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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.1

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73/318

年一とかで出現する量産型の自称『魔王』様たち

 次の日。またレオン王国軍が清算をし、ウェインは馬車の荷台に乗って、皆で出発した。

 馬車の荷台の結界は段々と強化されていき、今ではなかなかのものになっている。

 エルが荷台から、ウェインの身体を見て肯いた。

「はい、今日の回復魔法は終わり。あとは……うん、外傷ももう平気よ。これで今日からお風呂に入れると思う。後でレーンにも診てもらって」

「あ、本当? ラッキー」

「ただ肋骨の二本のヒビはまだだから、できるだけ安静にね」

「そんな酷かったのか?」

「折れて、肺や内臓に刺さってたからね。出血は止まらないし、本当に死んでもおかしくなかったんだから」

 エルはコツンと肩を叩いてきた。

「エル……ありがとな」

「ううん。私だけの力じゃなかったし」

 エルは顔を赤くしている。……愛らしい。


 ウェインは言った。

「なあみんな。そのまま歩きながら聞いてくれ。ファントムのことだ」

 和気あいあいだった空気が、一瞬少し静まり返る。

「もしファントムが、アッシュが作り出した単純な魔法生命体だったら、今回の一件はたいしたことがなくて終わっていただろう。だがファントムは『悪魔使役ができる』と言っていた。これはすなわち『魔王の可能性』を有している、ということになる」

 ディアが気楽そうに言う。

「でも自称『魔王』なんて、年に一回ぐらいはこの大陸のどっかに出現して、結局どっかの国や誰かに倒されるだけじゃないの? なんか私が覚えているだけでも履いて捨てるほどいるんだけど」

「ディアの意見は基本的には正しい。……まあ俺も得意分野じゃないんで正確なことは言えないかもしれないが、自称の量産型の『魔王』は、だいたい年に一回くらいどこかに出現し、誰かに倒されているようだ」

「それで『悪魔』だけでなく、『怪物』や『亜人』も操って人間に襲い掛かってくるって話でしょ?」

「ディア。一般のイメージとそこが決定的に違う。『魔王』が支配下におけるのはあくまで『魔物』だけだ。人間と意思疎通ができる各種の『亜人』、一見狂暴そうな『怪物』。これらは、別に魔王の指示で人間を襲うわけではない」

「え? でも魔王が出没するとそいつらが凶暴になるって……」

「それはもともと領土問題なんかで人間と争っていて、侵略の言い訳に『魔王に操られた』とか主張しているだけだろう。魔王に責任を押し付けてるんだな。後は単純に二面作戦になるから、人間側の防衛線力が手薄になるからだろう。そしてむしろ逆に、亜人や怪物なんかが魔王を倒すことも多い。これは記録にあまり残らないだけなんだが……」

「へぇ……」

「大きな記録になると、人間の他に色んな種族たちが一致団結して『魔王』に挑んだ、という記録もある。さしずめこれは『大魔王』と言ったところか」

「なんで『魔王』は人間を標的にするの? 人間だけ、ではなさそうだけど」

「詳しいことは俺も知らない。ただ、もとの自分の種族を攻撃するようになっているのではないか、って説も聞いたことがある」

「へぇ……」


 ウェインは一度言葉を切って、周囲を見渡してから言った。

「さて。年一で出てくる量産型の自称『魔王』と、例えば『大魔王』と、そして今回の『ファントム』と。どこが違うと思う?」

 モニカはエルの顔を見たが、エルは頭を振ってウェインの目を見てくる。

 レーンとディアは顔を見合わせて、やはりウェインを見てくる。

 ウェインは言った。

「『そんな定義はない』んだよ。相手が魔王なのか大魔王なのかファントム程度なのか、それらを区別する定義はない。実際戦ってみて、国家の総力戦のようになったら後から『アレは大魔王だった』と言われるにすぎない。悪魔使役は必須の能力だが、世界にどれだけの悪魔がいるのかわからないんだから掌握率とかも調べようがないんだし」

 レーンが手を上げた。

「じゃあ『ファントムが魔王だ』でもいいわけか?」

「それは後から定義づけはできる。『アレは魔王級の敵ではなかった』」

「へぇ……」

「なんにせよ『悪魔使役できる』というのが、ポイントなんだ。この場合、悪魔使役できるファントムのことを『魔王の可能性を持っている』と表現する」

「『魔王の可能性』……」

「そう。今後、能力がどれだけ伸びるかわからないからね。そして『魔王の可能性』を、まだ『魔王』や『大魔王』になる前に、殺したり封印したりする。そんなことを生業にしてる人も少しはいるらしい」

「要するに『可能性』の段階で皆殺しにしてしまえば、大きな存在にはならない……と」


「ウェイン、質問」

「なんだいエル」

「その、『魔王の可能性』……ううん、もっと単純に言うと『悪魔使役』の能力。それは他人から、どうやって調べるの? 検出するような魔法があったかしら……」

「いい質問だよエル。基本、『他人からはわからない』んだ」

「え」

「自己申告。状況証拠。なんならこのご時世に冤罪。封印するか、殺してみて初めてわかるみたいだよ。それも、どの程度の精度でわかるのかは俺にも詳しくはわからん」

 魔法学院は一部の基礎研究などを除き、『悪魔』に類する研究を禁じている。

「つまり入門書をざっと読んだ程度の俺では、詳しいことはわからない。だがファントムが『悪魔使役ができる』と言った以上、魔法学院やラクス防衛隊は深く調べようとするはずだ。かなりの人員を投入し、多くの損害が出ようともだ」


 レーンが軽く片手を上げた。

「ウェインは、そのファントム討伐隊に加わるつもりか? あるいは俺たちのような、今回の件に関わったウェイン以外の関連人物はどうなる?」

「……わからない。まずラクス防衛軍が主力となって先遣隊となるだろう。まだファントムの居場所がわからないんだからね。そこで人員を割いて、見つけたら本隊が侵攻って流れになると思うが、俺とエルは学院で教育実習がある。モニカは座学があるし。そういう細かいのが片付いたら考えようと思っている」

 ディアが言った。

「ま、どっちにせよラクスに着いて一息入れてからの話ねー?」

 ウェインは肯いた。


 そう……これからどうなるか、ウェインにもよくわからないのだ。



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