指揮権
日が暮れそうになる頃、ウェインたちは街道沿いの次の村へ到着した。
そこの村の村長さんはウェインたちを快く引き受けてくれた。
宿もあったので、ウェインやレーンたちはそこで寝ることができた。軍隊組は一晩教会を貸してくれるそうだ。
滞在費はレオン王国軍持ちだと伝えると豪華な夕食を振舞ってくれたし、水も食料も補給を受けさせてくれた。
ウェインはアリス隊の6人に、感謝と労いの声をかけて回った。
そして最後の一人……アリス隊のリーダーのエミアという少尉に、ちょっと話があると村の建物の陰に呼び出した。彼女は頭を下げてくる。
「ウェイン様。昼間は我々が後れを取ってしまい、申し訳ありません」
「様づけはよして下さいよ。現に私たちのメンバーは誰一人死なずに済んだ。十分な仕事をしてくれたと思ってるんですよ。それより、何点か確認したいことがあるんです」
「はい」
「指揮の問題です」
彼女はうつむいた。
「申し訳ありません……」
「いえ、私たちにも落ち度がありました。『家に帰るまでが遠足』って、学校で昔先生が言ってたのに。もう……軍隊が全部守ってくれるんだ、という感覚が、やっぱり私たちにもあったんです。階級章見たんですが、今のアリス隊の6人……全員が少尉ですよね?」
「はい」
なんでもアリス隊は全員が士官学校を出てる少尉から選抜されるらしく、一般兵から成り上がりで組み込まれることはほとんどないそうだ。
そして今ウェイン側にいるメンバーは全員が少尉なので、一番先任なだけと言う理由でエミアに指揮権がある。
それを聞いてよくよく考えてみると、そもそも彼女は部隊指揮の訓練がまだ途中の段階なのだ。恐らく実戦で指揮を執ったこともあるまい。
ブレーナー襲撃当時、レーンは交戦直前に『ウェインは指揮を執れ』と言ったが、ウェインは自分たちのチームだけのことだと思っていた。だがこちらの軍人たちの展開が遅かった……今考えると遅すぎた。
だからウェインは『二人一組』『二組はレーンの援護』『一組はディアの援護』等の指示を出したが、その指示までアリス隊の6人はほぼ棒立ちだった。
最終的にウェインの『ディレイ』と言うワード……こちらから攻撃を仕掛けず相手の進行速度を遅らせろ、という意思統一ができるまでにはかなり時間がかかった。
「少尉。そもそもアリス隊は国王直属のはずです。だが今は槍と楯を持った一般歩兵も3人護衛についている混成部隊になっている。一体誰が指揮をするのですか?」
エミア少尉は暗い顔のまま、言った。
「はい……私です。先任であり、最も階級が高い私が指揮をせねばならなかった」
「別に責めてるわけじゃないんですよ。確認です。私たちは今後も少尉の指揮で動いていいんですね? なんなら私かレーンが指揮を執りましょうか?」
「しかしそれは……」
「規律のことであれば大丈夫。私はレオン王国軍に参加したことがあり、予備役ですが中尉待遇を持っています。つまり何か適当に理由をつけてくれれば、書類上でも私が最も高い階級になります。実際の指揮は場数踏んでるレーンのほうが巧いと思うんで、そっちに代理させてもいいですし」
エミア少尉は深く頭を下げた。
「ウェイン殿。そうしていただけますか? アリス隊は屋内戦ならまだしも、屋外戦で指揮を執るのは中尉以上で、私にはその能力が足りていません」
ウェインは少し考えた後、肯いた。
「わかりました。今後戦闘があれば私かレーンの指揮に従ってください。このことをそちらの軍人全員に徹底させた上で……一つ、お願いがあります」
「なんでしょう」
「もし無事にラクスに帰還できた時は、今の話はナシにしてくれませんか?」
「構いませんが……何故です?」
「レオン王国には王国軍とラクス防衛隊がいますよね。私はどちらにも軍籍がありますが、あまり入隊除隊をしたくないんです。どちらかに肩入れしていると思われたくないので」
「なるほど」
「書類も、保険や年金の計算とかも多分面倒でしょうし」
「わかりましたウェイン殿。では表向きは、今まで通りということで」
「お願いします」
エミア少尉は頭を下げると、軍隊組が宿泊する教会へと戻って行った。
「……。じゃ、俺もレーンたちに伝えとくか……」
アリス隊はエリートで名前が通ってる。全員女性ということで、華があって美しい。
要人警護の任務が多く、屋内戦が主体。と言うか特化しているはずで、それは狭い空間で戦う技術に長けているということであり、屋外戦での装備やノウハウはあまりない。
今回のブレーナーとは相性が悪すぎた。グレートソードの長さに対してショートソードではリーチで完全に負けてしまう。
そして指揮権の問題。カドニ村に来た中尉だって、屋外戦での指揮はあまりないと言っていた。
そもそもアリス隊がウェインたちを回収することになったのは『偶然近くにいたから』というだけである。そんな中、あの中尉さんは槍と楯を持った兵士を3人もウェインたちの警護へ振り分けてくれた。
これはかなり手厚くしてもらっていると言えよう。




