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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.1

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スポーツ柔道

 告白して舞い上がっていたウェインだが、アスリー師匠の合流まであと十日程度しかない。気を引き締める。


 エルに階段ダッシュは今日で終わりにすることを伝え、明日からは学院図書館と封印魔法に詳しい先生を探して、後は魔力フィールドが張られた訓練場でテストをしてみようと提案した。

 エルも問題ないようなのでリハビリ&トレーニングは今日で終了。とりあえず今日のところは、重りを柔道部に返しに行くことにした。


「バルベース。借りた重り、返しに来たよ」

 柔道部の道場では、主将のバルベスが笑顔で出迎えてくれる。

「ウェインさん! 丁度良かった!」

「なんだい?」

「リハビリ、終わったんですよね?」

「うん。そうだけど?」

「今日、丁度昇段審査の人が来てるんです」

「はぁ」

「是非、試験を受けてみてくださいよ! ウチで取ってくれれば宣伝になります」

「えぇ……俺には無理じゃないかなぁ。昔とは柔道のルールとか変わってるだろうからよく知らないし。今でも打撃や足の関節技とかも使っちゃダメなんでしょ?」

「正式な試合じゃないんで昔のルールでいいですよ。ものは試しで、受けてみてくださいって。もともとスポーツ柔道って各種の柔術をまとめて、そこから危険性を削いだものです。確かに打撃技は禁止とかありますけど、似通ってるしウェインさんはもともと柔道の経験者なんで大丈夫」

 重りを借りた恩もあるし、渋々ウェインは承知した。道着も帯もないと言うと、部の備品から貸してくれた。

 ……『冒険者ギルド』での資格試験には(面倒だし時間もないしで)一度も行っていなくて、未だにそっちの方面は全て実績ゼロのウェインだったが、まさか柔道の昇段審査を先に受けることになるとは思っていなかった。ただ怪我明けの仕上がりを見るのに、いい状況かもしれない。無料だし。ウェインはポジティブに考えることにした。


 *


 道着に着替え、部室の中。畳の上に、高齢の老人がいた。帯の色は赤。……ウェインは詳しくは知らなかったが、赤帯は相当の段位であることくらいはなんとなく知っていた。

 エルは道場の畳の横にちょこんと座っている。

 ウェインは老人に声をかけた。

「はじめまして。ウェイン・ロイスと申します。無段。軽量級。スポーツ柔道歴は以前に数か月。最近は実戦で剣や魔法を使うので、ほとんど柔術をベースに訓練してきました」

 老人はニッコリ笑う。

「ウェイン君だね。話には聞いているよ。私の名前はバルベス」

「え? バルベスって……」

「この部の主将の祖父だよ。名前が同じなんだ」

「そうでしたか。それで……昇段審査とのことですが、どうしたらいいのでしょう? 私の記憶では同階級と何回か戦ってポイントを貯めていく方式だったはずですが」

「普通はそうだね。ただ今回はもう時間も遅いし、特別に『推薦』って形でやることにしよう。私と乱取り:…模擬戦を何度かしてくれればいい。私はそれで君を見極める」

「わかりました」

「注意点だが、試合ではないので堪えきれない場合は受け身を確実に取ってほしい。むしろ受け身のレベルも知りたくて、それを見たいからね」

「はい」

 主将の方のバルベスが審判役になって、部員が畳の周囲を囲む。男の比率が多いのでエルは肩身が狭そうだ(女子部員も一定数いるが)。

 そしてウェインは、合図とともに赤帯のバルベスに組みに行った。


 いい形で組んだと思った直後、足払いが飛んできた。


「ッ!?」

 組んだ手を放し、受け身を取る……出足払い一発で、足が腰の高さまで払われた。今までこんな高度な足払いは見たことも受けたこともない。

 周囲の部員から感嘆の声が上がる。

「いい受け身だね。さあ、次だ。もう足払いは使わないよ」

 ウェインは肯くと、再び組みに行く。組んでから足払いで牽制し、動きが止まったところで崩して、背負い投げで投げようとした。

 そこを……すくい投げで返されて投げられた。あまりの速さに受け身が遅れる。また周囲の部員から感嘆の声が上がった。

「ちょっと形がまだまだかな。さあ、次は?」

 ウェインがメインで使う投げ技は『体落とし』だった。背負い投げは、自分よりかなり背が高い相手用に使っている。……つまり体落としを温存したのだ。油断してくるであろう、最後のほうに使うために。

 今度は組みに行って、牽制で何度か足を出した後……内股!

 それは教科書通りに内股透かしで返され、またもウェインは畳に叩きつけられた。

「うん。受け身はいいね」

 部員たちから拍手が送られる。

 今度はスタイルを変えてみた。やや乱暴に組んで、何度か揺さぶった後……大外刈りに行く。それもあっさりと払われて、投げられる。

 今度は組んで……疲れが出てきたのでバルベスにしがみつくような情けない格好から、捨て身技、巴投げ。だが案の定不発で、振り払われるだけ。バルベスは平然としたままで、ウェインが倒れて息を大きく乱している状態。

「今のは、立ち技から引き込む時に良いかもしれないね。時間はもう少し残っているかな」

 次は低く飛び掛かるように、タックルのような技、諸手刈り。これはウェインにとって柔道と言うよりはレスリングのタックルで仕込まれた技。

 あっさり、上から押しつぶされる。……もし柔術の『打撃あり』ルールなら、カウンターで膝蹴りがウェインの顔面に当たっていたであろう、バルベスの反応速度。

「ウェイン君も疲れているようだし、そろそろ時間かな?」

 畳にうずくまるようにして、肩で呼吸をして。なんとか立ち上がって、ウェインはもう動きが鈍っている……そんな格好を、もう十分見せつけた。


 そう、隠していた。たった一つ、自分の組み技で最も実戦レベルと言える技『体落とし』をだ。バルベスの油断を誘ったのだ。

 ウェインはやぶれかぶれ……のように見せかけ、いい組手を取る(ここまでは取らせてくれる)。そして大きく呼吸をし、『瞬活』でレーンの『崩し』のイメージを再現させる。これだけ『崩せ』ば、メインに訓練してる体落としなら通用するかもしれない……。


 ……ウェインの投げ技『体落とし』に対し、バルベスはまるで大きな石のように全く動かなかった。

 その直後、バックドロップに似た投げ技……『裏投げ』で、ウェインはまたも畳に叩きつけられていた。ほぼ無意識で受け身は取ったが、少し遅れた。

「隠してたか。今の体落としが一番良かったよ」


 そこで主将の方のバルベスが時間終了の笛を吹く。ウェインはまるでいいところがなかった。離れて、頭を下げる。

「おみそれしました、バルベスさん。私にはこれが限界です」

 赤帯のバルベスはニコニコとした笑顔だ。

「うん。素直に負けを認めることも、大切なことだ。……柔道は、確かに柔術よりはある意味弱い。当て身や蹴り技を自ら禁止したんだからね。だが一方で、『崩し』は柔術に負けていない。むしろ『奥義』を『崩し』にしていた柔術もあったほどだが、柔道は教科書の最初のほうに崩しが大事と書いてある。ウェイン君、まだまだ精進しなさい」

「はい、ありがとうございました」

「そういうわけで、ウェイン・ロイスには柔道初段を認める」


「え」


「投げ技は及第点。すり足が少々雑だが受け身は完璧。崩しがもう少し……。これからも精進するなら、君は十分初段のレベルだ」

「私など、全く歯が立ちませんでしたが……」

「私は九段だよ? 歯が立ってしまったら、私の立つ瀬がない」

 赤帯のバルベスは、軽くお辞儀をした。


「ウェインさんが初段に合格したぞ!」

「おおおぉぉぉ!」

「普通にウェインさん柔道できてますよ!」

 部員たちが拍手をしてくれる。

 ウェインはそれらにも頭を下げて、主将のバルベス、赤帯のバルベス老人にも頭を下げお礼を言った。

 ちょっとおどおどしていたエルではあるが、ウェインが親指を立てて笑顔を向けると、満面の笑みになった。

 ハイタッチ。

 部室は少しの間、拍手とどよめきで包まれていた。


 *


 汗を軽く拭いて着替えてから、帰ることにした。

 すると、主将のバルベスは意外な物をくれた。『瞬活イメージ』である。鈍く光り輝く球体状の魔法の塊。

「バルベス。これは……?」

「うちの爺さん、前にウェインさんと組んでるレーンさんに稽古をつけてやったことがあるんですよ。レーンさんへの評価は相当高かったけど、柔術をベースにしているせいか『崩し』はまだまだと言っていた。その時にレーンさんがイメージにして共有したいとか言っていたけど、うちの爺さんは魔法があまり使えないし、私も得意ではないので時間がかかってしまいました。でも、これでウェインさんたちには有用なんでしょう? ウチで初段取ってくれたお礼ですよ。受け取ってください」

 ……実際にそのイメージを見てみないと何とも言えないが、聞く限りではこれは凄い物、凄い収穫のような気がする。

「ありがとうバルベス。とても助かる。何せ九段の『崩し』を俺やレーンが体感できるようになるんだ。本当にありがとう」

「いえいえ。そうだ、ウェインさんの黒帯はウチの部で発注して、できたら学院に届けますね」

「何から何までありがとう。凄くいい経験になった」


 後日。柔道部は少し部員が増えたり、対外試合が多くなったりしたらしい。



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