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14:カメラと命

「……ここか」


 公園のトンネル型の遊具。その中に、なぜか、マンホールがあった。

 生枝先輩から貰った紙には、このマンホールの下に、先輩の工房があると書いてある。


 子どもを喜ばせる可愛らしい遊具の中で、無機質なマンホールは酷く異質な存在だが、目立ってはいない。

 モノを目立たなくさせる魔術でもあるのだろうか? 


「随分と軽いな」


 いや、マンホールなんて持ち上げたことなんてないから、分かんないけど。

 それでも、この厚さ、この大きさの金属の重さでは決してない。


 マンホールを退けると、暗闇が現れた。微妙な嫌悪感、恐怖感がこびりつく。

 それでも、逃げるわけにはいかない。


「すぅー、はぁー」


 一呼吸おいて、暗闇の中へ潜る。梯子は脆く、油断していれば壊れてしまうような恐怖がある。

 それでも、闇の中を進む。七メートルほど潜ったあと、脚が確かな足場に触れた。底に着いたらしい。


「ここが、先輩の工房。魔術工房ってやつなのか?」


 あの出来事の後では、もう魔術云々を信じないわけにはいかない。

 っていうか、現在進行形で、先輩のメモ紙が宙に浮き、光りだすとかいう怪奇現象に直面している。


「えっと、これを読めってことか?」


 メモ紙が照らし出したのは、幾多の本と資料、それに電子機器。その内の一つに、『命君へ』と書かれたメモが張り付けられた資料があった。

 俺が手にとった途端、メモ紙は宙に浮かび、発光する。


 その光が映し出したのは、資料の一ページ目。俺に対するメッセージが書いてあった。


『私の魔術工房にようこそぉ! あっ、ここにある本、無警戒に読むと死ぬから、気をつけてねぇ』

「いやっ、あぶねえな!」


 目に入った文字を理解して、俺は無駄に仰け反った。

 その後で、先輩と話しているような気分になって、口角が上がる。


『命君がこの資料を読んでるってことは、私は異世界で死んでるんだろうけどぉ、気にせず説明やっていこう! あっ、私が異世界でどこまで説明するのか分かんないから一から説明するけど、知らない所までスキップしてねぇ』


 指示通りに、資料を捲る。異世界のこと、一樹のこと、魔術のこと。昨日説明されたことが、そのまま文章に変わっていた。

 説明されてない項目は、最後の一ページだけだった。


『一樹が異世界に行ったっていう証拠は、目の前のパソコンで防犯カメラの画像が見られるからぁ、確認して。あと、一樹ちゃんの唯一残った写真もそこから見てね』


 読み終わったのと、同時に、電子機器の一つが起動する。先輩が書いていたパソコンだ。


「全く、どういう理屈で起動してんのか?」


 つーか、この工房、電気通ってんの? 


 そんなことを考えながら、パソコンの画面に目を向ける。画像閲覧ソフトが開きっぱなしだ。

 動画は、防犯カメラ①、②、③。写真は、一樹というファイル名が記録されている。


「とりあえず、防犯カメラから見るか」


 防犯カメラの画像は全て、去年の六月のものだった。細かい日にちは異なるが、全て、戸門学園駅の午後7時頃の映像だ。


 画像の内容も、ほとんど同じ。7時なった瞬間、画像が乱れ、それが直った時には、ベンチに座った少女の姿が消えている。


 その現象、神隠しにも似た不可思議現象には見覚えがある。昨日、一昨日に体験した異世界の旅と同種のものだ。


 異世界に行き、戻って来れなかったら、こうなるのだろう。先輩が言っていた『どこかの異世界に消えた』というのは、この現象のことを言っていたのだ。


「この三人うちの誰かが一樹さん、なのか?」


 呟いて、考えてみたが、正直分からん。妹というからには、生枝先輩に似ているのだろうが、防犯カメラの粗い画像では、少女たちの特徴は分からない。


 しばらく悩んだあとで、一樹の写真が、別のファイルに入っていたことを思い出し、防犯カメラの画像を閉じる。


「ここに、一樹さんが、いく姉の妹がいる……」


『一樹』という写真ファイルにカーソルをあわせる。

 再びの深呼吸。そして、覚悟を決めて、画像を開く。

 そこには、—————

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