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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.1

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パワーアップイベント系の何か?

 冒険者ギルドの訓練施設へ行くと、その一角にレーンらしき長身の男と、ディアとアヤナがいた。彼らはヘルメットを脱いで手を振ってくる。ウェインもエルも返した。

「や、お疲れ。俺のリハビリはもう大丈夫そうだ。バランス感覚に乱れはない。だからちょっと、アヤナの剣の腕前とやらを見たくてな」

 ディアが答える。

「じゃあ着替えて準備してきてみなさいよ。まあまあ上達したわよ」

「わかった」

 エルは軽く片手を上げる。

「私はどうしたら……?」

「まだ余力が残ってるなら、白兵戦の訓練少しできるわ」

「じゃ、用意してくるわね」

 と。訓練場にモニカを除く5人が集まった。


「じゃー、まず俺はアヤナとやりたい。どれくらい上達したか」

 アヤナはヘルメットを被りながら言った。

「悪いけど、装備に差が出てるわよ。今の私はバックラー装備だし」

「いいハンデになるだろ。じゃ、開始!」


 ウェインはアヤナを目の前に、竹刀を構えた。竹刀の長さもウェインはショートソードの長さでアヤナよりやや短い。だが旅の前までのテストではこれでも余裕だった。

 ウェインはすり足で間合いを掴むと……アヤナに向け横に薙ぎ払った。アヤナはそれを受け流し、突いてくる。それを躱して打ち込もうとすると……アヤナの左手のバックラーが邪魔だった。だが小さな楯だ。たいしたことはない。ウェインはアヤナがバックラーを構えているところから、強引に顔面に突きを繰り出した。アヤナは慌ててバックラーで防いで……そこで死角を作ってしまっていた。完全に、バックラーが目線を隠してしまっていたのだ。ウェインは竹刀を引き戻し、腹に向けて突きこむ。大きな手応え。アヤナは吹っ飛ぶように倒れた。

「ふぅ。まあちょっとは良くなったが……まだまだじゃね?」

 アヤナは立ち上がりながら、天を仰いだ。

「まだこんなに差があるの……?」

 そこへディアが言う。

「まだアヤナはバックラー装備の戦闘に慣れてないし、訓練はこれからね。それよりも。アヤナも『瞬活』でできるようになったわ。『ホワイトフィールド』を」

「へぇ」

「まだ5秒とかしかできないけど、アヤナがそれで防御を固めればウェインだって簡単には勝てなくなると思うわ。もう一回試してみて」

「よしアヤナ、次行くぞ」

「はい!」


 またもすり足で間合いを計るウェイン。それに対し、今度はアヤナも不用意には詰めてこなかった。フェンシング流の、右手右足を前にした極端な半身。左手にはバックラー。

 これを崩すには……ウェインは遠い間合いから突きを放った。アヤナはそれを弾き、僅かにバックステップ。

「(お……?)」

 今までのアヤナは、やられたらやり返すという感じでガムシャラだった。それが、今は防御に集中している。もう一度遠くから突いてみたが、アヤナは竹刀で弾いてまたもバックステップ。攻めてこないから、なかなか隙ができない。

 これも訓練だと思い、ウェインは呼吸を整え『瞬活』の『ホワイトフィールド』を使った。相手の予備動作からほんの近い未来を読む技だ。……達人なら無意識で行っている行為ではあるが、ウェインのレベルでは意識を集中させないとできない。

 ウェインはまず踏み込んで、足先と剣先でフェイントを仕掛けた。早い反応速度でアヤナはそれを察知し、バックステップ。……アヤナも『ホワイトフィールド』を使っているのか。ウェインは前方に間合いを詰め、連撃を試みた。突きはアヤナの竹刀で弾かれ、袈裟切りはバックラーで防がれ、薙ぎ払いはまた竹刀で弾かれた。

 さらに間合いを詰め、逆袈裟切り。弾いたアヤナの竹刀が大きく動き隙を作る。間髪入れずに、突き。だがそれはバックラーで防がれ、アヤナは斜め後ろにバックステップ。


 ウェインは追撃。剣先でフェイントを入れると、アヤナの態勢が大きくグラついた。あとはアヤナの頭部めがけて竹刀を振るう。……手応え、あり。

 アヤナはまた地面に倒れていた。

「うん。アヤナ。バックラーと『ホワイトフィールド』のおかげで、随分仕留めにくくなっている。バックラーは訓練して、ホワイトフィールドは10秒間くらい持続できるように持っていけ。そうすればかなり安定できるぞ」

 よろよろと、アヤナが立ち上がる。

「ウェイン……そりゃどーも……。私としてはもう少し巧く立ち回れるかなーって思ってたんだけどね。ウェイン病み上がりだし」

「ちょっとホワイトフィールドに頼りすぎだな。俺のフェイントなんてたいしたことないぞ。通常の状態でフェイントに引っかからないようにすること。……レーンかディア、他にアヤナに何か言うことは?」

 レーンが片手を上げた。

「アヤナは家にあった鎧と小手の性能もいいらしい。だから実戦で軽い突きや斬撃なら、エルもいるし致命傷にはならないだろう。逆に喉・首・目なんかはやられないように、間合いの調整が必須だな。後はその鎧だが、打ち合いで負けた時は緊急的に頑丈な部分で受けるよう工夫があったほうがいい。最初から全部やれとは言わないから、徐々にな」

 レーンはそう言うと、今度はディアとエルに目をやった。

「じゃ、エルとディアで模擬戦やってみ。互いに『ホワイトフィールド』とか、パワー強化とか、ダッシュ力強化とかをやる……つまり『瞬活』を継続させながらの模擬戦だ」

「はーい」

「わ、わかったわ……」


 エルの武器は特殊警棒だ。ショートソードの長さで作られたディアの竹刀より、遥かに短い。リーチの差は歴然である。レーンも容赦がないことをする……と思ったが、いざ模擬戦が始まってみると実際はそこまで差が開かなかった。

 まずエルがいきなりダッシュで間合いを詰める。いつもの速さではない。瞬活を使っての速さだろう。そして一度ピッタリくっつけば、逆にリーチが短いほうが有利になる。

 エルの連撃。滅茶滅茶に振り回しているというわけではなく。正確に、狙う部位を心得ている動き。ディアはその全てに反応し、竹刀で弾いている。流石に力量の差か、間合いを外さずとも逃げずに防ぎきっている。

 と、今度は互いにフェイント合戦になった。両者ともに間合いは離れないまま小刻みに動き、斬撃を繰り出そうとしてはやめたりと打ち合いとは全く異なった戦い方になっている。

 少しの間そんな時間が続き……勝ったのはやはりディアの方。竹刀でエルの頭部に直撃を入れていた。

 エルは倒れるが、ウェインにとっては衝撃的だった。エルが、あの運動音痴のエルが、まがりなりにも最初のほうは拮抗していた(ディアは多分力を加減していたが)。

「凄いなエル。いつのまにあれだけ腕を上げたんだ?」

 エルが立ち上がり、ヘルメットを脱ぎながら言う。

「えへへ。『瞬活データリンク』で、ディアからイメージをもらったの。ディアが特殊警棒でならこう戦う、ってイメージをね。私はそれを使っただけ」

「あと『ホワイトフィールド』も、今は15秒くらい続いていたんじゃないのか? 旅の前の模擬戦では、あれほど長くもたなかった……」

「うん……。瞬活って、なんだか私に合ってるみたい。肺活量はまだまだだけど、試していくうちに効率的に使えるようになってきて……」

 レーンが声を出した。

「もう『瞬活』の技術は、エルは俺に次いで二番目だろう。ディアより巧い。だからあとは筋力と肺活量さえつけば、白兵戦に巻き込まれても安心だと思う。もう少しだな」

 もっとも『瞬活』は『脳』に関する呼吸の技術。魔法との同時使用は難しく、相性が悪いせいでウェインは戦闘中もあまり使わずにいるが。


 ディアが言った。

「じゃ、今日はこの辺で終わりにしよう」

 レーンも肯く。

「そうだな。ディアの剣もだんだん良くなってきているぞ」

「へへっ、嬉しいな」

 一同はそこで男女別に分かれ、それぞれ更衣室へと行った。ウェインは聞いてみる。

「レーン。お前のほうは、なんか目ぼしい成果あったかい?」

「ラクスで一番の剣の道場に通っているんだが、師範代クラスの技もほぼ吸収できたんだよなー。ただ、流石に師範は強い。師範が道場に来る日は、必ず通っている」

「そっか。ラクスじゃなくレオン王国のどっかの街なら、もっといい剣の道場があるかもしれないが……何せラクスって魔法都市だからね。魔法以外は王都ガルディアとかのほうに良い施設があると思う」

「しかし武者修行の旅に出るってわけにもいかないしなぁ……。そうだウェインこそ、リハビリ以外で何か目ぼしい成果ないのかい?」

 ウェインは少し考えた後、言った。

「アスリー師匠が、俺宛に手紙を残しててくれたんだ」

「ほう? 何が書いてあったんだ?」

「まだ封筒は開けてない。今夜の酒場で皆に言うよ」


*


 5人(モニカは勉強中でいない)でいつもの店に集まって。ウェインたちはまず飲み物を注文した。レーンとエルだけがソフトドリンク、後の3人はビールである。

 ウェインは言った。

「さて。まずはアヤナの白兵戦能力が上がったことはよしとしよう。エルもいつの間にか強くなっていたことも。俺はバランスのリハビリは終わって、もう少し筋肉を増やせば出発前あたりのコンディションになる。……で、だ。ファントム事件絡みのことは、まだ俺たちに公式に打診が来ていない。と言うのも俺とエルの教育実習が終わった後なら、俺たちはかなり時間に都合がつくからだ。……モニカの座学は、どうなるかはわからないが」

 ディアがビールを飲みながら言う。

「つまりウェインとエルの教育実習が終わるまでは、皆の時間に余裕があるってこと?」

「そうだな」

「どれくらいなの?」

「後2回。一週間で終わる。その後はサボる形になるが、認定までの必要時間数は足りるから」

「微妙な時間ねぇ……。劇的に強くなるには、まるで足りない」

「そうだ。ただ一つ……この前、アスリー師匠が俺宛に手紙を残していてくれたことがわかって、その手紙を今俺が手にしている。その封筒には『更なる力を欲する時、これを開封せよ』と書かれていた。まだ開けていないが」

 おぉ、とどよめきがあがる。

 ディアは一気にテンションが高くなったようだ。

「じゃあその手紙、見ればいいんじゃない? パワーアップイベント系の何かっしょ」

「ああ……俺の魔力では真っ向からではファントムに勝てなかったからな。だが、これを見ていいかどうかで、実は悩んでいた」

「なんでさ?」

「俺が16歳までで教えることは全て教えてくれたのがアスリー師匠だ。なんでこんな回りくどいことをするのかと……。いつもの悪ふざけにしては……ちょっとやりすぎ。それに手紙に苗字が書いてないんだ。確か『アスリー・ドリウス』ってのが正式名だったと思うが……本人、魔法学院のアスリーと言えば私しかいないだろ、って、あまり苗字のこと喋ってくれなかったんだよね」

 レーンが口を開く。

「でも見るんだろ?」

「そうだな。何か書いてあるかもしれんし。そこで……明日、モニカの座学の進捗を聞くのも兼ねて、魔法学院で封筒を開いてみようと思う」

「ほぅ」

 そこでアヤナが手を上げた。

「6人が集まるのね? だったら私からもちょっとした話があるわ」

「何?」

「内緒。場所は魔法学院内のラウンジ? 私の話は、あまり他の人に聞かれたくない話なんだけど」

「そうなのか。まあ俺もアスリー師匠に関わることだからなぁ……じゃあ空き教室を一時的に借りるように手配しておく。モニカが座学中だから……昼休みに集まろう。エル、女子寮のモニカに伝えてくれるか?」

「うん、わかったわ。ウェインは午前中はどうするの?」

「まだ階段上り下りだ」

「じゃあ私もそれに参加するね」

 そこまで話がまとまり、明日の午前中は各自が自由行動。昼休みに魔法学院に集合ということで落ち着き、後は運動後のいつものメニュー……肉料理を各自が食べることになった。



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