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「『大規模封印魔法』か……。ここらへんだな」
翌日の午前。魔法学院の図書室で、ウェインとエルは文献を漁っていた。
封印魔法に詳しい先生に軽く聞いたところ、幾つかの強力な魔法の存在を教えてくれたのだ。
「これと、これだな。5人がかりで五芒星の力、あるいは6人がかりで六芒星の力を利用して対象物を封印する大規模極大封印魔法。これが本気で決まれば、かなり高度な悪魔とかでも50年から100年は封印できるらしい」
「魔法陣と、各所に術式を組み込むのね。ウェインと私の魔力があれば、かなり効果が持続する計算になるわ」
「訓練場で試してみよう」
魔法学院には、魔法のフィールドが張られた練習場がある。そこでウェインとエルは、極大封印魔法を試した。
最初の頃こそ失敗続きだったが、何回かやるにつれ段々と成功率が上がってくる。しかし封印のパワーそのものは計算通りの出力まで全く届かなかった。
「これは大勢でやるし……今度アヤナ辺りを誘って、3人で試してみるか」
昼食は学生食堂で摂り、昼休みはラウンジに行く。もうこれはルーチン化していた。ラウンジにはレーンたちやアヤナ、モニカが時々来るのだ。
今日もまた、レーンとディアがやってきた。
「おー、レーンにディア。丁度いい時に来た」
「ほぇ?」
ディアは小首を傾げた。
「赤帯のほうのバルベスに、レーンは稽古つけてもらったんだろ?」
「ああ。凄腕だったな」
「『瞬活データリンク』のイメージを貰って来た。九段の『崩し』が体験できるぞ」
するとレーンはテンションがかなり上がった。珍しい。
「本当か!? あの達人の『崩し』のコツがわかれば、かなりの戦力強化になるぞ!」
「ちなみに俺は柔道で初段を貰った。また箔が付いたよ」
「そうか。でもあの赤帯のバルベスさんの『崩し』があれば、ウェインなら二段くらいのレベルになってもおかしくないだろう。それくらい『崩し』は重要だ」
「イメージ渡すから、今晩夢で見てくれ。俺が今、幻覚魔法使って外側を見せてもいいんだが、これは体感しないとわからないだろうから」
「そうそう。それがまどろっこしいのが『瞬活データリンク』の問題点」
興奮気味のレーンの背後に、二人の声がかかった。アヤナとモニカである。
「ハーイ、ウェイン。……なんだか珍しくレーンが興奮してるわね」
「おおアヤナ。今な、柔道の達人の『崩し』のイメージをレーンとディアに渡したんだ。きっと投げ技が凄くなるぞ」
「『瞬活データリンク』ね。でもアレ、ウェインやエル、モニカちゃんはまだしも、私の幻覚魔法とかレーンやディアだと再現が難しいのが難点よねぇ」
「あー、丁度そんな話もしてたとこ」
するとモニカが、ぶんぶんと手を振った。
「ウェインさーん。前に『瞬活データリンク』の再生機と言うか、補助機ができないかって私に言ったじゃないですか?」
「あ、そうだっけ?」
「忘れてたんですか!? まあともかく……私、調べてました。理論上は、結構『体感』までできそうなんですよね。今は座学優先なんで調べてないですけど」
「そうだな。モニカはまず座学だ」
「それで、です。付与研のジャンさんに相談してみてはどうでしょう。アイデアは出るかもしれません」
「なるほど」
「それ以上に……実現させるにはおカネが必要っぽいですけどね。この前の報酬でも全然足りないくらい。まー、エントリーモデルって感じで安く仕上げる方法もジャンさんならアイデア出てくるかもしれません」
アヤナがポンと手を打った。
「ジャンに頼んだ装備、そろそろできてるんじゃない?」
「あ、そうだね。行ってみよう」
そうして6人で、ジャンの付与研に来た。受付にロウがいる。
「いらっしゃいませー。ああ、ウェインさんたち」
「こんちはー」
「頼まれてた物は全部出来上がってますよ。ちょっと待っててくださいね」
ロウはジャンを呼びに行った。そして戻ってくると、モニカにひらひら手を振る。
「ん? 知り合い?」
「モニカちゃんとは一部の座学で一緒です。おかげで身体のサイズ聞き出せたんで、モニカちゃんのプロテクターもできてますよ」
有能である。
「ウェインさん、こんにちは」
奥から、色々な武具を持ってジャンが出てくる。
「こんにちは、ジャン。なんか久々な気分だけど、そうでもないんだね」
「数日ですからね。でも強化するのには十分な時間でしたよ」
それぞれ、頼んでいた武具を受け取った。レーンは愛用のバスタードソードを鞘から引き抜いて、観察している。
「素晴らしい……」
「あ、それ本当に凄い剣ですよ。大切に扱ってあげてください」
「いえ。ジャンさんの腕が素晴らしい、と思ったんです。メンテは完璧。高質化も一段階かかっている」
「どうも」
「もしジャンさんなら、この剣をどういうふうに『成長』させますか?」
ジャンは頭を掻いた。
「メインウエポンのようなので、まず汎用性を高めますね。高質化はもう一段階上げる。後は自己修復・再生あたりも良いかもしれません。ラクス付近限定なら、対・悪魔の何かをつけても良さそうですが、確かにどういう魔法を込めるか迷いますね」
「なるほど。参考にします」
レーンはバスタードソードを鞘にしまい、腰に差した。自前のショートソードも受け取ったので、レーンは借りてたウェインのショートソードを返してくる。
他は、アヤナに背中を押されてモニカがジャンの前に来る。
「ジャンさん、お願いしていた革のプロテクターですけど」
「大丈夫、モニカちゃん用に作り直してあります」
「んー、ちょっと無駄というか邪魔な箇所が多くありません?」
「モニカちゃんは13歳と聞きました。僅かな手間で成長に合わせるため、敢えて無駄な部分を多く残しています。さあモニカさん。ちょっと着けてみてください」
モニカは言われるがまま、プロテクターを着込んだ。
「じゃあ右腕を上げてから、ぐるっと回して。次に左腕……。うーん、ここがちょっと微調整必要ですかね」
ジャンは何やら少しプロテクターをいじっている。
「アヤナさん。私だって報酬貰ったんだし、私がお金払いますから……!」
「いーの。たまには一番弟子にいい格好させなさい。それにもともと私が着けてたプロテクターを再利用してるんだから、たいした金額じゃないわ」
女同士で揉めてたが、モニカはアヤナの好意を素直に受け入れることにしたようだ。
「ねえジャン。こっからは今回の武具と別問題のことなんだけど。脳とイメージに関することで何かアイデアはないかな。アイデア料金だけでも払うから」
「それは聞いてみないことにはわかりませんね」
ウェインはレーンと一緒に説明した。『瞬活』という、脳に作用する技法があること。そしてイメージを共有化する『瞬活データリンク』という技術があること。それらのイメージを簡単に再生、ないしは、できれば『体感』したいこと。
受付嬢をやっているロウも聞き入ってくれた。
話し終えると、ジャンは少し考えてから言った。
「要するにその『イメージ』を、脳にブチ込みたいと。あるいは出力したいと。そういうわけですな?」
「そうなんだ。理論上、簡易な『再生機』はできそうなんだよ。ただできれば『体感』もできる器具にしたい。今のままじゃ魔法の素養のない人は『寝て夢の中で見る』ことしかできないから……。後はできるだけ劣化しないで出力できるようにしたい……なんとかならないかな?」
「まあできそうですけど」
その一言に、ウェインたちとロウは怯えるように驚いた。
「できるの!?」
「脳を媒介するので多少の魔力は必要ですけど、夢の中で見るよりはいいのができそうですね。むしろ大変なのは良質な『イメージ』を見つけたり、保管したりするほうじゃないですかな?」
「うん……そこは仕方ないことだと思ってる」
「見つけるのは無理ですが、あまり劣化しない保存ならできそうですよ」
「本当!?」
「封印魔法ってあるじゃないですか。あの封印の原理で、もとのイメージにかけて保存しておけば、ただ何もしないよりは劣化しないでしょうし」
「ああ。ジャンのアイデアは凄いなぁ……!」
「ただ一番の問題点があります」
「なに?」
「恐らく高価になります。誰も作ったことのないものですからね。材料だけじゃなく色々な人材も必要になりますから、金貨が数百枚以上の単位になってもおかしくない……」
そこで、アヤナが言った。
「できればエントリーモデル的な価格帯がいいんですけど、もし実現できるなら、お金は十分に用意できるかもしれません」
「アヤナ!?」
「私のお金じゃないわよ。フランソワーズ家に出してもらう。もちろん材料や人も、いいのがあったら持ち出しで使うわ。……私個人ができる権限は限られているけど、父上に事情を報告し、試作機でも送ってみれば、許可が出るかもしれない」
それを聞いてジャンは言った。
「ウェインさん、レーンさん、どうしますか? そのデータリンク機器」
ウェインは肯いた。
「まず試作機から作成してもらえるかな。多少なら報酬は前払いでも払うよ。それでフランソワーズ家の代表とかに認められれば、高品質な物の作成をお願いしたい」
ジャンは肯いた。
「もしうまく行ったら、広告、お願いできますか?」
「もちろん!」
「ただ出来上がりがどうなるかわからないので、納期は未定です。それと前払い金として皆さんから金貨一枚ずつ頂戴します」
「それだけでいいの?」
「完成したら必要経費と、少しの利益分は要求しますよ。ただ何せ、最初にお金がないと始まらないので」
アヤナが言った。
「魔法石の類なら、ラクスにある私の別宅の倉庫から使えそうなものをお譲りします。後でリストを持ってきます」
「ありがたいです」
これがうまく行けば、瞬活を使ったデータリンクは大きな効果を発揮するはずだ。




