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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.1
93/284

何はなくとも

「じゃ、まずは。なにはなくとも、かんぱーい!」

「かんぱーい!」

「かんぱーい!」

 いつもの酒場にモニカを含めた6人が揃った。妙な手紙とファントムを生み出した水晶球の現在位置がわかったかも? 程度の情報で集めたので、まだレーンたちは手紙を読んでいない。

「じゃ、早速例の手紙……と行きたいが、まずは現状報告から。俺とエルは無事教員免許を取って『旅の魔導士』になれましたー! あ、当面は学生寮から教員寮へと移って、そこをしばらく借りていいみたい」

 みんなから拍手が贈られる。

「おめでとー。これでかなり時間に融通が利く、ってことよね」

「そうだね。あと、ファントム討伐隊が組まれるらしいが、俺とエルとレーンは各所で推薦されていたそうだ」

 レーンは肩を竦めた。

「やっぱりもう一戦することになるのかな」

「レーンも推薦を受けていたが。討伐隊に参加、って意向でいいのかい?」

「もちろんだ」

 そこでモニカが手を上げた。

「はいはーい。私も報告。私、座学免除の試験、今日受けました!」

「お、どうだった?」

「結構できたと思いますが……結果発表は明日です。不合格だと次の試験まで座学やらなきゃいけませんが、合格してれば私も随分時間を自由に使えます」

「明日が楽しみだな」

「不安しかないッスよ」


「さて。それじゃ本題に入ろうか。魔法学院宛てに、重要書類扱いで三通の手紙が送られてきたんだ。宛先は俺とエル、アヤナ。ちょっと手紙回すから、順番に読んでみて」



『ウェイン・ロイス殿。

 先だってのファントム事件のご活躍をお聞き致しました。

 不躾ながら、用件があります。

 ファントム事件でファントムが最初に封じられていたという水晶球。それを今、当家が所有しています。これの処遇をお教えいただきたい。


 それと別件ながら、エリストア殿に当家からの贈り物がございます。

 是非とも一度、当家にお越しください。


 ラクスの街の外側に、馬車を用意しております。この手紙を見せれば当家へご案内致します。

 何卒よろしくお願いいたします。


レオナール家当主。ジョージ・レオナール公王』



 三人への手紙には、ほぼ同じ文面が書かれていた。レオナール家には馬車で三日ほど、とのことだ。

 唯一、エルの手紙にはウェインとアヤナにはない一文が載っていた。


『当家には現在、スージー・トニアン氏が滞在しております』


「エル。この人って、誰?」

 エルはコクンと肯いて、答えた。

「私が育った場所……レグトレア村ってところの、孤児院の院長先生の名前よ」

「へぇ……」

「でも。私にも院長先生がそこにいる理由がわからないわ。レオナール家なんて今まで聞いたこともなかったし」

「そっか。ところでアヤナ。ジョージ・レオナール公王の、この公王って称号はなんだ?」

「部族長みたいなものね。レオン王国に編入される前からトップだったんでしょう」

 レーンが難しそうな顔をしながら、言った。

「俺の意見……というか、疑問点を言うよ。まず手紙が何故魔法学院経由で行ったかもわからんが、宛先がウェイン、エル、アヤナの三人だ。魔法学院組に送ったなら、モニカが抜けているのが不思議だ」

「ほぅ」

「そしてウェイン、エル、アヤナの人選。これがもし三人を選ぶとしたなら、アヤナではなく俺でなくてはおかしい。さっきウェインも言ったように、ファントム事件で活躍して推薦された人間は俺とウェインとエルなのだから」

「ふむ……」

「さらにファントムの水晶球のこと。アレはカドニ村からファントムが持ち去ったはずだが、なんでその貴族が持っているのか。ファントムに直接会ったのだろうか?」

「うーん……」

「そしてエルへの贈り物。これをファントム事件に絡めるなら、普通は一番知名度の高いウェインにプレゼントするだろう。なんでわざわざ一般学生のエルなのか」

 誰も、何も意見が出てこない。

 だがレーンと話していると、何だか自分が賢くなったような気分になれる。

「色々おかしな点があるが……ウェイン、これどうする?」

「どうするって、行くかどうかってこと?」

「そうだ。呼び出されてるし、例の水晶球が本当であり本物なら回収したほうがいい。だが往復で六日ではアスリーさんとの待ち合わせ時間に間に合わない」


 ウェインはしばし考え込んだ。

 どうするべきなのか。

 アスリー師匠との待ち合わせを優先するか、それとも後回しにするか。事情を学院側に伝えておけば何とでもなりそうだが……。

 とにもかくにも、『ファントムを生み出した水晶球』を『所有している』と言ってきている。それも軍隊や警察、魔法学院のトップたちにではなく、ウェインたちにだ。

 だいたいファントム討伐隊が組まれ、ファントムが倒されても、あの水晶球があればまた同じファントム(但し記憶は受け継いでいない)が生まれる……といった話をファントム本人がしていた。ならば、例の水晶球は一番先に抑えるべきものではないのか?

 だいたいそんなことを皆に話し、ふと

「……何かの罠ってことはないかな」

 と口にすると、アヤナが軽く首を振った。

「ウェインとエルだけを呼び出したならまだしも、私も指名されて呼び出されている。これ、もし私の身に何かあったらレオナール家はフランソワーズ家と敵対関係になるわ。多分そういう単純な罠はないと思う」

「そうか。レオナール家は少なくとも、アヤナだけには手を出せないはずなのか」

「力関係も違うしね。フランソワーズ家は名門。レオナール家は中堅からちょっと下ってくらいだし。何かあった時に揉み消すこともできないはず」

「……。じゃあ、行ってみたいとは思うが……俺の意見。まずは三日後を目安としたアスリー師匠との合流を優先したい。師匠に『俺にかけた封印』を解いてもらうのを最優先としたいんだ」

 ウェインが言うと、レーンが答えた。

「いいだろう。アスリーさんとの面会後にレオナール家に行く。例の水晶球の手がかりだから魔法学院に報告して、現地に行って確かめるのが一番だと思う。但しあっちが水晶球のことを警察や軍隊に報告していないことから、俺たちも魔法学院なんかには出発直前まで黙っていたほうがいいと思う」

 女性陣からも特に反対意見は出ない。


 だが少しすると、おずおずとモニカが手を上げた。

「あの……私もついていっていいんですかね?」

「モニカは座学優先だろ。……あっ!」

「そうなんですよ。明日、合格発表があって。受かってれば私もついていけるんです」

「じゃあそうだな。受かってたら、ついてこい。不合格なら、ラクスに残って座学を続けてろ」

 モニカは頭を抱え込んだ。

「えー!? あんまりな話ですよ! 心が苦しいッス! 厳しい、あまりにも厳しい試練ですよ! もう今夜眠れません!」

「祈れ。それはそうとレーン。俺たちを迎えに来た馬車がラクスの街まで来てるって話だが、それはどうしよう」

「急に向こうから呼び出してきてるんだから、ちょっとぐらい遅れても構わんだろうよ。明日にでも探し出して事情を説明する」

 アヤナが手を上げた。

「レオナール家にも通信施設引いてあると思うから、第一報はそっちにも送ったほうがいいと思うわ」

 ウェインは肯くとともに、また新たな疑問が浮かんだ。

「通信施設が引いてあるなら、魔法学院とも連絡つくよな。わざわざ手紙にする意味あったのか?」

「なんかこう……正式なおもてなしにしたかったのかも」

 あまり納得の行く答えは出なかった。


 そこでウェインは思い出した。

「あ、忘れてた! 近いうち、できれば明日、俺たち6人にアリス隊の人が何か用があるらしい。みんな暇があるなら明日は学院のラウンジに集まって欲しい」

 レーンは軽く何度か肯いた。

「カドニ村からラクスまで送ってもらった恩もあるしな。アリス隊なしでブレーナーと当たっていたら最悪は俺たち皆殺しだったかもしれない。俺は問題ないよ。お礼が言いたい」

 割と律義なレーンである。いや、こういう細かな気配りが、彼のカリスマ性や人気を引き立てているところなのか。

 ともあれ明日は6人全員でラウンジに集まる約束をした。


 そんなこんなで夜も更けて。まだ学生寮からの引っ越しはできなかったウェインだったが。部屋に戻ると装備のチェックなどをして眠った。


 翌朝起きて、魔法学院の教員室へ行くとモニカが待っていて。


 満面の笑みで親指を立てていた。



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