車が動き出す。目的の異世界に繋がるかどうかは賭けだが、私の願いが、電車の道行きに変化を及ぼすと信じよう。
……失敗したら、ミコト君は私の部屋で監禁コースかな。別にそういう趣味はない(はず)だが、彼の行動を考えると、変に自由意思に任せたら、絶対に危険な行いをすると思う。
それを縛るためには、監禁が最も手っ取り早い。
でも、絶対に嫌われるよなー。いやっ、私たちの関係なんて、怪異が消えた時点で終わるんだから、嫌われてもいいんだけど。
そんなことを考えているうちに、電車の速度が急激に遅くなる。足に力を入れて踏ん張ると、その直後に電車が完全に止まる。
車窓に広がるのは、真っ黒な鍾乳洞。ミコト君が、あの魔術師とともに訪れた場所だ。
『■■■、■■■。開く扉にご注意ください』
餓鬼道のときと違い、アナウンスはこの場所の名を示さない。きっと、世界の名を正確に理解しないと、意味をなさない音になるのだろう。
この世界が何なのか? ある程度の予想ならできるが、しかしまだ確信はない。
予想が確信になるのは、これからだ。
「日本の魔術師には分からないかもしれないけど、結婚式で新郎新婦は『死が二人を分かつまで』愛を誓うんだってぇ」
どこからか、声が響く。洞窟の中で声が反響していて、正確な位置が分からない。
「でもねぇ、東洋における思想は違う。愛し合う二人は、一人が死んで住む世界が分かれても、その縁は消えないの。素敵じゃないかしらぁ」
「もしかして、あなたと彼は死んでも愛し合ってるって言いたいの? 私が言えた義理じゃないけど、キモいわ」
どこからかは、分からない。けど、この声が誰だかは分かる。特徴的な甘ったるい声。こんな口調の人間は一人しかいない。
「私? 私と命君は、そういう関係じゃないよぉ。まあ、縁は繋がってるけどねぇ。恋人たちと同様、死んだ程度じゃ切れないやつ、幼馴染って言うんだけどぉ」
「幼馴染の縁が死後に切れるかどうかは別として、あなたと彼のそれはそーゆー魔術でしょ? あなたの願いが示すように、彼とあなたを〈接続〉した。でしょ、丸生枝?」
足音が聞こえて、振り返る。私が乗ってきた電車の上に、同年代の女性が座っていた。
〈接続〉の魔術師、丸生枝。この異世界で死んだはずのミコト君の幼馴染だった。