半分きもい
中盤からコメディーになります。
序盤はつまらないかも。
本日、丹下良平が店長を務めるスーパーで創立23周年記念セールが行われた。
良平は、この大事な一日をつつがなく終えることができ、満足感で全身が満たされていた。
恒例で行われる店長による餅まきでは、いつもクレームをつけてくるババアに餅をぶつけ、ストレスを発散することもできた。
ただ、ババアを狙った3個中2個は隣のジジイに当たって、お返しとばかりにみぞおちに一発もらったのはご愛嬌。
その程度では、良平のご機嫌を壊すまでには至らない。
もちろん疲れてはいるが、それは心地良い疲れであり、帰宅する足取りは軽い。
さらに、今日は奇遇にも良平の結婚記念日ということで、8時に店を出ることができた事も足取りを軽くさせる要因の一つだった。
通常なら10時前に退勤するような事は、まずありえない。
実際、創立23周年記念セールの準備の為、ここのところ連日、日付をまたいでの帰宅だった。
だからこそ、乗り切った事に対する満足感もひとしおだった。
「やっと終わった。よくやった」
良平は自分を褒めてやった。
そして、人間は喜びを誰かに分け与えたくなるもの。
今日は結婚記念なのだから、当然その相手とは、妻の小百合以外にはない。
――小百合に花束でも買っていこうか。
浮かれた気分が良平に慣れない事をさせようとする。
少し遠回りになるが、夜遅くまで開いているのは商店街の花屋しかない。
良平はいつもであれば曲がることのない角を左に進んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
かつては栄えた風情を残す商店街。
この時間に開いているのは中華料理屋とスナック、そして花屋のみ。
その他はシャッターが閉められており、中にはスプレーで落書きされたものもある。
軒先のテントの文字が読み取れない店も少なくない。
その中で花屋だけは孤軍奮闘とばかりに、ひときわ明るく周囲を照らしていた。
しかし、明るく照らすほどに光の届かぬ場所の闇を深くし、花屋を孤独に見せている。
良平は店の近くまで行き、ガラス張りの店内を覗いてみる。
冷たく刺すような白い光が店内を隙間なく照らし、色鮮やかな花たちがところ狭しと置かれていた。
良平はガラスの引き戸を開け、店に足を踏み入れる。
思っていたより店は奥行きがあり、店員は見当たらない。
良平はさらに奥へと歩みを進める。
店員は――いた。
ただ、花屋の店員とは似つかわしくない、不穏な雰囲気をもつ女性だった。
年はおよそ60前後で、眉を隠すまでに伸びた髪の下から、ぎょろりとした大きな目が良平を無遠慮に見つめている。
その目は客に対する目付きなどではなく、獲物を見つけた時の獰猛な肉食獣を連想させた。
下はくすんだチェックのスカートを履き、上は黒地に赤い文字で『BAD BOY』と大きくプリントされたTシャツを着ている。
店員はくわえていたタバコを缶コーヒーの飲み口に放り込み、「何か御用でしょうか?」と言って、黄色い歯を覗かせた。
「すみません、花束を見繕って頂きたいのですが」
「なんでですか?」
「あ、はい、きょう結婚記念日でして、妻に送ろうと思いまして……」
「あぁ、そうですか。この前の道をねぇ、市役所の方へずーっと行くとねぇ、『上松金山堂』っていう和菓子屋さんがあってねえ、そこのどら焼きが絶品でねぇ、あそこは生地も餡も自分のところで作っててねぇ、先代が3年ぐらい前に亡くなってねぇ、味が一時期落ちちゃったんだけどねぇ、娘の亜紀ちゃんがねぇ、後を継いでねぇ、今ではねぇ、先代をねぇ、越えるとねぇ、言われてねぇ、次はねぇ、お婿さんをねぇ、探し――」
「すみません、妻は和菓子があまり好きではないので……花束をお願いします。」
良平は店員の話を強引にさえぎった。
長年、客商売をしてきた者として、この手の話は終わらないと、良平は見定めたのだった。
「ああ、そうですか。それじゃあねぇ、この前の道をねぇ、変電所の方へずーっと行くとねぇ、『パンティースレーユー』とかゆう、あたし横文字苦手でねぇ、最近多いじゃない横文字のお店。ほんと覚えらんなくて――」
「すみません、洋菓子店を紹介してくれようとしてるんですか?」
再び、良平は店員の話を強引にさえぎった。
「そうそうそこのねぇ、えーとなんて言ったっけ、上にうんこみたいなのが乗ってるやつ」
「モンブランですか?」
「そうそう、たぶんそれ。それがすごくおいしいの」
「花束が欲しいんです。花束を下さい。お願いします」
良平は少し強めに言った。
そうでもしないと、次は何を勧められるかわかったものじゃない。
店員は少し機嫌を悪くした様子で、
「いつまでも、あると思うな、人の親切。字余り!!」
と、良平を睨み付けてきた。
良平は、
「いつまでも、あると思うな、客の忍耐。字余り!!!」
と、返した。
「なかなかやるじゃない」
店員は良平を見直したとでもいうように、ポケットから食べかけのどら焼き取り出して勧めてきたが、良平は断った。
「今日、結婚記念日なんです。妻に送りたいので見繕っていただけますか」
改めて、良平はお願いした。
よし! とばかりに店員はぺっ、と手につばをかけ、相撲の仕切りの体勢に入った。
だがすぐに立ち上がり、「それでは幾つか質問させてもらいます」と言った。
その後、店員は贈る相手である妻の好みについて、いろいろと質問してきた。
健造としては、金額だけ指定して後は適当でよかったのだが、答えられない質問が多くて店員に呆れられてしまう。
さらには、「結婚23年ですよね?」と、嫌味まで言われる始末。
好みの色や食べ物ぐらいだったらわかる。
しかし、プラスドライバーとマイナスドライバーのどちらを「守ってあげたい」と妻が思うのかを聞かれてもわかる訳がない。
店員の投げかけてくる回答困難な質問が続く中、良平は店員の魂胆がわかってきた。
こちらを混乱させて、高額な花束を売りつけようとしているに違いない。
――気をのまれてはいけない。
そう思い、良平は気持ちを強くした。
そして――。
次に聞かれたのは、高積雲と積乱雲のどちらが妻の好みか、という質問だった。
正直、知るわけがない。
とはいっても、何も言わなければ――気持ちが殺られてしまう。
良平は半ばやけくそで、「布団にするなら積乱雲。食べるなら高積雲と妻は言ってました」と言ってやった。
すると店員は、流れが変った事を察知したようで、目をいっそう険しくした。
しばしの沈黙の後、店員は、「ほう……。その場合、しょうゆですか? それとも……ソース?」と、聞いてきた。
今度はこちらがあきれる番である。
この店員は売るつもりがあるのだろうか?
どう考えても、やりすぎだ。
こんな質問されたら、普通は店を出る。
花束を売るという目的よりも、勝負に徹するというのか?
だがすでに――。
良平は、目の前にいる薄笑いを浮かべた店員の術中にはめられているのか?
答えたい、という気持ちが前面に出てきてしまっている。
勝ち負けを競っている訳でないことは重々承知しているが、良平のプライドが勝てと訴えてくるのだ。
「何にもつけないで食べるつもりだと、妻は言ってました」
言っちゃった。
店員は待ってました――と言わんばかりに、
「なるほどなるほど、素材の味を楽しもうと……。でも、柚子胡椒があれば柚子胡椒?」
「はい。柚子胡椒があれば柚子胡椒です……と妻は言ってました」
もう本当にやけくそである。
そこに、一人の女性が店内に入ってくる。
「あ、お客さんですか。それじゃあ山岸さん私が代わります」と、その女性は店員に声を掛けた。
山岸と呼ばれた店員は、「花束欲しいんだって。あと、この客……手強いよ」と、女性につぶやき、店を後にした。
「あの人は店員さんじゃなかったんですか?」
良平は女性に聞いた。
「ええ、中華料理屋の奥さんで、店番をお願いしていたんです」
「……そうですか」
良平は、最初から勝負に負けていたことを悟り、「まだ青いな」と、天を仰いだ。
白い光が目にしみた。
「花束をご希望ですね。それでは幾つか質問させてもらいます」と、本当の店員はさわやかな笑顔で良平に告げた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
良平は花束を手にし、鍵を開け、家の扉を開ける。
35年ローンで建てた二階建ての一軒屋――良平の血と涙の結晶だ。
家の中はいつもと雰囲気が違う。
当然だろう。
いつもは皆が寝静まった後の帰宅だ。
自分で鍵を開けなくとも、呼び鈴を押せばよかったんだ――と良平は苦笑した。
玄関に足を踏み入れ、靴を脱いで居間へと向かう。
人の出す雑音がある。
居間に入ると、小百合が畳の上に直に座り、テーブルに肘をついた状態でテレビを見ていた。
良平が「帰ったよ」と声を掛けると、「あ、おかえりなさい」と、小百合はこちらを向き、良平が手にしている花束を見て、「それどうしたの?」と笑みを浮かべながら、良平の顔と花束を交互に見る。
「今日、結婚記念日だろ」
良平は少し照れながら短く答える。
「知ってるけど、珍しいから……」
そう言って、小百合は困惑ともとれるような表情をした。
良平は、あの花屋でも熾烈な攻防を思い返し、「いらないなら、いいよ。自分の部屋にでも飾るさ」と、憮然とした表情で言った。
「ちょっと驚いただけよ。ありがたくいただきます」
小百合は苦笑して、花束を良平の手から奪い取るように両手で掴んで、台所へ向かった。
――ま、こんなもんか。
そう思いながら、良平は突っ立ったまま、小百合の姿を目で追った。
小百合は白い花瓶に花を入れてすぐに戻ってきた。
良平は自分の家に花瓶があることすら知らなかった。
小百合の好きな色である赤を基調とした花の束は、白い花瓶に入ったことで、完成された風情を醸し出していた。
「お風呂沸いてるけど先に入る?」
「うん、そうしようかな」
「ねぇ、一緒に入ろっか? せっかくの結婚記念日だし」
花を贈った事で、小百合にも非日常な気分が出てきたのか?
やはり、苦労してでも花を贈ってよかった。
「え、玲奈は?」
怜奈は、短大に入ってからいっそう生意気になってきた、良平の1人娘だ。
さすがに、2人で風呂に入るところを娘に見られるのは気が引ける。
「怜奈は一旦部屋に入ったらもう出てこないわよ」
「じゃあ……そうするか」
2人は風呂場へ向かう。
2人で入るには少し狭い、普通の一般家庭の風呂。
良平は服を脱いで風呂場に入ると、すぐに小百合の唇を求めた。
小百合は顔をそむけ、「まず、ヒゲを剃ってよ」と、良平のあごを手の平で押し返す。
「ああ、ごめん」
良平の気持ちが少し萎える。
良平は、ステンレス製の吊り下げラックに架かっている自分のカミソリを手に取る。
「前から思ってたんだけど、玲奈のカミソリってなんで2種類あるんだ? 脇だけじゃないのか?」
玲奈の管理しているラックの場所には、ピンクと青の2種類のカミソリが架かっている。
「今、夏でしょう。海とかに行った時にはみ出ちゃうのよ」
「ウチの娘は剛毛なのか?」
「ちょっとやめてよ。そんな言い方」
そう言いつつも、小百合の顔は笑っている。
2人は一通り体を洗った後、良平が小百合を後ろから抱えるような形で、浴槽に浸かる。
「いつも、ごくろうさま」
良平は、小百合の肩をもむ。
「あーいい気持ち」
小百合のリラックスしている様子に、良平の中にいたずら心が芽生える。
小百合の脇の下を指先でつついてみる。
「きゃ、ちょっとやめて」
その小百合の反応に、良平の中にいたずら心が加速する。
「ここはどうだ?」とばかりに小百合の体をあちこちまさぐっていく。
「いやっ、やめてったら、ん、やめて、んーーやめてっ!!!! ほんとっっーーーに、やめて!」
良平は気付いた――これは本当の「やめて」だと。
以前、情事の際に、良平がふざけて小百合のアレにアレをしようとした時に言われた時の「やめて」に極めて酷似していた。
良平は手を止め、自らの過ちを認めることにした。
良平は謝った。
小百合は、「すぐ調子に乗っちゃうんだから」と笑って許してくれた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
2人が風呂から出ると、玲奈が冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターをグラスに注いでいるところだった。
玲奈は2人を見て、「もしかして、2人で入ってたの?」と、不快な表情を浮かべる。
「そうよ、何年ぶりでしょうね」と、小百合が振り返って良平の顔を見る。
「うわー、きんっも! まじありえないわ」
玲奈は、虫酸が走るといわんばかりに、自らの両親にきつい目を向ける。
「玲奈ちゃん、そんな言い方ないでしょう。今日は結婚記念日なんだし。たまにはハメを外したいのよ、私たちだって」
玲奈は小百合の言葉に耳をかす気なんかさらさらない、といわんばかりに「きもい」と連呼している。
良平は、自分の事よりも小百合が「きもい」と言われている事に腹を立て、つい余計なことを言ってしまう。
「じゃあ、お前がアソコを剃ってるのはきもくないのか?」
「お母さん、言ったの? お母さんでしょ! うわーまじ死にたい」
玲奈は小百合をにらみ付ける。
自分の思惑とは外れて、小百合の方へ玲奈の怒りが向いてしまった。
これはまずい――と思い、良平はぶちかましてみる事にした。
「父さん、お前のカミソリ借りたから。父さんも休み取ってお母さんと海行くから。ぴっちりしたの履くつもりだから」
少し、たどたどしくなってしまったが、なんとか言い切った。
「まじで?! うわ、気持ち悪い……」
「きもい」の上位互換である「気持ち悪い」を良平は頂いてしまう。
そして玲奈は、「きもい」と「死んで」を交互に連呼し始めた。
今度は良平に対してだけ――。
「父さんはどれくらい『きもい』んだ言ってみろ」
また、良平は余計なことを言ってしまう。
「ぜんぶよ!ぜんぶきもい」
そう吐き捨て、玲奈は自分の部屋に帰っていった。
「そうか、ぜんぶきもい……か」
良平は、自分でも思っていた以上にダメージを受けている事に気付く。
体が重い。
良平は畳の上に寝そべる。
――ああ、疲れた。
………………………………
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
良平が目覚めるとそこは病院の個室だった。
医者の説明によると自分は過労で倒れたらしい。
一時は呼吸停止もあったらしく、すぐに発見してくれた奥さんに感謝すべきだと、医者は言った。
もう命に別状はないし、後遺症もないだろうとも、医者は言った。
もうすでに倒れてから2日経ち、つい2時間前まで、小百合がずっと付き添ってくれてたらしい。
医者から、自分が目覚めた事を家に連絡したと聞かされる。
小百合も疲れているだろうに、悪いな――という思いと同時に、早く会いたいという自分勝手な気持ちに苦笑する。
だが、見舞いにきたのは、玲奈だった。
良平にとって、玲奈とやりあったのは、ついさっきのように感じる。
もちろん嬉しくはあったが、あまりに予想外のことだったこともあり、自分の中の「照れ」が余計なことを言わせる。
「小遣いはやらんぞ」
つい、そう言ってしまった。
良平は言ってしまった後で、しまったと思い、自分を殴りつけたい気分になった。
だが、玲奈の様子に変化はなく、「そんなんじゃないよ」と、淡々と言った。
玲奈は、ずっとうつむいて沈黙しているが、ただ黙っているというより、何かきっかけを探っているように見えた。
――何かあるな。
とは思ったが、良平はこちらから聞かない方が良さそうだと判断した。
ただ、玲奈が話し出しやすいように、微笑みだけは浮かべていることにした。
「天気いいね」
唐突ともいえる、玲奈の言葉。
良平が窓の外を見ると、コバルトブルーが窓枠一杯に広がっていた。
――空ってこんな色だっけ?
そう思ったが、最近空を見ていなかった事を思い出した。
――それだけ視野が狭くなっていたのか。
そう思うと、なんだかおかしくなって、良平はフフッと笑った。
「なに笑ってんの?」
「なんだか生き返ったような気分になってね」
「死にかけたからね」
「そう、死にかけたから」
2人で笑った。
こんなことは何年ぶりだろう。
玲奈が中学校に上がった辺りから徐々に疎遠になっていったように思える。
良平の仕事が忙しくなってきたのもその辺りだった。
「ちょっと相談があってきた」
「うん」
「大学やめようかなって思って」
「唐突だな。父さん、さっき起きたばっかだぞ」
「なんか、今しか言うタイミングがない感じなんだよね」
確かに、最近家にいても、あまり顔を会わせる機会がない。
会話となればさらに少ない。
それにしても、怜奈は大学を楽しんでいると、小百合からは聞いていたのだが……。
「楽しくないか?」
「ううん、そんな事もないんだけど……お父さん、しばらく働けないでしょ。私も働こうかなって」
――言い訳だな。
そう良平は思ったが、そう思った自分に疑問が湧き上がる。
なぜ自分は、娘のことをすべてお見通しだと、思っているのだろうか?
小さい頃の、玲奈が単純で素直だった頃の記憶がこびりついてしまって離れていないのではないか?
玲奈はもう大人だ。
玲奈が、家族を心配して考え抜いた結果であると、考えてあげるべき。
玲奈が、家族を心配して考え抜いた結果であると、考えてあげたい。
玲奈が、家族を心配して考え抜いた結果であると、考えるべき。
玲奈が、家族を心配して考え抜いた結果であると、考えたい。
これだけ「べき」と「たい」が揃えば結論は簡単。
「――ありがとう」
良平は枕から頭をもたげ、玲奈に頭を下げる。
玲奈は照れるか、と思ったが、「うん」と、神妙な顔でうなづいた。
ここからは、父親の底力を娘に見せ付ける番だ。
「怜奈は幸せになりたいか?」
「え? まぁなりたいけど……あんま真剣に考えたことないかなぁ」
「父さんは怜奈に幸せになって欲しいと思ってる。でも、父さんは手伝うことは出来ても、怜奈を幸せにするのは怜奈自身でなきゃいけない。怜奈自身がどの方向へ行けば幸せになれるのか真剣に考えるのなら、いくらでも手伝ってあげたいと言う気持ちがあることを知って欲しい」
「でも、お金がないとどうしようもないでしょ。今まで、わたしはバイトで少しくらいしか稼いだことないけど……。大学やめて稼げば結構……いろいろ足しになるでしょ」
「父さんの解釈は少し違う。父さんが稼いだ分の3分の1は怜奈が稼いだようなもんだよ。というより、3分の一は怜奈の為にはたらいたようなものなんだ。
でも、最近は生意気だから4分の1かもな。ははは」
良平は続けて、
「あとな。お金の事は心配いらない。山形のおじいちゃんいるだろ?あの家は土地をたくさん持ってて凄い金持ちなんだ。いざとなれば父さん土下座してお金借りるから。父さんの土下座は本部でも噂になるほどいい土下座をするんだぞ」
「それ、全然かっこよくないいんだけど」
玲奈はクスリと笑った。
自然な笑い。
「今回の事でびっくりしただろうが、もう少しゆっくり考えてみるといい。それで出した結論なら、父さんも賛同するから」
玲奈はうなずく。
「もう一回考えてみる」
そう言って玲奈は席を立った。
そして、それじゃあね、と手をあげて病室のドアノブに手を掛ける。
「なぁ、父さんやっぱりぜんぶ『きもい』か?」
これは――つい余計なことを言ってしまった訳ではない。
怖いが、聞いておきたいのだ。
玲奈はドアノブから手を離し、こちらを向いて少し考え込んだあと、「半分くらいかなぁー」と、言った。