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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.1

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94/311

『最強』と『汎用』

 魔法学院内、ラウンジにて。

 6人が集まり、うちモニカは他の5人に祝福されていた。座学の免除試験に受かったからだ。

「じゃーモニカも貴族のレオナール家ってとこに行けるんだね?」

「はいディアさん。今の私は怖いものなしです。実戦に勝る訓練などないってウェインさんはいつも言ってますし、これで皆さんについていくだけで私は魔法学院の単位を集めることができます!」

 あのあとウェインはモニカの学院内データを改めて詳しく調べたが、必須・必修科目や基本科目は優秀な成績であり、後は応用や専門科目などを履修していけば魔法学院卒業となる。それも、座学も最低限は単位は足りていて、後は例の特例措置でウェインが書類にサインさえすればモニカは卒業までの単位をほぼ集めることができる段階に来ていた。

 そもそも応用過程をすっ飛ばして『ウェインの弟子(押しかけ)』になっているのがモニカだ。それ事態が結構な特例で、魔法学院内でもトップレベルの成績を残していないと許可されないことだった。

 今までウェインは、モニカはまだ13歳と言うことで『ゆっくり・じっくり』育てようと思っていた。が、これで少し認識が変わった。

 座学はともかく、実技でのモニカは魔法の基本はほぼ満点だ。十分に応用を……つまりウェインが好きなように魔法を教えてもいい段階にまで来ている。

 それにウェインだって13歳くらいでアスリー師匠に弟子入りをして鍛えられた。これは別段不思議ではなく、単にモニカが優秀な生徒であるということを示している。

「モニカ」

「なんです? ウェインさん」

「確認しておきたいことがある。13歳当時の俺はアスリー師匠に弟子入りし、各地を旅して回った。お前もこの先、そんな感じで問題ないか? 教授職や研究職に行くなら、今から仕込むという道もあるが」

「いえ、とりあえずこのままウェインさんについていきますよ。私は将来、ウェインさんの副官とかそういう立ち位置になるのが夢で、それがダメなら……ウェインさんやエルさんと同じように『旅の魔導士』を目指してもいいかもしれませんねー」

「そうか。ただモニカ。まず言えることは、俺の13歳当時と比べて、モニカはまだ魔力が足りてない」

 モニカは嬉しそうに笑う。

「そりゃそうですよ。簡単にウェインさんレベルになれたら苦労しませんって」

「ああ。だがモニカの魔力は綺麗な形で整っている。これからは俺がモニカに色々な魔法を教えてあげるよ」

 モニカは一瞬驚き、ぱあっと笑顔になった。

「本当ですか!? やったぁ! ついに私のこと、認めてくれたんですね」

「今までもモニカの魔力自体は認めていたが、学院の卒業とか進路とかを最優先に考えてただけだよ。……その上で、俺の13歳当時とモニカで、モニカが勝っているところがいくつかあるんだ」

「はい?」

 モニカは少し驚いたような感じだった。

「一つは体力。お前は普通学校では中距離の陸上をしていたと言っていたし、旅に出るからとトレーニングもした。しかし俺が本格的にトレーニングを始めたのは15歳くらいからだ。それまでフェンシングとかは習ってたが、俺も白兵能力とかは低かったし体力もなかった。それまでは『普通』に近い魔法使いだったわけだ」

「へぇ……」

「もう一つは白魔法への適正。俺は白魔法は初級が何とか扱える程度にしかセンスがなかった。だから俺はモニカに白魔法を教えることはできないが、モニカは独学や、エルにでも教えてもらえ。俺とは違ったタイプの魔法使いとして、成長することができるはずだ」

「了解ッス」

「最後にレーンたちの存在だ。剣の技術やスカウト技能、体術、格闘術全般。そして『瞬活』。これらをできるだけ見て学んで吸収しろ。俺の理想の魔法使い像になれるのは、あるいは俺ではなくモニカかもしれない……」

 モニカは驚いたような顔で、笑いながら否定した。

「えっと、私なんかそんなになれますかねぇ?」

「やってみなきゃわからん。ただ俺より白魔法で秀でているのは確かだ。そこだけでも可能性を秘めている。……モニカ。ファントム事件の時、俺はお前の命を預かった。憶えているか?」

「はい。忘れようがありません」

「あの時は『他の魔法使いを育てられるようになれ』とか言った気がするが、ちょっと撤回・変更だ。モニカはモニカの道を行け。そりゃ黒魔法のセンスでは俺に劣るのは確かだが、白魔法では逆だ。だから俺と『同格』になれるかもしれない。あるいは『それ以上』の可能性もある。だから今後、今まで以上に研鑽を積め」

 モニカは深く聞き入っていたが、肯いた。

「……。はい。わかりました」


 そんなことをラウンジで話していると、ふと、周囲の空気が変わってきているのを感じた。ウェインは周囲を見渡す。

 ラウンジの入り口に、3人の女性がいた。

 腰にショートソードを差し、鎧は着ていないがその制服はレオン王国軍のもの。……いや少し違う。普通の軍服と僅かに違っている……。

 アヤナが言った。

「アリス隊の軍服よ」

 その三人はラウンジの中に集まっているウェインたちを見つけると、片手を上げて近づいてきた。周囲の学生たちからは興味深そうな視線が飛んでくる。

「ウェイン殿、レーン殿、お久しぶりです」

 リーダー格の人間は、ルー中尉だった。カドニ村にいち早く到着したアリス隊の指揮官。彼女は敬礼してくる。

 ウェインとレーンは軽く頭を下げた。ウェインは言う。

「ルー中尉。ラクスに戻っていらしてたのですね」

「はい。私たちは『繋ぎ』の間だけでした。そもそも当時は偶然一番近くにいたという理由だけで救援に向かいましたからね。レオン王国から正式な増援が届いたので、私たちも撤収命令が出ました」

 ルー中尉の後ろにいた二人も敬礼してくる。……ウェインにも見覚えがある。カドニ村からラクスまで護衛してくれたアリス隊の戦士たちだ。アリス隊のリーダーのエミア少尉とマリー少尉。マリー少尉はブレーナー戦で自前のショートソードを折られたので、ウェインが一時的にショートソードを貸していたので良く覚えている。

 今度はレーンが声を出す。

「ルー中尉。この前はラクスまでの護衛任務、ありがとうございました。貴方がたがいなければ、我々も無事ではいられなかった……」

「いえレーン殿。今日の用事の一つは、その護衛任務での我が隊の力不足をお詫びに来たことです。戦士タイプで優秀なエミアとマリーを同行させたのですが、ブレーナーという人間はあっさり突破してきたとか」

「アレは敵が悪かった。あの時のアリス隊は確かに初動は遅かったですが、いざブレーナーやアイカのフォローに入ると上手く連携していました。あれだけの技術と練度に感心したものです。……それで残りの『今日の用件』とは何でしょう?」

「実は隊の者の一人が、『付与研』でウェイン殿の対ファントム戦、レーン殿の剣技を体感しまして、これは価値があると私に報告してきたのです。それで、先日私もそれらを拝見致しまして」

 ウェインはちょっと驚いた。口コミで広まるのが早すぎるだろう。


「アヤナ・フランソワーズ様」

「なんでしょう、ルー中尉」

「上手くすれば、あの『瞬活』という技術を兵士の訓練に組み込めないかという話が出たのです」

「まあ、それは名誉なことです」

「アヤナ様、ウェイン殿、そしてレーン殿。レオン王国軍がそのテストをして構いませんでしょうか? これが二つ目の用事です」

 ウェインは特に異論はなかったので、レーンを見る。レーンは肯いた。一方でアヤナが声を上げる。

「ルー中尉? 私への許可は必要ないと思いますが……」

「いえ、アヤナ様は既にフランソワーズ家を上げて開発協力している、いわば一人者ですので。横取りのような真似はできないと言うのが王陛下の判断でした」

「王陛下まで話が通っているのですか?」

「はい。アリス隊は国王直属ですので、通りが早いんです」

「それならなおのこと、私たちには栄誉なことです。確かにフランソワーズ家が開発に関わりましたが、まだ正式なものでもなく、契約も特にされていません。後は王陛下のご判断を尊重されるとよろしいかと」

 ルー中尉はニッコリ微笑んだ。

「アヤナ様は少しご自覚が足りませんね」

「と、申されますと?」

「アヤナ様は王陛下から正式な叙勲を受けた『騎士』です。なので王陛下はアヤナ様の頭越しに手柄を横取りはできません。もし手柄になるのならば、アヤナ様の、そしてフランソワーズ家の手柄になるべきなのです。……王陛下はまず多少の資金面の援助は許可されました。アヤナ様にはとりあえず『瞬活データリンク』の試作機を、王都ガルディアにも幾つか手配していただきたい。それでテストを開始するかどうか、正式な審議が始まります。もし手ごたえがあれば、フランソワーズ家は納品先をレオン王国にするという形にもなりますね」

 アヤナは少し狼狽えたように、頭を下げた。

「ご配慮、感謝します。ルー中尉」

「いえ。私はただの伝達役ですよ。全ては王陛下の意思です」


 ディアが、ウェインの耳元で囁いた。

「ねえねえウェイン。なんか国家プロジェクトになっちゃってない?」

「ああ……急展開過ぎて驚いてる」


 ルー中尉は続けて言った。

「『瞬活データリンク』の再生機は、とりあえず娯楽レベルでは十分であることは間違いないと言えます。フランソワーズ家がまだ大量に資本力を投入していないのは、それがどこまで有効なものなのか計りあぐねているためと存じます。もし訓練目的で使えるのであれば導入もされましょうが……このあたりが、レーン殿に許可を頂きたい部分でした。果たして『瞬活』という技術を我々が使っていいものかどうか」

 レーンは軽く手を広げた。

「いえ。そもそも『瞬活』そのものが、私が開発したものではありませんよ。私は各武術の奥義を体得し、体系立てる時に『脳に対する技術』をまとめて『瞬活』と区切りました。だから問題はないでしょう。それよりもルー中尉」

「なんでしょう」

「『瞬活』は色々なことができて、そのうちの一つがデータリンクなのですが。そもそも全ては『脳』に関する技術で、生憎と『脳に対し中長期的なリスクがあるかないか』すらわかっていません。娯楽目的、訓練目的もいいですが、長時間はリスクが伴う可能性があることも報告しておいてください。一応『無活』と言って、脳を休ませる技術もあるのですがそれもどこまで有効なのかわかっていません」

「承知いたしました。……ところで。それを踏まえたうえでレーン殿」

「はい」

「例えば私たちが『瞬活を教えて欲しい』と言った場合、貴方はどう対応されるのでしょうか」

 レーンは何度か肯いた。

「私は色々な流派の武術を学びましたが、その流派で生きていこう、というほどの流派はありませんでした。なのでちょっと大きな夢なのですが、いっそ『スタイナー流』という流派を作ろうと思っています。つまり請われれば教えます。もっとも、まだ流派自体ができあがっていないのでその対価は未定ですが」

 ルー中尉はクスクス笑った。

「これはもしかして、レーン殿の夢の実現に一歩近づくのではないでしょうか? スタイナー流の瞬活をレオン王国軍が使うとなれば。これはもうスタイナー流を全てのレオン王国兵が学ぶことと道義と言えますからね」

「話が急すぎて、少々戸惑っております。スタイナー流はまだ未完成で、門下生は師範の私と師範代の義理の妹ディアのみ。後はオブザーバー的な立ち位置で、瞬活を教えたウェイン、エル、アヤナ、モニカ。合計6人です。道場もなく、流派を学ばせて対価を得たことはまだ一度もありません」

「創設がまだなのですね」

「はい。そして……スタイナー流には二種類あると思っています」

 レーンのその言葉は、ウェインたち……ディアですら聞いたことがなかった。


 ディアは不思議そうにレーンに言う。

「ちょっとレーン、スタイナー流が二種類あるって、どういうこと?」

「ブレーナーとやりあって確信したんだが、最強を求めるスタイナー流は、使い手を選ぶんだ」

「え? だって槍とか剣とか、柔道とかボクシングとか、今まで適当に混ぜてたじゃん」

「最強を求めるスタイナー流は、身長2メートル前後、体重がパワーとスピードを兼ね揃えた筋肉の100kg前後という『生まれ持っての資質』が必要だと実感した。つまりガタイが良くなきゃ、そもそも門前払い」

「え? じゃ、私たちがやってるのは!?」

「『最強を求めない』という、『汎用』スタイナー流と言える。小さな身長、軽い体重でも効果的に戦い、あるいは逃げるようにしたもの。護身術や、戦術の一つ」

「でも似通ってはいるんでしょ?」

「ああ。凄く似ている。非常に似ているが、でも意味合いが違う。結局ヘビー級とそれ以外、って括りになっちゃうかもしれないな」


 一瞬、沈黙が起きたのでウェインは言ってみた。

「じゃあ『汎用』のスタイナー流はディアが極めればいいんじゃないか?」

「え。私そんな強くないんだけど」

「やることのほとんどは共通だろ? だったら、フィジカルがないとダメな技なんかは他で代替する……レーン本人では気づきにくくても、ディアなら気づける。それを少しずつ修正してけばいい」

 レーンは少し笑った。

「そうだな。じゃあそうしよう」

「えー? レーンってちょっとあっさり過ぎない? いつも」

 ルー中尉は、またもクスクス笑った。

「新たな流派を作るのも大変ですね。それではレーン殿。レオン王国が瞬活を研究・及び使用することは許可して頂けるということでよろしいですね?」

「ええ、はい。と言うか普通ならどんどんパクッていくのが武術ですし」

「そうも言えますけど、今回はウェイン殿も噛んでらっしゃるので道理は通しておかなければなりません」

 ディアは不思議そうに言う。

「王様なんだから、適当に何をしても許されるんじゃないの?」

 ウェインは答えた。

「愚かな王や愚かな貴族の場合は、それなりに革命的なものが起こって民衆から殺されることもあるからな。民意を無下にはできないんだ。特に俺はラクス魔法学院の広告塔だから、仮に王陛下と対立的なことをすれば民衆の一部も王陛下と敵対するかもしれない。俺があまり自由に動けないのはそういうところにある。俺は生まれ育ったレオン王国を愛しているし、王陛下を敬愛しているし、ラクスも魔法学院もどれも好きだ。なので俺は私的なことを第一にするわけにはいかないって事情」

 ルー中尉は言う。

「ウェイン殿。噂通り、その若さで賢明で聡明な方ですね」

「慣れちゃっただけですよ」


「さて。それでは瞬活の一件もこれで終わりです。後の用件ですけれど、これはいささか不躾な物になってしまいますが……どうでしょうかね?」

「何なのです?」

「レーン殿に手合わせをしていただきたいのです。模擬戦です」

 レーンが言う。

「構いませんが……軍隊内で模擬戦の相手ぐらいいるのでは?」

「ブレーナー対策ですよ。仮想ブレーナーとして、レーン殿のお力を借りたいのです」

「ブレーナー対策……」

「レーン殿は我々三人同時に戦っていただきたい」

 ルー中尉は、エミア少尉とマリー少尉の二人に目配せした。二人は共に敬礼をする。

「なるほど……しかし私でブレーナー役は勤まりますかね?」

「レーン殿以外では、他に人材がいません」

「わかりました。……ウェイン、魔法学院で訓練場借りられるか?」

 レーンの問いに、ウェインは大きく肯いた。

「ああ、大丈夫。俺ならタダで借りられる。その代わり特等席で模擬戦を見せてもらうけど」


 訓練場の手配は、モニカが気を利かせてダッシュして取りに行ってくれた。



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