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7:ジャンルのニット帽

今回から、視点が主人公から変わります。一回目は、モブ視点

「……………………」

「……………………」

「…………先輩が来ない」


 日々、オカルト研究部は、その活動の薄さから、雑談部などという別称、もとい蔑称で呼ばれていた。

 ここに訂正しよう。ここは、オカルト研究部でも、雑談部でもない。


 無言部だ。


「はぁ~」


 ウザい、もしくは、恋する乙女という概念の擬人化みたいな後輩から、強烈な溜息が漏れる。その響きが消えると、また部室が、完全なる無言に包まれる。


 読んでもないラノベのページを捲りながら、俺、部活のメンバーからニット帽なるあだ名で呼ばれる二年生は、心の底で叫んだ。


 ミコト~~! 早く部活に来てくれ! 


 金曜に部長たる丸生枝先輩が亡くなってから、初めての部活。

 皆で死別を惜しみながらも、今後の活動を定める必要のある時間だ。

 だというのに、ミコトは部活には顔を出さず、部室にいるのは、俺とミナだけだ。


 今さら言うまでもないが、ミナはミコトのことが好きだ。好きに理由はないとのことだが、どうやら入学前に接点があったらしい。

 亡くなった生枝先輩はミコトの幼馴染だ。もちろん距離感も近く、付き合っているという噂は多い。


 何だ? この軽めのラブコメみたいな関係性? ハーレムの邪魔する余計な男友人キャラ、すなわち俺も含めて、完全にラノベの世界観だ。(だとしたら、俺の名前設定考えるの面倒くさくなったな、作者!)


 というのは、『リア充爆発しろ!』、『主人公の友人キャラと付き合う系のヒロインは可愛い』と同様に、俺が常々思っていることだ。実際、このリアルラブコメを眺めるために、俺はこの部活に所属している。


 しかし、ここで一つ、問題が発生する。


 この部活、主人公こと、木村命が来なければ、雑談部として成り立たないのだ。


 必死に場を和ませてくれた生枝先輩が亡くなった後は、特に。


「うぅ~、先輩ぃ」


 子どもが駄々をこねるように、ミナが喚く。


 こちらが、『好きな人と部長の仲を疑った日の夜に、当の部長の死を知り、急いで好きな人に会いに行くも、体よくあしらわれた末に、その人が別の女と仲良くしてるのを見た』恋する乙女の図です。ついでに、『部活で話す』という約束も絶賛すっぽかされ中だ。


 うわっ、改めて整理して並べるとエグいな。ラブコメの『コメ』の部分はどこへ消えた。


「ミナ、ミコトのやつは、学校には来てたんだよな?」

「……ええ。校門でSクラスに誘われてたって、友達に聞きました」

「じゃあ、Sクラスの編入手続きとかで、来られないのかもな」


 無限に続く無言に耐えきれず、俺はミナに話しかける。

 Sクラス。(おそらくは)学力を基準としない戸門学園の特殊クラスだ。生枝先輩が亡くなった直後、その席に座ったのは、一緒にいたミコトだった。

 そして、問題になるのは、


「お前の中学時代の親友も、Sクラス、なんだよな?」

「うわあああああ」


 俺の問いに、ミナが関を切ったように泣き崩れる。

 彼女が目撃したミコトと手を繋いでいた女。どうやらそいつもSクラスらしい。


「そうですよ! ええ、そうですよ! きっと、あたしとの約束なんか忘れて、あいつと楽しそうにSクラスの放課後を満喫シテルンデスヨ、キット!」

「落ち着け! いつもの口調消えてるし、途中から片言だぞ!」


 叫び返しても、ミナの錯乱はおさまらない。


「まだ、手を繋いでたのを見た程度なんだろ! お前は抱き着いたんだし、そっちの方が上だって!」

「ちょっ、何でそれ知って……」


 宥めたつもりだったが、怒りと悲しみの表情の上に恥ずかしさが重なり、顔がさらに赤くなっただけだった。

『ミコト先輩が来るまで愚痴聞いてほしいっス』とか言って、あったこと全部話したの、お前だけどな……と言っても、状況が悪化するだけなので、絶対に言わない。


 そんなこんなで、俺は読んでもいないのに開いていたラノベを閉じ、本格的に、恋する乙女を宥めにかかる。


「ダメなんですよっ、あいつと関わっちゃ! あいつは関わった人間をみんな不幸にする最低野郎なんですよ」


 涙声でミナが叫ぶ。しかしその声には、事実無根の罵詈雑言を吐く時には感じられない、はっきりとした怒りと憎悪が伴っていた。

 なんだかよく分からないが、そろそろ隣の部室から訝しむ気配が感じられてきたので、必死にミナをおさえる。多少、物理的に。


「あいつは、雨季は、そういう人間なんですよ」

「はっ?」


 一瞬、ミナを押さえていた力が抜け落ち、それに気づかず、ミナがあらぬ方向へと転がっていく。

 しかし、聞き逃せなかった。聞き逃さなかった。ミナが元親友と呼称し、現在進行形でミコトと接点を持っている人物の名前。

 それが、アマキなのだ。


「……最悪だ」


 キョトンとしているミナを無視し、俺はさっきまで持っていたラノベに触れる。


 突然だが、ラノベのジャンルとは、至極分かりにくい。

 例えば、流行りの異世界もの。あれは現実世界の描写があるため、ローファンタジーに分類されるが、現実に関する描写など、最初の数ページで軽く触れられるだけで、あとはハイファンタジーの世界が続く。


 魔法要素を含む恋愛作品は、果たしてラブコメか、ファンタジーか。

 線引きがなされるとするならば、その作品の主軸がどこに置かれているかによって、分かれるだろう。


 そのうえで、はっきりと言おう。俺が今日まで見てきた物語は、軽めのラブコメなんかではなかった。

 完全なるローファンタジーだ。しかも、かなりシリアスに寄ったやつ。


「本当に……最悪だ」


 煩わしいニット帽に触れつつ、俺はそう呟いた。


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