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22:巨腕と命

 周囲には、銃弾で打ち抜かれた餓鬼の死体、今はまだ生命の有無で、肌の色で違いがあるが、このままでは、生命を落とし、泥に塗れて、同じ存在に混ざる。


 それを覚悟した瞬間、俺の周囲の餓鬼が、一斉に倒れた。


 何が起きた? 

 雨季が銃で蹴散らした? いや、銃声が聞いていない。

 鑊身が炎の腕を振るったか? なら、俺も殺されているはずだ。

 実際、今の奴は、雨季を狙っていて、俺には見向きもしていなかった。


「あああ、ウグワァアアアアアアァァァァァ」


 怪物めいた絶叫がほとばしる。しかし、餓鬼からではない。俺の口からだ。


 なぜ、倒れていたはずなのに、餓鬼の壁の向こうにある雨季の姿が見える。答えは、簡単、立ち上がったから。

 しかし、俺は立ち上がろうとしていない。気がついたら立っていた。今の絶叫も同様。俺は、何もしようとしていない。

 身体が、勝手動いている。


 無意識下で左腕が持ち上がる。命令の聞かない首を必死に動かして、そちら側に目を向ける。


(はっ?)

「えっ?」


 呆然とした疑問は、声にならなかった。雨季が代わりに声をだす。


 俺が見たのは、ここにはあるはずがない異形の姿。直径十センチに及ぶツタ植物で構成された腕状のナニカ。

 初めて訪れた異世界で、俺を襲ってきた樹木の巨腕だ。


 そこまではいい。いや、決してよくないが、処理はできる。問題はその位置。全長にして二メートルは超えるその怪腕は、なぜか、俺の左ひじから生えていた。


(マジか!)


 理解と同時に、暴力が生まれる。樹木の腕から伸びたツタが、餓鬼を貫き、潰し、殺して、屠っていく。

 ある者は、眉間を貫かれ、ある者は、脳みそを潰される。どれもこれも、ただ一撃の内に絶命している。


「ウガアアアアァァァ」

「ウグワァアアアアアアァァァァァ」


 身の危険を感じた鑊身が絶叫とともに、こちらへ突撃する。それに俺も、絶叫で応えた。理性無き叫びが、喉を壊し、血を吐かせながら、口から飛び出す。


 身体は、俺の制御を離れ、炎の怪物へと向かっていく。樹木の巨腕も、炎の怪物も、かなりの巨体。間合いが全く読めない。


 先に仕掛けたのは、樹木の怪物だった。一昨日、小枝から生えた腕がそうしたように、腕を振り下ろして、炎の怪物を押しつぶそうとする。


 炎の怪物もそれを受け止めようと構えるが、しかし、それは無意味に終わった。

 激突の瞬間、ツタが解け、腕の形を崩し、炎の怪物に絡みついたのだ。


 ツタが燃え出す気配はない。樹木の怪物は、ただ、絶対的な力でもって、炎を締め上げている。

 炎の熱が、ツタを伝い、左ひじを経て、俺の感覚神経を刺激する。それを知覚できたときには、炎の怪物は動かなくなっていた。


「ミコト君、大丈夫?」

(大丈夫じゃない)


 一連の行動を見届けてから、雨季は俺にそう尋ねてくる。警戒とともに、ピストルの銃口をこちらに向けながら。

 困惑の中から飛び出た返答は、しかし言葉にはならなかった。


「ウグワァアアアアアアァァァァァ」


 三度目の絶叫。周囲に餓鬼の姿はもうない。しかし、樹木の腕は、襲い掛かる対象を定めていた。


 隣にいる戸門雨季だ。


 振るわれる巨腕。しかし、雨季は銃を撃とうとしない。俺の方に銃口を向けつつも、後退して怪腕を躱そうとする。

 しかし、それに対応するように、巨腕も指を伸ばした。

 その指の先には、雨季の首が———


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