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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.1

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事情聴取

 次の日。もう馬車の荷台にはウェインは乗らない。リハビリがてら、歩いてついていくことにした。

 兵士たちやアリス隊の皆も、久々の帰還のようで嬉しそうだ。

 ディアを先頭に、出発した。最後尾はレーンだ。

 ウェインはアリス隊の隊員に聞いてみた。

「ブレーナーがどうなったか、情報は入ってませんか?」

「はい……東の通信魔法のジャミングはまだ続いてます。ただ一度、カドニ村に繋がったんですが、詳しい話はできませんでしたけどブレーナーらしき二人組は来てないって言ってましたよ」

「あのまま東の国境付近に行ったかな? 引き返してラクスに戻ってきたり?」

 レーンは首を振る。

「わからんな。正直、ファントムなんかより余程手ごわい敵になってしまった……いや、敵かどうかもわからないんだけど」


 そうこうしているうちに、遂にラクスの街に到着した。時刻は昼過ぎごろ。太陽が高く昇っている。

 ラクスは石壁に囲まれた都市で、入り口で簡単な検問をしていた。今では城壁の外にも簡易な建物が並んでいて、さらに建造もどんどんされている。

 検問所で国籍不明の人とかレーンと同じくらい背の高い人が来なかったかを聞いてみたが、知らないとのことだった。

「うーん、正直厄介だなぁ」


 それでも街の中に入り、皆はレオン王国軍基地へとやってきた。

 アリス隊の一人が言う。

「さて、皆さま。長い間お疲れさまでした! 誰一人欠けることなく、これにて我々の任務は終了です。あ、ウェインさん。借りてたショートソード、お返ししますね」

「どうも」

「あちらで到着手続きをしてください。その後は自由です。我々は報告をまとめ、提出せねばなりません。ここでお別れです」

「ありがとうございます。楽しかったですよ」

「そうですね。ありがとうございます。それでは」

 入れ替わりに基地の出迎え役と思わしき軍人がやってくる。

「皆様、お帰りなさい。通信は取れてました。手続きはこちらです。サインするだけで結構ですよ」

 通された所は、基地内の廊下のカウンター。帰還者名簿という台帳に日付とサインをすると。兵士は敬礼して言った。

「はい。手続きは終了です。あとは皆様はご自由になさってください」


 基地から出て、少し歩く。活気のある商店街が見えてきた。街を留守にしたのは一週間ちょっとだけだが、感慨深い。

「帰ってきたんだなぁ」

「そうねウェイン。で、これからどうするの?」

「魔法学院組は学院に出頭する。事情聴取もあるし俺の報告書も出さねばならない。そして何より、報酬をもらわなければならないからな」

「報酬って、いつ出るの?」

「実は聞いてみないとわからない」

「じゃあ私とレーンは一旦部屋に帰って、明日また出てくるわ」

「わかった」

「じゃ」

 レーンとディアは、並んで彼らの部屋に戻っていった。

 残るは魔法学院組の4人。

 ウェイン、エル、モニカ、アヤナだ。

 モニカは今日は、まだ明るい声を出していない。事件での『処罰』を恐れているのだろうか。

「とりあえず魔法学院に行くぞ。色々あるから」

 道なりに歩いていくと、豪華な塀に豪華な門、そして奥にそびえ立つラクス魔法学院の建物の前まで来た。普段は何気なく出入りしているが、今日は緊張している。

 学院に入り、一階、二階、三階、そして教職員のフロア四階へと登っていく。学院長に話せばいいんだろうか。とりあえずウェインは、自分の席がある職員室を訊ねた。

「すいませーん……」

「あら、ウェイン! どこへ行ってたの? 最近見なかったから」

 これは古参の教職員、グランクさんだ。

「ちょっと依頼を受けて、遠出してました。依頼が終わったらどうすればいいんでしたっけ?」

「就職課の人へ報告すればいいんじゃない?」

「えと、あの、出先で学生が少しトラブルを起こした場合は?」

「基本は就職課でいいはずよ。大きな揉め事なら学院長がヒマだったらそこで相談してもいいけど、今出張中。相談するなら代理のアーク副学院長先生かしら」

「アーク先生ですね。わかりました。相談してみます」


 副学院長室へと行く。ノックをすると、中から返事があった。

「失礼しまーす……」

「おお、ウェイン君。久しぶりだね」

 アーク先生は中年を過ぎたあたり、もう老年に差し掛かってきている。どちらかと言えば厳格で、規則に厳しい人である。

 こちらはウェイン、エル、アヤナ、モニカの四人。アーク先生は彼女らを見回し、

「例の件のことだね?」

 と、ソファを薦めてきた。


 ウェインとアーク先生だけが座り、他の女性陣は立ったまま。

 ウェインは手短に、今回の事件のことを話した。

「第一報は聞いていたよ。しかしアッシュの研究の生命体か……」

「はい。この報告書に今回のことは全て書いてあります。ご一読ください」

「わかった。あとは後ろの女性方にも話を聞かないとな。捜査班を用意してある。すまないが皆、事情聴取を受けてくれ」

「わかりました」


 四人は、それぞれ別々の部屋に連れていかれた。

 その部屋の中には二人の捜査員。

 ウェインは今回のことを洗いざらい、正直に喋った。

 その捜査員が肯き、出て行ったと思ったら他の捜査員二人組が入ってきて、また一から話すことになった。

 魔法学院は高度な自治権を持っている。逮捕権もあるくらいだ。なのでこの取り調べは当然とも言えたが、苦痛だった。


 ようやく事情聴取が終わり部屋の外に出ると、もう夕暮れだった。エルとアヤナが通路に置かれた椅子に座って待っている。

「お疲れウェイン」

「ああ、お疲れ。モニカは?」

 エルが不安そうに応えた。

「やっぱり、だいぶ時間がかかるって聞いたわ……。私たち三人揃ったら、先に帰ってくれって」

「俺も随分弁護したし、アーク先生には嘆願書を出したし、とりあえずここでやることはないな。明日、また来てみよう」

「そうだね……アヤナは確か、フランソワーズ家の別宅がラクスにあるのよね」

「そうだけど?」

「一緒に送りましょ、ウェイン。ブレーナーたちがどこかにいるかもしれないから、単独行動はしばらく控えるってことになってるもの」

 ウェインとエルは魔法学院の寮に住んでいる。アヤナを送って、帰ってくれば大丈夫というわけだ。


 魔法学院を出て、アヤナの家まで三人で歩く。

「帰ってきたって感じね。ラクスはまだまだ人で賑わってる」

「むしろ夜はこれからだしな。寮の門限はアレだが」

「私、こんなに家を空けたことないから、執事に何言われるかわからないわ」

「まあ怒られることはないだろうさ」

 そしてフランソワーズ家の別宅までやってきた。ここでは前に倉庫内の物を頂いたことがある。

「じゃあ、ウェイン、エル。また明日。魔法学院でね」

「ああ。また明日!」

「おやすみなさい」


 アヤナと別れ、ウェインとエルは再び魔法学院のほうへと歩を返した。

 繁華街は賑わいを見せている。今はまだ夕方過ぎ。これから、もっと大勢の人で賑わうだろう。それがラクスの街だ。

 と、ウェインはエルに、ちょんちょんと肩を叩かれた。

「ん? 何?」

「その……手、繋いでいい?」

「あ、うん。もちろん」

 そっと、手を繋ぐ。

 思えば二人だけの時間というのは、最近全くなかった。

 いや、実際はいっぱいあったのだろうが、ウェインは意識がなかったのでどうにもならない。

「ねぇウェイン……モニカちゃんの処分、軽くなるといいね」

「ああ。きっと大丈夫だよ。嘆願書も出したし。結果的には、俺が行ったのは最善の人選になったわけだし」

「そうよね。きっと、大丈夫」

 ウェインとエルは、言葉少なに、手を繋いで歩いた。

 しばし無言で歩き続けると、もう学園の塀や門が見える。

 もう二人だけの時間は終わりか……ウェインがそう思った時、エルがウェインの腕を引っ張り、耳元でささやいた。

「ねぇウェイン。キスして欲しいな」

「え?」

「ダメ?」

 運良く辺りには誰もいない。ウェインはエルの顔に近づいて、軽くキスをした。


「えへへ……」

「エル。顔真っ赤だぞ」

「そ、そう?」

「今度はギュって、抱きしめて欲しいな」

 言われるがまま、ウェインはエルを抱きしめて、言った。

「俺、本当にエルのこと好きだからな」

「そう? ありがとう……」


 抱き合ったまま少し経って、エルがそっと離れた。

「じゃあねウェイン。おやすみなさい。今度また、二人でどっか行こうね」

「ああ。じゃあな、エル。ゆっくり休めよ。エルとの時間は俺も楽しみにしている」

 そしてウェインは、エルとは門のところで別れた。女子寮は向こう側、男子寮はこちら側にあるのだ。

 エルの唇の柔らかさと、身体の温かさ、そして愛おしくなる香りを思い出しながら、ウェインは久しぶりに男子寮に入って行った。寮長から声をかけられる。

「お、ウェイン。久しぶり。どうした? 顔が赤いぞ?」

「ちょっと火照っちゃって」

「はぁ。それよりウェインの部屋、退去勧告がまた来てた。そろそろ退去しないとヤバいかもしれない。教職員用の寮に行く気はないのか?」

「まだ将来を決めてないんですよ。学院から給料が出るなら、外にアパート借りてもいいし」

「ま、よく考えといてくれ。退去勧告の件、伝えたからな」

「はーい」

 階段を上がって、二階へ行く。通路を通って、奥の部屋。そこがウェインの部屋だ。ウェインはカギを取り出し、開けた。

 そこには出発当時と何も変わらないまま、自分の部屋が存在していた。

「いやー、我が家だね」

 ウェインはショートソードとナイフを鞘ごと抜いて、壁に立てかける。


 今回の旅で、魔法学院の制服がボロボロになってしまった。普段着用が3着、式典用が1着あるのだが、その普段着用が2着になった計算だ。

 明日注文しようと、メモに書いていく。

 そうだ、革鎧も買わなくてはならない。きっとレーンに選んでもらって、『付与研』のジャンに魔法強化してもらうのがいいだろう。それもメモした。

 後は何かあったか……そうだ、ローキックの一種、『カーフキック』を学べとレーンに言われていた。打撃技はそれぐらいで、その他は寝技や剣術の訓練に充てたほうがいいと。

 メモにカーフキックと書く。

 後は報酬か。必要経費を抜いた純利益を六等分でいいだろう。但しいつモニカに渡せるかどうかがわからないので、その間に預かっておく役目は自分が適任だろう。

 後はブレーナーとそのパートナー……アイカと言ったか。彼らのことを冒険者ギルドで聞いてみるのもいいはずだ。ディアたちのほうが適任かもしれないが、念のためメモする。

 他は、取り立てて急ぎの物はない。モニカのことは心配だったが、今ここからではどうにもならない。

 ウェインは大きくあくびをすると、上着とズボンを脱いで、ベッドに倒れ込んだ。

 長旅と取り調べで、やっぱり疲れていたのだろう。まだ夕食も食べてないし、お風呂にも入っていないが、もうどうでもいい。すぐに眠気が襲ってきて、ウェインはゆっくりと夢を見始めた。


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