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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.1

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私は怒ってないわよ!

 翌日。朝から体操服に手首と足首に重りを着けて、重り入りのリュックを背負って。ウェインとエルはダッシュで階段を上っては下りるの繰り返しをしていた。もう下りの時の怖さはない。バランス感覚は完全に戻ったようだ。後は筋力……それも、もう少しだろう。寝た切りだった時間は三日間と聞いたし、その後は怪我があっても時々歩くことを心掛けていたからだ。

 午前中は自由時間なのだから、本来はエルとデートにでも行きたかった。だが仮に盛り上がってもお昼には魔法学院に戻らなくてはならないし、早めに筋力を回復させておかねば何があるかわからない。

 今はエルと『二人きりの時間』だ。ただ、互いに何も喋らない。呼吸が上がっていて、何も話せない。一時的に給水などで休むにしても、絶対にロマンチックにならない。

 少々哀しい時間だ。


 数時間後、ようやくお昼休みの時間になった。ウェインとエルは手配していた学院の空き教室へと行く。既にアヤナとモニカは来ていた。

「おー、二人とも。お待たせ。モニカ、座学はどうだ?」

 聞いてみると、モニカは笑顔で親指を立てた。

「実は実は実は。物凄く頑張った結果、成績上位者に選ばれまして、今度特別試験を受けて合格すれば座学の一時免除規程が受けられるようになりましたー!」

「おお、凄いじゃないか! その調子でな!」

「了解ッス。私、必ず受かって見せます!」

 一方のアヤナは家にあったという軽金属の鎧を着ていた。腰にサーベル。ちょっとしたフル装備だ。

「アヤナはその鎧、またデザイン重視?」

 しかしアヤナは首を振った。

「今度は機能性重視よ。今日調整が終わったの。この鎧は軽いのに物理攻撃にかなり強い耐性を持っているらしいわ。万が一接近された時のために、ね。家の人が危険な旅に出るなら怪我するなって煩くて」

 流石は名門貴族。資金力が違う(家でのアヤナの立ち位置は高くはないらしいが)。

 集まって談笑していると、空き教室にレーンとディアが入ってきた。

「お待たせー」

「いや、時間にはまだ余裕があるよ。それより二人は午前中は何してた?」

 ディアは答える。

「んー、修羅場?」


「何かあったのか!?」

「レーンがね……。ほら、後は自分で言ってよ。私は本来無関係なんだから」

 レーンが、普段より少し落ちた声で言った。

「……アーシェと別れた」

「ああ、そう……ご愁傷様」

 確か、旅に出る前にできた恋人だと言っていた。

「で、アーシェとリューヌで喧嘩が始まってしまい……」

「誰? リューヌって」

「この前できた恋人」

 魔法学院組は、全員、軽く天を仰いだ。

「でアーシェとリューヌの喧嘩をディアが止めてくれたんだが、なんだかもっと余計にアーシェが怒りだして、警察まで来ちゃったほど」

「変な犯罪はやめてくれよ……」

「いや、民事不介入ってことで警察のお世話にはならずにすんだが、まあなんとかリューヌの機嫌が良くなって一安心ってとこ」

「へー、それなら良かったじゃん」

「……。ただね、このディアが少し怒ってる気がする……」

 またも魔法学院組は、軽く天を仰いだ。レーンは続ける。

「でもさ。そんな殺伐とした空気出さなくてもいいと思うんだ。だってもうそれ喧嘩売ってるのに近いだろ? 怒ってるなら怒ってる理由を言ってくれれば、そして筋が通ってていれば俺は対応策を考えるし、筋が通ってなかったら、もうそれ喧嘩だろ」

「私は怒ってないわよ!」

「いや、絶対怒ってるって。いつもの空気と違うし」

「いーい? 私とレーンは夫婦でもないし恋人でもないから、互いに誰を好きになろうが誰と寝ようが問題ないもの」

「そうだよな? うん。そうだと思う。だからディア、怒らないで欲しいんだけど……」

「怒ってないって言ってるでしょ!」


 ウェインはちょっと考えた後、言った。

「レーンの意見は正しいと思う」

 レーンが少し顔を明るくした。しかし、

「でも俺は、心情的にはディアの味方になりたいかな」

 また落ち込んだ。……思えば、この男がこんなに余裕をなくしているのはあまり見たことがない。

 逆にディアは満面の笑顔になる。

「おー、いいじゃんウェイン。キスしてあげよっか?」

「いや別に……」

「夜が寂しい時は、今度一緒に寝てあげてもいいよ☆」

「おいディア、また修羅場を増やそうとしてないか?」


「んー、でもさー。私だってウェインだって互いにフリーじゃん? だったら別に、誰が誰と寝ようが構わないと思うんだけど。これレーン理論。……どうかなエル?」

 急に話題を振られたエルは、わたわたと手を振って、首を横に振って、なんだか言葉にならない声を出していた。

「だからさディア、そうやってからかうなって……」

 するとディアが顔を寄せ、耳元で囁くように少し強く言った。

「本当に欲しいなら、勇気を出して捕まえて、手放すなってことを私は言いたいわけよ。ウェインはそこらへんは、レーンの真似をしちゃダメ」

「お、おう。わかった」


 また笑顔になったディアの背中を、レーンが軽く叩く。

「何?」

「な、なあディア。多分俺は調子乗ってるところあると思う。だから謝る。悪かった。だから機嫌を直してくれってば。もう怒らなくなっていいだろ?」

「だから怒ってないってば!」


 よくある痴話喧嘩のようだが、ウェインは一つ違和感を覚えた。

 カドニ村からの帰路、ブレーナーの襲撃を受けた夜。宿の一室で。深夜に悪夢でうなされて声を出したレーンを、ディアはドアを蹴破って入ってきてまで、内心恐怖に満ちていたレーンに添い寝をしていた。

 あの時ディアは『とにかくレーンに着いて行く』という趣旨のことを言っていた。だから力関係は圧倒的にレーンにあり、全てがレーン主導なのだと思っていた。しかし今、目の前で起きている光景は、どう見てもレーンのほうがディアを必要としている。

 レーンは他に恋人を作っていて、あまり長く続かないらしいが、逆に女が途切れることもないらしい。……レーンのルックス、フィジカル、頭のキレ、ユーモア、カリスマ性、そして誰とでもすぐ仲良くなる、明るい性格と話題の豊富さ。それらを考えればレーンが女性にモテるのはわかる。要するにレーン側が女を選びたい放題で、実際にそうしているらしいのだが……どうもレーンは、ディアのことをかなり必要としているようなのだ。本人にどこまでの自覚があるかはわからないけれども。


 この二人の関係性は、未だによくわからない。ウェインは立ち入っちゃいけない領域だと感じていて、自分から聞き出すようなことはしてこなかった。


「ま、ともあれレーン。モニカの座学は上出来で、上手く行けば座学の免除規程が適用されるかもしれないんだと」

「おお、それは凄いじゃないか」

 一応、切り替えは早いレーンだ。ディアの機嫌も、多少は良くなったようである。


 さて。これで今日の本題に入れる。



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