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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.1

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『旅の魔導士』

 ミーティングが終わると、ウェインは早速アスリー師匠が使っている制度のことを聞いてみることにした。エルも異論はないようだ。

 昼直前で忙しいかとも思ったが、ダメ元でアーク副学院長に会ってみることにした。部屋の前まで来て、ノックをする。

「どうぞ」

 ドアを開くと、アーク先生が立っていた。またソファを薦めてくる。今度はウェインの隣に、エルも座った。

「どうしたウェイン君。昨日のモニカ君の処分に何か不満でも?」

「あ、いえ。むしろそっちはすっかり忘れてました。モニカを助けていただいて、ありがとうございます。感謝しております」

「別に私の一存で決めたわけではないから感謝は不要だよ。で、今日は何の用事かな」

「お忙しいところすいません。アスリー師匠なんですが、あの人、普通に旅をしているんですよね。何か学院からの依頼をしているわけではなく」

「そうだが?」

「それでも学院に籍はある。これって、どんな制度なんですか? 今まで私は存じ上げなかったのですが」

 アーク先生は肯いて、言う。

「単純に『旅の魔導士』と言われている制度だ。世界各地で情報を収集し、自分を磨き新たな魔法などは学院に報告する。また各地に魔法の恩恵を授けていく。昔は流行った時期もあるんだが、各地で魔法文化が栄えてきたことと学院のコストカットで旅費が出なくなってからは、あまり使われていない制度だ。だが自由に旅をできる上に、魔法学院に籍は残るのですぐに復学・復職ができるというメリットはある」

「ビル先生に聞きました。本当にそんな制度があるんですね。俺、それをやってみたいです」

「だがデメリットもあるぞ。まず学院内でのキャリアは積めないから、出世はしにくくなる。復職した時の給料も、そのままだ」

 それくらいなら、どうでもいいものだ。

「俺、それでもやりたいです。どうしたらいいんですか? 何が必要なんですか?」

「一つだけ……教員免許だけだ。各地で魔法を教えるというのも目的だからな。ウェイン君とエリストア君は……もう教員免許を掴みかけているようだが?」

「やった! じゃあ、私もその『旅の魔導士』ってのになっていいんですね?」

「規則的には何も問題はないよ。ただ我々魔法学院は今まで『アッシュの再来』ことウェイン・ロイスを広告塔として使い、見返りに各種のサポートを与えてきた。スポンサーも多くいる。だがレオン王国外に行かれると、そのサポートはゼロとは言わないが、確実に今より少なくなる。まあ……最初からそれだと厳しいなら、まずはレオン王国内の旅をすれば良いかもしれない」

 ウェインは肯いた。今まで……甘やかされてきた意識は、持っている。

「覚悟の上ですよ」

「そうか……。君が決めたのなら、仕方ない。好きにするといいだろう。……君はアスリーの弟子だし、なんだかこんな予感も前からあった。教員や研究員を打診しても、あまりいい返事がなかったからな」

「すいません……。でも、私は行く先で魔法学院の名前を汚すことはしません」

「それだけで十分さ。あのアスリーなど未成年との淫行条令で逮捕されたんだからな。しかも何度も」

「あはは……。そういうことすると、制度の取り消しとかないんですか?」

「アスリーの場合は、全て同意の上でのことで不起訴だったからだ。執行猶予でも大丈夫かもしれないが、実刑になると色々会議等が開かれるはず」

「じゃあ、特に犯罪なんかをしなければ大丈夫だと?」

「そういうことだな。それに関してはウェイン君は心配してないよ。それよりもエリストア君。君だ。前の旅に君がついていった時、私は生徒情報を確認した。内向的で、安定志向と記載があった。あまり旅や冒険とは縁がなさそうだったから……今回のことに驚いている」

 エルは肯いた。

「はい。内向的なのは私の弱い部分だと思ってます。だからこそ安定志向だったのですが……ウェインや、仲間とともに旅をする楽しさを知りました。魔法学院では学べなかったことを、沢山学びました。だから私は、ある程度学んだら満足して、ウェインより早く学院に復職して教員になるかもしれません」

「……」

「前の旅で一番私の心を焦がしたのは、皆が、私の力を必要としてくれることでした。実際、報告書にも書かれていたと思いますが……仮にウェインが瀕死になった時に白魔法使いがモニカだけしかいなかったら、ウェインは確実に死んでました。私、それまで生きていて何故かいつも無力感に包まれていました。でもあの瞬間、私は無力じゃないとハッキリ実感できたんです。だから……」

 アーク先生は肯いた。

「わかったよエリストア君。君も軽い気持ちではないのだな。それを確認したかった」

「はい……」

「まあ教員免許がなければ始まらない。免許の取得までは今まで通りに行動して欲しい。それ以降は、所定の届け出を出せば、後はどうしようと大丈夫だ」

「ありがとうございます」

 ウェインもエルも、深々と頭を下げた。


*


 ウェインとエルは学食で昼食を摂ると、それぞれ着替え室に行った。

 今日はもう学院の仕事はないので、またリハビリだ。今日は体操服を持ってきている。

「あ、エル。ちょっと待って」

「どうしたの?」

「予備の制服がないんだ。だから一着、注文しないといけない」

 購買部はお昼も過ぎて、すいている。寸法を測ってもらって、上下を注文した。

 寸法を測ってもらった時、スタッフの手が胸に当たった。が、痛くない。

 ウェインは購買部を後にして、うしろのエルに言った。

「なあエル。俺の肋骨の二本のヒビ、結構治ったかも」

「え?」

「痛くないんだ。触っても。ちょっと魔法で調べてくれないか?」

「わかったわ。あ、それに今日まだ回復魔法かけてない」

 エルは呪文を唱え、ウェインの胸に軽く手をかざす。そして、言った。

「うん。治りが早いわね。まだちょっとヒビが入ってるから、強くぶつかったり殴られたりすれば痛いと思うけど、あと二、三日で完治しそう」

「やった」

 残るは足の筋肉だ。昨日は結構手ごたえを掴んだので、順調と言える。


 体操服で、重りを背負って階段を上り下りする。

 大丈夫。もう下りる時に全然怖くない。

「エル。俺のリハビリ、バランス感覚はもう大丈夫そうだ」

「本当!? 良かった……」

「後は筋力的なことになるから……エルも、これからはそっちのトレーニングをしてみるといい。階段を上る時は全力ダッシュだ。でも下る時は、危ないから普通に下りる」

「わかったわ」


 二人で、そのトレーニングを繰り返した。ただでさえ手首と足首に重りを着け、リュックに重りを入れての四階までの全力ダッシュはかなり負荷がかかった。

 ウェインもすぐ呼吸が上がり、足が動かなくなってくる。エルは休み休みでしか上れない。

 旅の前の特訓ではランニングから短距離メインの走りの訓練をしたが、今ももう短距離で階段をダッシュで上がる、負荷の高いトレーニングだ。


 しばらくそのメニューを続けると、夕方が近くになってきていた。

「じゃあエル、今日はこのへんでいいだろう。お疲れ様」

「うん。お疲れ様」

「俺はアヤナの白兵戦の上達ってのが見たいな。もし訓練してるなら冒険者ギルドの施設だろうから、ちょっと見に行ってみないか?」

「そうね。もしアヤナの白兵戦能力が高くなれば、ウェインより高い位置取りで迎撃役になれるもんね」

 エルも配置や陣形などを色々と考えているようだ。



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