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1:登校と命

二章突入です!


 整理できていない頭を休めているだけで、日曜が終わった。

 そして、明くる日、朝早く。まだ町が起きていない月曜の朝。

 俺は、先週に起きた事を振り返っていた。


 先週の木曜日。学校の補習を終え、駅のベンチに座った瞬間に、全てが変わった。


 その日行った異世界で樹木の怪物に襲われ、次の日に行った異世界では、魔術師を名乗る先輩の死を見た。


 そして、土曜。真実を知り、覚悟とともに臨んだ三度目の異世界。俺はそこで一瞬、最後の最後の一瞬で、怪物へと転じた。


 そこに知性はない。ただ、暴走と戮殺だけがそこにあった。俺の左ひじから生えた樹木の巨腕は、そこにあった餓鬼を全て蹴散らし、俺を救おうとした少女すら殺しかけた。


 結果だけ言えば、最悪の事態は回避できた。雨季も、あの巨腕について何も知らなかったし、俺の意思で殺そうとしたわけではないのも、理解してくれた。

 しかし、『俺の身体が人を殺そうとした』という事実が、どうしても頭にこびりついて離れない。


 金曜の生枝先輩の死。それと同じくらいの衝撃が、そこにはあった。


「本当に、どうしちまったんだよ、俺」


 呟きを聞くものはいない。ここは俺の部屋だ。混乱を聞く相手も、事情を明かせる相手も誰もいない。


 随分と、死が身近になった。


 遠い遠い老後。その果てにあったはずの死は、現在、俺のすぐ隣にまで近づいて来ている。


 木曜に、死にそうになった。

 金曜に、実際に死を見た。

 土曜に、死を与えた。餓鬼を殺した。


 俺の心も、在り方も、不可逆なほどに変わってしまったのだ。


「おい、学校行けるか?」


 ノック音とともに、双子の兄の声が聞こえている。こう気をつかわれるような間柄ではない。親が、様子を見るように言ったのだろう。


「……ああ、行ける」


 俺を心配してくれている後輩のことを思い出し、ベッドに放られた身体を起こす。

 月石実菜。彼女に立ち直った顔を見せないといけない。そんな顔を見せられるかどうかは、分からないが……


 手早く制服を着て、まともに喉を通らない朝食を少しだけ口に含んでから、外に出る。


「……チッ」


 兄と時間帯が被った、あからさまに嫌な顔をされる。

 そんな反応を無視しながら、俺は兄に並びつつ、最寄り駅の方へ向かった。



『戸門学園、戸門学園、左側のドアが開きます』


 アナウンスが響いた瞬間、肩が震えた。近くにいた兄が訝しげな顔を向けてくる。


 夢の中のアナウンスではない。ただ、乗っていた電車が、戸門学園駅に着いただけだ。


 周囲にいた制服を着た若者たちが一斉に降りていく。俺もその波に乗り、下車する。


 戸門学園駅といいつつ、その周囲にあるのは初等部と中等部で、俺が通う高等部は駅から5分ほどの距離にある。


 普段ならこの道で、クラスの友達やオカルト研究部のメンバーあたりが話しかけてくるのだが、俺の状況を知っているのか声をかける人はいない。


 いやっ、話しかけてくる人物で多かったのは、丸姉妹だ。一樹の存在が消え、生枝先輩が亡くなった今では、あまり話しかけてくる人がいないのか。


「君が、木村君だね」


 そう考えて校門をくぐろうとした時、後ろから声をかけられた。

 見ると、制服の上に白衣を羽織った少年が、何やら値踏みするような視線をこちらに向けていた。

 白衣もそうだが、特徴的なのはその髪色。透き通るような白い髪に三本の黒いメッシュが浮かんでいる。雨季の髪を、そのまま反転させたような髪色だ。


「そうですけど、あんたは?」

「ああ、これは失礼。初対面の時は、まず自己紹介からだったね」


 訝しげな顔を向ける俺に、白衣の少年は笑みを見せる。


「ボクはシュンシュウ、戸門春秋。Sクラスの代表だよ。君にSクラスの編入を進めに来た」

「「Sクラス!」」


 雨季と同じ姓を名乗る少年の自己紹介に、俺ともう一人が、反応する。見ると、兄がこちらの方に歩み寄ってきた。


「なあ、春秋さん。アンタの言う木村君って俺のことじゃないか?」

「えっと、君は誰かな?」

「そいつの兄だよ! Sクラスに入るのは、Dクラスのそいつより、Aクラスの俺の方がふさわしいだろ!」


 兄の成績は、優秀な生徒が集まるAクラスの中でもトップ。全国的に上位だ。

『もし、Sクラスの編入条件が学力なら』、彼以上に相応しい生徒はいない。


 春秋は、一度キョトンとした表情をした後、急に笑い出した。


「はは、はははは、ああそうか、そうだった。木村という苗字は多いし、兄弟もいる。木村君という呼称は相応しくないね」


 何がおかしいのか、春秋は腹を抱えている。爆笑するその笑い声は、どことなくウソのように感じられた。

 そして、一度兄を見やった後、改めて俺の方を向いた。


「では、改めてフルネームで、木村命君。君をSクラスへ迎えに来たよ」


 言いながら、春秋は俺のすぐそばにまで近寄ってくる。そして、俺にしか届かない位の小さな声で告げた。


「(丸生枝が遺した研究結果を君に譲渡しよう。君は、あの魔術師の遺志を継いだんだろう)」


 そう、これが、兄が選ばれず、俺が編入するように言われた理由。他クラスの生徒は知らない、Sクラスの秘密。あのクラスは、魔術師たちの育成機関なのだ。


「とりあえず、場所を変えよう。この場所じゃ、少々目立ちすぎる」


 着いてこいと身振りで示し、白い髪の少年は校門をくぐる。


「……なんで」


 呆然とした様子で、兄が少年を見つめている。

 兄以外の生徒たちも、奇異の視線を向けてくる。興味を持って眺める者。とげとげしい視線を向ける者。


 Sクラスという不思議クラスの話。見慣れない白い髪の少年。Aクラストップの、普段は見せない自失の顔。


 全てが、視線を向ける要因になっている。

 たしかに、目立ち過ぎている。


「行こう。Sクラスの学び舎を案内するよ」

「まだ、入るって言ってねえぞ」

「君に拒否権はないよ。例えあれを学ぶ気がなくとも、あれの存在を知った以上、監視の必要があるからね」


 軽く文句を言うと、春秋が「魔術」を「あれ」に変えて行動を縛ってくる。


「別に怖がる必要はないさ。学ぶ気が無ければ、危険は少ないし、学ぶのであれば、それは丸一樹を助ける一番の近道だ」


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