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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.1

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アヤナ、上昇の予兆

 次の村までの行軍途中、馬車の荷台からウェインはひらひら手を上げた。

「なあエル。ちょっと歩いても大丈夫かな。リハビリも兼ねて」

「そうね。でもやりすぎに気を付けて」

「分かってるって」

 荷台から下りて、他の皆と一緒に歩きだす。

「ほら、アヤナ。エルが荷台で防疫フィールドを張り巡らせている。観察しに行け」

「あー、これがそうなんだー」

「フィールドの張り方は他と共通だ。飛んでくる矢を弾いたり、撃った相手に撃ち返したりするのもこのフィールドの変化形。将来的にはアヤナにも習得して欲しい」

「へぇ……」

「じゃあエル、後の説明は頼むぞ。俺はリハビリだ」

 これはエルにも『教えることによって』得られることを体感してほしかったためだ。


「んっとね。フィールドは傘のように張る。術者が知っている病気を、弾くの」

「私、特に何も知らないわよ」

「防疫の場合はとりあえず破傷風とマラリアからやってみて。一学年生で習ったはず」

「ああ、アレかぁ……」

「特にマラリアは蚊を媒介して、病気をもたらす。人類を一番殺しているのは蚊で、次が人間、その次が悪魔と言われているわ」

「防疫フィールド張ってても、マラリアにかかる?」

「張ってれば平気。だけど普通の移動や、軍隊の末端では防疫フィールドは張られていないから……」


 今、この隊はサブポジションと言うか、みんな本職ではない配置についている。ラクスの街も近くになって、行き交う人々も増えてきて余裕のなせるところだ。

 先頭だって、万全を期すならレーンだろうが、訓練を積ませるためにディアに任せている。レーンは最後尾だ。

 ウェインは最後尾のレーンに近づき、言った。

「なあレーン。俺にスカウト技術教えてくれよ。とりあえず口頭で。今度機会があれば、俺が先頭か二番手になるから」

「いいぞ。っつってもまあ、もうだいたいウェインには教え終わってる。屋外では人の隠れてそうな所に注意とかな。ああ……屋内戦のことはほとんど教えてなかったか」

「ああ。それはまた次の機会で」

「ブレーナーの時はまだラクスから離れていたが、ここまで来ると商人や旅人と頻繁にすれ違う。だから奇襲とか暗殺とかには誰か注意できる配置にしておくことが必要となる。懐に何か忍ばせているようなのは要注意だ。誰が狙われるかわからんし、何より、誰も狙われないことのほうが遥かに多いのが疲れる」

「まあ人通りのある場所で暗殺とかは少ないだろうとは思うが」

「ああ。警官隊や軍隊が結構パトロールしてるしな。レオン王国は本当に安全な国だと思うよ」

「うん。俺も昔、他の国を師匠と回った時にそう思った」

「あとスカウトが敵を発見した時の対処として、即座に敵を処理しなければならないことがある。スカウトと言うより遭遇戦でのポイントマンだが。先頭は真っ先に突っ込んで陣地や安全地帯を確保するから、援護は二番手が行うというものだ。俺がポイントマンでディアがフォローなら、俺への回復魔法だし、ウェインがフォローなら敵や目標に魔法を放つ。当たらなくてもいいんだ、ポイントマンへのフォローが一番大事」

「なるほどね。俺はいつも後方支援だから、あまり考えたことなかったな」

 そこでレーンが顔を寄せて、小声で聞いてきた。

「なあウェイン。アヤナは剣術をどう思ってるんだ? 強くなりたいとか」

「できればディア級になりたいとは言ってたけど、本人が努力型じゃないからなぁ。あ、ただディアの『瞬活イメージ』を再構成して渡した。ちょっとはマシになるかも」

「今のアヤナは基本、中途半端だ。前に出られれば、戦術の幅も広がるんだが」

 レーンは近づけていた顔を、離す。……そう。今のアヤナの剣の腕前では前衛は無理だし、かと言って後衛に回しても魔法が距離で減衰してしまう。

 能力がオールラウンダーなのが災いして、目立つものが少ない。自己肯定感も少ないようだ。馬に乗れたり、サーベルを使えたりと普通の女ではないのだが、ディアという上位互換っぽいの存在がいる。残るは今のところ貴族のコネだけか……。

「一皮剥けて欲しいんだがな」

「ん? ウェイン、何か言ったか?」

「いや何でもない。俺、今度はディアの近くに行ってみるよ」


 先頭のディアに駆け寄る。

「なーに? ウェイン」

「スカウトの勉強をしようと思ってさ」

「もうラクスが近いからね。あまり確認点、ないわよ」

 そう言いながら、右手の大きな岩を指差す。

「あそこからクロスボウで狙われてたらどうする?」

「わかってりゃ、魔法で対処できるが。一撃目はどうなるかなぁ……」

「じゃあ今度はあっちね。向こうから来る数人の旅人だけど、ウェインをナイフで暗殺しようとしていたら?」

「全員で?」

「全員で」

「この距離があれば中級・上級魔法で吹き飛ばせるけど、接近されたらなぁ……」

「ま、色々考えとくのが大事ってわけよ。いざって時に慌てないように」

 先頭は柔軟なタイプが良いようだ。


 ウェインは、今度はモニカの隣に行く。

「どうしたんですか? ウェインさん」

「モニカはさ、将来どんな風になりたいのかなって」

「難しいですねー。まあウェインさんが黒魔導士ですし、私も黒魔法を習おうかと」

「でもモニカは白魔法にもセンスがあるぞ。エルに聞けば大抵のことは教えてもらえるはずだ」

「白魔法は基礎的なことはやります。でも極めたいのは黒魔法ですね。ウェインさんの魔法だし、アッシュの魔法だし」

「そっか。白兵戦はどうする予定だ?」

「15歳になったら、サーベルに切り替えます」

 モニカは15歳の仮成人前の『未成年』だ。長い刃物サーベルやショートソードの所持は法律で禁止されている……大抵は見逃してくれる軽犯罪だけれども。

 しかし上辺は模範生のモニカだ。つまらないことでケチをつけられたくないと、腰に差しているのは刃がなく突き専門のレイピアだ。

「流派はフェンシングでいいのか?」

「そうですね。私はウェインさん程に白兵戦はこなせないんで、あくまで護身用にってことで、ラクスで習いやすいものにします」

「体術・格闘術を何か習うつもりは?」

「今のところ、ないですね。あ、柔道の受け身は習ってもいいかも。……ともかく、私は接近されたら終わりなんですよ。アヤナさんにも負けるし、多分戦ってもエルさんにも負けますよ」

「体力と足の速さはどうなんだ? 今まで未成年だからって、ろくに観察もしてなかったが。そこまで悪いほうじゃないと思うが?」

「体力はあるほうですよ。足もまあまあ。普通学校では陸上部の中距離にいました。だからスピードはともかく、一応は走れます。……あと力はどうでしょうね。レーンさんに師事してプロテイン飲んで肉体改造すれば、ワンチャンあるかも」

「力だけあっても無駄さ。大丈夫、モニカはモニカの道を行けばいい。黒魔法と、時折白魔法も学べば、俺やアッシュが使えなかった魔法も使えるようになるだろう」

「本当ですか? ありがとうございまーす☆」

 モニカの魔法のセンスは折り紙付きだし、何より努力家だ。まだ13歳なのだから、これは将来大魔導士になるだろうと思う。

 ……師匠のウェインが正しく導ければ、の話だが。


 ウェインは一通り仲間のところを回ったので、馬車の荷台のところに戻ってきた。足が疲れてきたが、もう少しと我慢する。

「こんなもんかー」

「上出来よ、アヤナ。アヤナは自分を中心に範囲を広げる魔法が得意なのかもね」

 気になる会話が聞こえたので、荷台に身を寄せた。

「どうした?」

「ウェイン。アヤナがね、初めての防疫フィールドを張ったんだけど、この部隊全体をカバーできたのよ」

「へぇ。初めてでそれじゃ、凄いじゃないか」

「でも私じゃ破傷風とマラリアだけしか防御できないらしいわよ。ねえエル。これ病気の種類調べるのにはどうしたらいいの?」

「先生に聞くのが一番だけど、私に聞いてもいいし、魔法学院の図書室でも調べられるわ」

「じゃあまず図書室で調べてみる。確認をエルに頼みたいんだけど」

「ええ、もちろん」

 なんだかうまくいっているようで、安心した。

「そうだアヤナ。昨日渡した『瞬活イメージ』、見てみたか?」

「あ、忘れてた。ラクスに戻ったら見てみるつもりだったから」

「劣化しないうちに見とけよ」

「今見ていーい?」

「いいよ」

 アヤナは仰向けに寝そべり、瞬活の『イメージ』を脳にぶち込んだようだ。ある程度以上の魔法使いならば幻覚魔法でイメージの再生や出力ができる。


「あ」

「ん? どうしたアヤナ?」

「これ凄いかも。あ。こうなってるんだ……」

 しばらくアヤナの独り言が聞こえたが、やがて、アヤナは起き上がった。

「どうだった?」

「凄い。本当に凄い。私、いつも無駄な動きしてた」

「お、気づけたのか?」

「私、いつもフェンシングで『攻撃権』を取るための癖で、わざわざ自分から動いて隙を作ってた。ディアの動きと全然違う。スピードは同じくらいなのに、ディアが連撃を続けられて私ができないわけがわかったわ!」

 アヤナは興奮気味だ。そしてウェインも心の中で喜んだ。恐らくレーンも同じだろう。


 多分、アヤナは『何か』を掴んだのだ。



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