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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.1

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アリス隊の「集大成」

 レーンと、アリス隊の三人が訓練着と防具に着替えに行っている。

 ラウンジにいた暇な学院生や噂を聞いた生徒たちも大勢訓練場に集まってきた。

 ……結構、というかかなり大勢の人間が集まった。剣のことは専門外の学生たちも、アリス隊と言えば花形である。なかなか見れるものではないからだ。


 ルー中尉、エミア少尉、マリー少尉と、訓練場に姿を現した。持っている竹刀は短めでショートソードを想定したものだ。

 一方のレーンも姿を現すが、こちらは普通の長さの竹刀。


 訓練場は、拍手と大歓声に包まれる。

 特等席に座ったウェインはエルたちに言った。

「エル、アヤナ、モニカ。よく見とけよ。俺とレーンが最初に戦った時は、レーンは対多数の戦闘で勝ち上がってきたんだからな」

「う、うん。……。でもなんだか緊張しちゃう……」

「レーンの強さは知ってるけど、アリス隊3人と戦うなんてのは思ってなかったわ」

「どうなるんスかね?」

「ルー中尉の剣は見たことないけど、まあレーンが勝つと思うよ。問題はその勝ち方だ」


 ディアはここにはいない。レーンとアリス隊の横にいる。一応の審判役だ。

 レーンもアリス隊の三人も、軽く礼をするとヘルメットを被った。審判のディアへ準備OKのサインを出している。


「両軍ともいいわね……? じゃあ、ファイッ!」


 ディアの声とともに、周囲から再び大きな拍手と歓声。


 レーンとアリス隊は徐々に間合いを詰めて……止まって。そこで互いに打ち込む隙を窺っているように見えた。

 ……だが、アリス隊の様子が少しおかしいことに、ウェインは気が付いた。

 何やらアリス隊は身体を震わせたり、一瞬後ろに飛びのくような動作をしている。なんというか……ドタバタ? してるような感じ。

「レーンが……何かしてるのか?」

 レーンはほとんど動いていないように見えるが……。

 ウェインは大きく息を吸い込むと、瞬活の一つ、『ホワイトフィールド』を使った。体感時間がゆっくり遅くなっていき、同時に周囲の色覚情報が落ちていき世界が白くなっていく……。


 その『白い世界』の中でウェインが見た物は、想像すらしていなかったことだった。

 レーンが視線、剣先、つま先などを少し動かしただけで、アリス隊の3人は誰かが回避行動を取っていた。そこを他の二人がフォローしようとするから、アリス隊が少しずつ震えたような動きに見えたのだ。

 そう……レーンはあの間合いを完全に『支配』していた。レーンのリーチとダッシュ力があれば、即勝ちに繋がる間合い。

 あぁ……そう言えばレーンと初めて戦った時、色々と軽いフェイントを入れられただけでウェインの態勢は崩れたものだ。

 だがそんな高度な技術を、三人相手に、しかも正規に訓練された軍人に対して行っている。レーンの剣の腕はとてつもないものなのだと、改めて実感した。


 そしてそこからのレーンは、非常に速く、そして簡単にコトを済ませた。

 大きく間合いを詰めると、アリス隊の迎撃を弾いたり躱したりしながら次々とアリス隊の急所に竹刀を叩きこみ、ほぼ一瞬で場を制圧した。


 ……まるで華麗な舞いだった。

 美しさすら覚えた。


 そしてウェインの『ホワイトフィールド』の接続時間が切れてくると……周囲に色や音が戻り、場は拍手と大歓声に包まれていたが……ウェインは自分に鳥肌が立っていることに気づいても、何の不思議もなかった。

 レーンの動きには美しさすら感じたが、あれがもし『敵』であったならば。


 そして。

 ……自分はあの高みへと登れるだろうか。エリート揃いのアリス隊三人を同時に相手をし、圧勝する……。恐らく一生を賭けるくらいの覚悟がなければ、届かない高み。


 ルー中尉、エミア少尉、マリー少尉と、ヘルメットを脱ぎ頭を下げている。レーンもヘルメットを外して小脇に抱えた。

「想像以上です。凄いものですねレーン殿。精鋭で連携の得意なアリス隊が三人がかりでも全く歯が立たない」

「お褒め頂き光栄です。しかしブレーナーは私より頭二つは抜けている……」

「一般兵では数を集めてもあまり意味がないかもしれませんね。せいぜい数秒間を稼げるかどうか……」

「ルー中尉。私で『仮想ブレーナー』は務まりましたか?」

「はい。十分です。ただレーン殿、願わくばあと一つお願いがあります」

「なんでしょう」

「もう一度、模擬戦をやっていただきたい」

「それは構いませんが、結果は変わらないかと」

「いえ、条件を少し変えます。エミア少尉!」

 エミア少尉は肯くと、短めの竹刀をレーンに手渡した。

「これは?」

 エミア少尉は言う。

「ショートソードと同じ長さです。レーン殿は今度は武器をそれにして、我々を全力で倒しに来ていただきたい」

「なるほど……」

「レーン殿もショートソードを帯びていたはずです。扱いに問題はありませんよね?」

「はい。……なるほど……」

 レーンは短い竹刀を受け取ると、少し距離を取った。


 周囲の観客からは、また大きな拍手と歓声が上がる。

 エルがウェインの右袖のあたりを引っ張ってきたので、ウェインは顔を向けた。エルは不思議そうにしている。

「ウェイン。私、全然レーンの動きを目で追えなかった。でもレーンが圧倒してたってのはわかるわ。でも次はどうしようと言うの?」

「得物を同じ条件にしたんだ。互いにショートソードならどうか、と」

「ショートソードって、少し短いだけよね? さっきあんなに圧勝したレーンなら……」

「普通ならたいして変わらないと思う。強い奴は何を持っても強いんだ。ただアリス隊は屋内での警護任務を主体としている……つまりショートソードは得意分野だ。俺にもどうなるかはわからないけど、アリス隊は善戦するかもしれない。エル、ここぞって時に『ホワイトフィールド』を使って見極めてみろ」

「わかったわ」


 大勢の観客の大歓声の中、審判役のディアが片手を上げる。

「はい、両軍。位置について……。用意はいい? ……。ファイッ!」


 先程の再現のようだった。互いにゆっくりと近づいていき、間をあけて足を止める。

 しかしその『間合い』は、先程のものよりも僅かに互いに近かった。


「……やっぱり。レーンが少し攻めあぐねている」

 アヤナが驚いた感じで声を上げた。

「え? 何で? さっきはあんなに圧倒的だったのに」

「さっきはレーンのリーチが圧倒的だったからやりたい放題だった。でも今のレーンの利点は手足の長さとダッシュ力だけで、そこまでリーチに大差はない。そこに一対一ならまだしも、相手は三人。一撃を当てても防がれても、カバーに入っている人間から反撃が来る。となれば先に攻撃を仕掛けるのもなかなか難しい」


 と、レーンが低い姿勢から突進し、打ち合いになった。

 何度も何度も互いに攻撃が繰り出されては、防がれ、避けられたりしている。

 先程の光景とは全く別物だった。


「今度は互角っぽいッスね」

「モニカ、よく見とけ。アリス隊の連携が巧いんだ。アリス隊は攻撃の時は必ず二人以上で仕掛けてるし、防御時は攻撃を受ける人間は防御に専念し、そこに必ず仲間のカバーが入っているおかげで凌いでいる。相当訓練された動きだ。レーンとディアがカバーしあうよりも技術的に上だと思う」

「へぇ。どうなるんですかね」

「レーンが勝つとは思うけど、苦労するだろうな」


 そこでレーンが戦法を変えたようだ。かなり積極的に攻撃を仕掛け、隙あらば連撃で仕留めようとしに行っている。

 アリス隊の三人が同時に切りかかって行ってもレーンは防いだり躱したりで、後ろに下がらない。……もし後退すれば、アリス隊に立て直す時間を与えてしまうと思ってのことだろう。

 試合は乱戦になっていた。

 だがレーンは一歩も引かず、全て弾いたり避けたりしながら反撃を繰り出している。その神業的な動きで、周囲のギャラリーからどよめきが起こった。

 趨勢が決まったのはそれから十数秒後。エミア少尉の頭部に綺麗に突きが入り、エミア少尉が後ろに吹っ飛んで倒れる。

 そこから後は、すぐだった。なんとか三人がかりで均衡を保っていたのに、そのうちの一人が欠けてしまってはもうどうにもならない。マリー少尉とルー中尉もレーンの攻撃を受け、試合はレーンの勝利で終わった。


 レーンと、アリス隊の三人はヘルメットを脱いで小脇に抱え、ギャラリーに手を振って歓声に応えている。

 アヤナが感心したように言う。

「やっぱりレーンは凄いわよね。三人がかりの正規の軍人を倒しちゃうんだから。……でもブレーナーって、もっと強いって話じゃん。どうしたらいいのか……」

 ウェインは返した。

「もしやるなら、だが。三対一の連携は有用だとわかった。俺たちなら順当にいけばレーンとディアで二人だから、後は戦える俺かアヤナが入ればブレーナーを一定時間封じ込めることはできるかもしれない」

「え? だって襲撃を受けた時、こっちにはもっと軍人たちがついてたわよね?」

「戦い方次第ってことだよ。そこらへん、アリス隊の人たちが一番詳しいと思う。行ってみよう」


 試合も終了と言うことで観客たちは段々と散っていく。その足取りに逆行するように、ウェインたちはレーンたちのほうへと歩いて合流した。

「お疲れ、レーン。どうだった?」

 レーンは汗をぬぐってから答える。

「二つ、思ったね。一つはアリス隊の練度が想像以上だったこと。もう一つは、やはり俺はあまりショートソードに慣れてないんだなってこと」

 アヤナが不思議そうに聞いている。

「慣れてない? レーンっていっつもサブとしてショートソードを差してるわよね」

 それにはルー中尉が答えた。

「レーン殿の『基本』は、思った通りロングソード系……厳密にはバスタードソードだということです。レーン殿はそこを基軸として研鑽を積まれてきた。そんなバスタードソードに比べれば、ショートソードの訓練に割いた時間は多くない、と見ました」

「ええ、その通りです」

「一方の私たちアリス隊は『基本』がショートソードということ。そして、多くの訓練を『対ショートソード』に割いてます。相手の武器がショートソードだという状況にも慣れているということです」

 エルが小首を傾げて、聞く。

「相手がショートソード? そう限定して訓練をされているのですか?」

「限定とまでは言いませんが、対ショートソードの訓練は多いです。何せ屋内での要人警護が主任務ですからね。屋内では通路が狭く天井も低い。槍やロングソードは使えません。すると大抵はショートソードになるのです。もちろん違う武器を想定して訓練もします。例えば手斧。例えばメイス。例えばナイフ。但しリーチとして最も長いのはショートソードです。そして我々の任務は『敵を倒す』ではなく『誰かを守る』、つまり時間を稼げば我らの勝ちという考え方です。防御主体に戦うことにも慣れています」

 レーンがその言葉を引き取るように言う。

「もしブレーナー相手なら。あのグレートソード相手では対抗できないが、ショートソード同士で戦えば惨敗しないかもしれない、と……」

「そういうことですね。もちろんブレーナーがグレートソードをうっかり家に忘れたまま襲撃してくることなんか期待できません。なのでブレーナー相手の戦略は二つです。ブレーナーが屋内にいる時にこちらから攻撃を仕掛けるか、あるいは屋内で待ち伏せて陣を敷くか。どちらにせよ屋内戦です。屋内であれば通路は狭く、天井は低く。壁があり手すりがあり階段があります。これらは大柄なブレーナーやレーン殿が苦手となるところ。むしろ小柄なアリス隊のほうに地の利がありますから」

「アリス隊って、やっぱり凄いんですね!」

 モニカは無邪気に喜んでいる。ルー中尉は笑顔で返してきた。

「ありがとうございます。適材適所とでも言いましょうか……ともあれブレーナー対策の基本の一つになりますね。これは軍部に持ち帰ります」

 レーンは少し笑って言った。

「何かしら成果が出たなら大歓迎ですよ。ちなみに、他にブレーナー対策は何かあるのですか?」

「屋外戦は私は専門外ですので……。しかし屋外の開けたところで戦うなら、白兵戦は恐らく槍の数を揃えることになりそうですね。後はウェイン殿がやったように魔法で迎撃するくらいしか手はないかもしれません。もしくはクロスボウでの遠距離狙撃か。狙撃も魔法と組み合わせれば、矢の誘導もできるので上手く行くかもしれません……」

 弓やクロスボウで狙撃し、矢を誘導して命中させるプランはウェインも考えていたので言ってみた。

「中尉。それができる軍人は、どれぐらいいますか?」

「少ないですね。専門にしているのは人質救出などの特殊部隊……なのでむしろ警察のほうが訓練している人間がいるかもしれません。アリス隊は弓の類は使いませんが、逆に撃たれることに対しては訓練しています。警護対象が狙撃された場合、最悪は自分の身体を楯とせねばなりませんから」

 外から見ると花形でありエリート揃いのアリス隊も、そんな覚悟があるのだとウェインは思い知らされた。


 ルー中尉は言う。

「さて、それでは本日最後の用件を果たして、私たちは帰ることにしましょう」

 その言葉に、ウェインは少し違和感を持った。

「ルー中尉。用件って、レーンと模擬戦をやることでは……?」

「もちろんそれは大事なことでした。仮想ブレーナーとして屋内戦・対ショートソードがどこまで有効かどうか、など……。しかしそれはあくまでこちら側レオン王国軍の内部での話。本来、民を守るべき軍人が民に頼っているだけでは情けない。そう思いませんか?」

「はぁ……」

「ふふっ。そう不思議そうな顔をしないでくださいウェイン殿。貴方がたには勲章や金一封が出てもおかしくないのですが。しかしファントム事件が収まっていない今はまだ勲章などをあげられる時期ではない。それどころか、我々軍人は正式にウェイン殿、エリストア殿、レーン殿に協力要請を出している。レーン殿などはレオン王国人でもないと言うのに。……これで軍部が手ぶらで貴方達を帰しては、それこそ面目が立ちません」

「あ、何か頂けるのですか? でもこの前報酬も出たし、今そんなに困っては……」

 ルー中尉はクスクス笑った。

「いいえ、もっと大事な物です。これがあるいは対ブレーナーの切り札になるかもしれない……それは言い過ぎかもしれませんが、引き出しは多いに越したことはないでしょう。『コレ』は一つしかありませんが、ウェイン殿たちの間でなら共有できるんですよね?」


 ルー中尉は目を閉じ軽く右手を掲げて呪文を唱えると……空中に、鈍く輝く球体の魔力……瞬活イメージを出現させた。


「中尉、コレは!?」

「『付与研』のジャンさんに聞いて、私たちの間で練った集大成です。アリス隊ではコレができて初めて一人前と言われますが、他の部隊ではなかなか訓練しませんからね。……『ショートソード』や『屋内戦』の瞬活イメージが入っています。ウェイン殿たちの話を信じるのなら、これによって貴方がたは私たちに近い動きができるはず」


 ウェインはそっとその『瞬活イメージ』を回収し、少し幻覚魔法で再生してみた。そう、そこにはショートソードや屋内戦のノウハウがギッシリ詰め込まれているようだった。

「凄い……! 中尉、ありがとうございます!」

「いえ、呼び出したのはこちらですからね。これぐらいの手土産はないと」


 ウェインは振り返って、レーンと、続いてディアとハイタッチをした。背の大きさからレーンはあまり参考にならないかもしれないが、もともとショートソードを使うディアは最大限にその恩恵に預かれるはずだ。無論、ウェイン自身の武器もショートソード。かなり戦力の底上げになるだろう



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