試作機開発
翌日は、各々がそれぞれの訓練などをした。
ウェインとエルは封印魔法の練習。
モニカは座学で、アヤナは瞬活データリンク機器のため情報交換など。
そしてレーンとディアは柔道部に来てたらしい。『崩し』を貰ったおかげでレーンは既に部活レベルでは敵なし。ディアも男子学生のほとんどを簡単に投げられる程になったそうだ。
そして翌日。今日は教育実習がある。ウェインとエルは職員室のブースでビル先生とミーティングをしてから、教育実習に臨んだ。
大きな失敗もなくうまくできて、ミーティング後、後は数日後に最後の一回を残すだけになって少々感慨深い気持ちになった(本来はもっと長く続けても良いのだが)。
午後は再び、二人で封印魔法の練習。そしていつのまにか、ウェインの肋骨のヒビは完治していた。これで晴れて色々と動ける。
さらに翌日。
ウェインとエルは封印魔法の練習。レーンとディアは剣の道場に通ったそうで、アヤナはまだ情報交換に釘付け。モニカは当然座学。
事態が動いたのは、さらに翌日の昼休みのことだった。
封印魔法の練習をいったん終えたウェインとエルがラウンジにいると、アヤナが来た。
「ハーイ、ウェインにエル」
「お、アヤナか。なんだか久しぶりだな」
「ここ数日、ずっと色んなところと情報交換してたからね。で、ようやく父上に話をつけることができた。イメージの共有による能力上昇は、未だになかなか信じてもらえないけど。後は試作機ができたら送るだけ。試作一号機は発送準備中よ」
「試作機ってできそうなのか? 俺、最近ジャンのとこ行ってないや」
「本物の試作機は時間がまだかかるそうだけど、んー、剣を作ろうとしていて木刀ができたくらいの感じの低レベルのヤツなら、できたって。それ送ってみる」
「へー。ジャンってやっぱり凄いな」
「レーンの剣技とウェインの魔法、そしてウェインのファントム戦のイメージを入れて、父上に見てもらう……一応は体感できるレベルの物になってるそうだから。これが評判良ければ、父上がお金を出してくれるわ」
「うまく行くことを願うよ」
「じゃ、今日はこれだけ」
「もう帰るのか?」
「進捗報告だからね。私も色々やることあるのよ」
アヤナにも封印魔法を連携して試してもらいたかったが、仕方ない。ウェインとエルはまたも二人で、封印魔法の練習をした。
帰りがけに、二人はジャンの付与研に寄っていくことにした。例の試作機がどこまでできているか興味があったからだ。
「あ、ウェインさん。こんにちは」
受付のロウが話しかけてくる。
驚いたことに、付与研の中には数人のお客さんがいた。皆一つの台に向かって並んでいる。
「ロウさん、これは……?」
「あ、はい。データリンクの試作機の試作機……くらいを公開してるんです。レーンさんの剣技、ウェインさんの魔法、ウェインさんの対ファントム戦の戦いのイメージが、低品質ながら『体感』できます。……本来はもう少し性能を上げてから公開して広告も打つつもりだったんですが、先行公開の評判が良くて口コミで集まってしまいました」
と、奥からジャンが出てきた。
「ジャン。こんにちは。大盛況だね」
「ウェイン。本業でないところが賑わっているだけですよ」
「視聴料取ればいいのに」
「それは完成版が出た時に考えますよ。……で、今日はなんです?」
「いや、例のイメージデータリンクの試作機がどうなってるか、聞いておきたかっただけだよ。なんでもアヤナはもう御父上に送ってみるとかで」
「そうですね。まだ低品質ですが、この上を行こうとすると材料費が高くなってしまう」
「原理はどんなものなの?」
「『体感』する時は幻覚魔法そのものですよ。ヘルメットを被り……これ将来メガネくらいの大きさにしたいですが……目を閉じ、イメージを機器を通じて脳へ送り込み、幻覚魔法の適した術式で再現させる。これが『再生』側です。出力側も同じで、メットを被り目を閉じて、魔力と動画を機器に入力するとそれに適した術式でイメージが出力される。イメージの保管方法は前に話した通り、封印魔法で劣化させないようにします。ただこれの保管場所に難儀してますね。魔法空間が必要になりますが、やはり資金が足りない」
「凄いねジャン。今のところはそれでいいと思う。将来スポンサーがついたら、もっと高品質にしていけばいいだけみたいだし。それに今の状態でも、今まで俺たちが運用してた方法よりも格段に良くなっているよ。主にレーンとディアだけど」
「普通の人は幻覚魔法なんて使えませんからね……」
「ありがとうジャン。このままお願いするよ」
「わかりました」
ウェインとエルは頭を下げると、付与研を後にした。
次の日。午前中はウェインとエルで封印魔法の練習をして、昼にラウンジに来たのはモニカだった。少々やつれている。
「どうしたモニカ。調子悪そうだぞ」
「ウェインさん……今日は乗り越えますけど、明日でついに終わりです」
「何が?」
「座学の特例免除規程の試験ですよ。今日までは一通りでしたが、明日がいよいよ専門の大本命の試験です。これに合格すれば、私は座学が大幅に免除されます」
「そうなって欲しいが……モニカ、夜ちゃんと寝てるか?」
「あんま寝てません。ギリギリですし」
「うーん。エル、白魔法でなんとかならないか?」
するとエルは答えた。
「良質の睡眠を摂る魔法ならあるわ。今日の夜、寮にいるんでしょ? 寝る時にかけてあげる」
「どうもッス。それじゃあウェインさん、エルさん、また……」
明らかに調子が悪そうだが、今が頑張る時なのだろう。ウェインは心の中で応援した。
そして次の日。今日は教育実習最後の日である。
本来は今期が終わるまで実習を続けることもできるのだが、今日で必要時間や進行カリキュラムが足りるので、ウェインとエルは今日で終わりにすることになっていた。
もし教職に就く場合は、その時にまた努力すればいい。今は何はなくとも教員免許、そして『旅の魔導士』への手続きが優先だ。
今までたいした目標もなかったウェインだが、ファントムの討伐隊が結成され選抜されればそれに加わろうとも思っていた。この話をするとエルも気持ちは同じだったようで、同意してくれた。
……今も封印魔法の訓練もしてはいるが、前にファントムに魔力で負けたのは一対一だったからだ。仮にエルと一緒に当たれば、エルは防御に専念しウェインが隙を見て攻撃することでファントムを上回れるはずだ。
ただそこで頭を悩ますのが、襲撃してきたブレーナーとアイカだ。
もし彼らがファントムと組んでいたら……こちらは座学で忙しいモニカを除く5人で当たったとしても、凌げるかどうか。厳しい。
ともあれ、教育実習。大きな失敗もなく、もう終わりの時間が近づいてきた。
ビル先生は言う。
「さて皆さん。授業が始まる前にも話しましたが、ウェイン先生とエル先生は今日で教育実習が終わりです。何か質問はありますか?」
今日の教育実習は、通常カリキュラムではなくほとんどウェインとエルへの質疑応答になっていた。なので今から手を上げる子はいないだろう……と思っていたら、二人の男女が手を上げた。
「はい。質問ではないですが、僕たちクラスの全員から、寄せ書きをしました」
「ウェイン先生、エル先生、今までありがとうございました」
クラス中から拍手され、ウェインとエルに寄せ書きの色紙が贈られる。
二人はそれを受け取り、深く頭を下げた。
ふと見ると、エルは涙を堪えてる。余程感動したのだろう。ウェインとて本当に感慨深いものがある。時間が許せば……いや、ほんの数週間前までの時点では、今期いっぱい授業を受け持つ気でいたのだ。それがファントム事件で急に方針転換した。
一人の男の子が言う。
「ウェイン先生。柔道部で初段を取ったってこと、本当ですか?」
話の流れが速いか……いや、柔道部所属の生徒や、それらと友人の生徒がいれば、もう知れ渡っているだろう。
ウェインは答えた。
「ああ、本当だ。でもギリギリだったよ。世の中には強い人がいっぱいいる。腕力や体力、武力で強い人だけじゃない。優しさとか、楽しさとか、知性とか、そういうのに優れている人がいっぱいいる。君たちも将来、尊敬されるような存在になると先生は嬉しいな」
それはアスリー師匠からの受け売りだった。
と、他の男の子が手を上げて立ち上がり言う。
「僕見ましたよ。ウェイン先生が『爆炎の弓矢』使ったり、敵の後ろに回り込んで締め技をして敵を仕留めるの」
「え?」
それはあまり公開されていない情報だったはず。
「ねえ。それ、どこで知ったの?」
「はい。付与研の所の『体感モニター試作機かっこ仮』ってヤツで。
あああああああ! ジャンのところでのテスト用のヤツだ!
「先生、あれ本当にウェイン先生がやったことですよね!?」
「……」
チラッとビル先生を見る。彼は笑顔で肯いた。
「……。そうです。この前教育実習を休んだ時、先生あんなことしてました」
一部の生徒から、大きな歓声が聞こえる。付与研のことを知らない多くの子たちは不思議そうにしているが、情報は既にどんどん拡散されて行く。
「どんな風に見えるの!?」
「私も行ってみる!」
「有料? 無料?」
「今はテスト版だから無料だって!」
……大騒ぎになってしまった。またビル先生を見るが、彼はまだ笑顔のままだ。とりあえず大きな失態ではなさそうだが。
そこで、授業終了を知らせる鐘が鳴った。
ピタっと騒ぎはやみ、規律正しく皆が立ち上がる。級長が「礼!」と号令をかけると、皆が頭を下げ、そして大きな声で
「ウェイン先生、エル先生、今までありがとうございました!」
と礼儀正しく声を上げた。
後日。ウェインの元にジャンから「子供からカネ貰うことはできないし、あまり話を広めないでくださいよウェインさん」と軽いクレームが入った。




