未成年に手を出し何度も逮捕されたヤベー奴
さて。面識のない貴族から招待を受けてはいるが、まずはアスリー師匠だ。十日後ピッタリで来ることができれば二日後、明後日ラクスの魔法学院につくはず。
それまでの間は自由時間ということで、レーンとディアは修行に、ウェインとエルは封印魔法の訓練に費やした。アヤナは貴族の仕事(いわく手紙書いたりするだけとのことだが)をやり、座学で疲労が溜まっているモニカは休みにさせておいた。
封印魔法の練習は、なかなか捗らなかった。
もともとウェインもエルも専門で鍛えていたわけではないし、そこにこの数人がかりで行う『極大封印呪文』は難易度が高い。アヤナとモニカ……特に魔法力の高いモニカには、一度手伝ってもらいたいと思っていた。
ラクスの門の外側で待機している馬車たちには、レーンとディアが挨拶しにいったらしい。それと同時に、レオナール家の通信施設に『数日待って欲しい』との連絡を入れておいた。
そして次の日……時間が空いたとのことで、午前中はアヤナとモニカにも『極大封印呪文』を手伝ってもらうことができた。
最初の何回かは失敗だったが、ウェインとエルのお手本があったのですぐに修正し、なんとか形にはなってきた。……しかし想定のパワーにはまだまだ遠く及ばない。
進展があったのは午後。魔法学院から、アスリー師匠の手紙が届いたと報告を受けた。
『親愛なるウェイン。私はラクスの街に到着した。
ただワケがあって魔法学院に行くことができない状況だ。
少し離れたビジネスホテルに滞在しているので、この手紙をもってそこまで来て欲しい。ホテルマンにはその旨伝えてある。
アスリーより』
中身を読んだが、たいしたことのない手紙のはずなのに速達・重要記録扱いだった。
あまりピンと来なかったが、ウェインはレーンやディアを呼び寄せ、6人で指定されたビジネスホテルに向かった。
「レーンのお師匠さんか。どんな人かちょっと気になるよな」
「パワーアップイベントやってくれるみたいだしね」
レーンとディアは結構上機嫌だ。対してアヤナとモニカは、少し疑問があるらしい。
「なんで待ち合わせ場所が魔法学院じゃないのかしらね」
「……なんか学院に顔を会わせられないことでもしちゃったんでスかね……」
エルだけ、少し取り繕ってくれる。
「その、向こうにも色々事情があるのかもしれないわ。今回はウェインが呼び出しちゃったから、あまり準備とかできていないのかもしれないし……」
ウェイン当人は、アスリー師匠のことだ。全幅の信頼を置いていた。だがこうも奇妙な指示をすると言うのは、何かはあるだろう。しかしそれも会って聞いてみればいいというスタンスだった。
手紙を持って、指定されたホテルへと行く。何の変哲もないホテルだ。手紙をホテルマンに見せると、彼は頭を下げ、アスリーの取っている部屋の番号を教えてくれた。
ぞろぞろと6人で歩いていきドアの近くまで行くと……突然、ウェインの脳裏に吐き気のような感覚が沸いた。ウェインは咄嗟に頭を下げ、しゃがんで右指を地面に伝わせる。
レーンは一気に跳躍してドアの前へと跳び、腰のショートソードに手をかける。一瞬遅れてディアが壁から離れ、腰を落としショートソードの柄に手をかけた。エルは「きゃっ!」と軽い悲鳴を上げ、何歩か後退する。
……アヤナとモニカは棒立ちのままだ。……まったく! これは後で注意しておかねばならない。
「アヤナ、モニカ、今アンダーグラウンドソナーとサーモで索敵魔法を浴びせられた!」
「え? え?」
「こういう時は注意するんだよ。例えばもしこのドアの向こうにブレーナーとアイカがいてみろ、5秒後には俺たち数人の首が刎ねられるぞ!」
ことの重要性を把握したのか、アヤナとモニカは少し後ろに下がる。
ウェインは頭を下げ姿勢を低くした時点で、こちらも索敵魔法を使っていた。しかも三系統だ。
アンダーグラウンドソナー……動きなし。サーモ……人間の熱一体ぶんあり。アクティブレーダー……なにやら二人分いる。
レーンは横目でウェインを見てくる。ウェインは肯いた。
このドアの向こうにいるのがアスリー師匠なら、『アスリー』や『師匠』と名前を呼ばれたくはないんじゃないのか? だからウェインは、その部分は伏せて呼びかけた。
「部屋にいる人! 俺はウェインです。手紙をもらって、こちらに来ました」
するとドアの向こうから、懐かしく、ちょっと嬉しそうな声が聞こえてきた。
「おぉ、その声は本当にウェインだな。すまない。私は今、ちょっと追われてる身でな。神経質になっている。そっちの人数は把握した。人数だけでいいから申告してくれ。私の索敵魔法と数字があっていれば問題ない」
「俺含めて、全員で6人ですよ。俺の仲間なんです」
「ああ、ピッタリだ。脅かして悪かったな。何せこっちはウェイン一人でやってくるものと思ってたから驚いてしまった。今、鍵をあける」
「そっちにはサーモじゃ人間の熱一体なのに、レーダーではその部屋の中に二人いるようですが?」
「デコイだ。囮だな。急いで作ったので熱を入れる暇がなかった。デコイは今消すよ……」
と話が終えたくらいで、ホテルの部屋のドアが開かれた。
そこにはウェインは忘れようもない自分の師匠……アスリー師匠が立っていた。
目が合うと、アスリーは満面の笑顔になる。
「あぁ、ウェイン。カッコ良く成長したなぁ! もっとも私はお前が15歳くらいのまま成長しないでいてくれたほうが性的に興奮するんだがなぁ!」
ギュっと、抱き着いてくる。
ウェインはまず、部屋の中に他に誰かいないかを視線で探した。……大丈夫、さっきのレーダーに反応があったのは、アスリー師匠が造り上げたデコイ(囮)のようで、他に誰もいない。ウェインはようやく安心して、アスリー師匠を軽く抱きしめた。
「師匠もお元気そうで何よりです。師匠の教えは、確実に俺を助け、成長を促してくれましたよ。感謝してます」
「うんうん。可愛いなぁ。……これでウェインが13歳とかだったらなぁ……」
頭を撫でてきたり、胸を押し付けてくるアスリー師匠だ。
「師匠……俺の仲間を連れてきているんで、部屋の中に入っては……」
「おお、そうだったそうだった。一人部屋に合計7人で狭いが、まあ我慢してくれ」
レーンたち全員がその部屋に入ると、アスリーはドアをしめ鍵も閉めている。
「アスリー師匠……『追われてる身だ』って言ってましたけど、まさか同意なしで未成年を襲っちゃって、警察に追われてるとかじゃ……」
「失敬だなウェイン。私はそんなことはしないぞ。同意に取り付けるまでが醍醐味だ」
「あの、じゃ、俺の腕に胸を擦りつけてくるのやめてもらえます?」
「スキンシップだよスキンシップ。久々に会ったのに、ウェインは冷たいぞ」
ウェインを除く、レーンたち全員がこのアスリーに(ある意味)圧倒されていた。
アスリーは魔法学院の制服は着ていない。普通の旅人用の服だ。フード付きのマント姿だが、そこは緑と茶色系統が使われ迷彩色になっている模様。左の腰には護身用のサーベルと、多分右側の後ろの腰にはナイフがマウントされているであろう。
長い黒髪に、黒い瞳。髪の毛は後ろで束ねている。年齢は、確か前に会った時の時点で25歳くらいだったから、今は27歳か28歳くらいで30歳手前のはず。普段の凛とした表情はかなり魅力的に映るのだが……おちゃらけた話をする際の表情はかなり崩れ、しかしそれは周囲の空気を和ませるものがあった。
アスリーは言う。
「ここに来る間、情報収集をしたよ。ファントム事件のこともな。ウェインは大活躍だったそうじゃないか」
「まあファントムには逃げられたんですが……」
「それに『アッシュが生んだ魔法生命体』ならともかく、それがどの程度のレベルか知らないが『悪魔使役』を行う能力がある……これは魔法学院も、ラクスも、レオン王国も黙ってはいられないというのはわかるよ」
「そうです。もっとも、俺一人の活躍じゃありません。ここにいるみんなが頑張ってくれました」
ウェインは他の5人に自己紹介を促す。それぞれウェインとの関係、所属や得意な分野、苦手な分野などをアスリーに伝えた。
エルがウェインとともに『旅の魔導士』になったことは、アスリー師匠もとても喜んでくれた。
その自己紹介の過程で、アスリーはレーンの自己紹介の時に声をかけている。
「レーン君。さっきこの部屋のドアの前で私が索敵魔法を使った瞬間ドアの前に跳んだのは君だろう? 君が一番背が高いから、歩幅でわかる」
「はい、そうです。俺は昔はスカウトをやってましたし、今では軽戦士なものですから」
「抜群の反応に思えたが……なんでもラクスに帰る時に二人組に襲撃されて、レオン王国の兵士たちはほぼ壊滅になったそうじゃないか。ウェインがついていながら。相手はそんなに強かったのかなレーン君?」
「今まで見たこともないくらい、強かったです。俺も一対一じゃ勝ち目がない。もし勝てるとしたら奇襲ですが、相手の女スカウトはかなりの腕前だ。こちらから接近できないと思います」
「ファントムにとどまらず、化け物のような二人組かぁ。うーん、ウェインもレーン君たちも大変だなぁ」
「手を焼いています」
「ところでレーン君は19歳だろう? ……数字の上では私の守備範囲だし、美形だし、さぞモテるだろう? 私もそれだけで抱きしめたくなるが……まあ背がデカいのは私にとってマイナスだな。簡単に抱っこできるくらいの身長が私は好きだ」
ウェインは言った。
「師匠の性癖はどうでもいいですよ。それよりあの封筒。『更なる力を欲する時、これを開封せよ』ってヤツ。アレをどうにかしてほしいんです。俺に昔、アスリー師匠が『封印』をかけたなら、それを取り除くことで俺の力は増すはず。それを期待しているんですから」
アスリーは肯いた。
「もちろん、私はそのためにここまで来たんだからね。ただその前に、ウェインに少し話があるんだ」
「話?」
「ファントムがそうだったように……『悪魔』に関する話だ。聞いてくれるかな」
今のアスリーの顔は真面目だった。
ウェインは肯いた。




