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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス

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61/312

目的

 しばらくして、エルが戻ってくる。

「ただいま、ウェイン、ファントムはやっぱり村の外に逃げたみたいよ。止めようとしたレオン王国軍の兵士一人が負傷。封印を見張ってた魔法使いは何らかの方法でファントムに気絶させられたみたいね。他に術者がいないから、兵隊さんには私が回復魔法をかけておいたわ」

「そうか、ありがとう」

「村を襲った悪魔の大群ってのも、もういなくなるのかしら」

「恐らくな」

「じゃあ今回起こった出来事って、もう大丈夫かな」

「大丈夫だと思う。まあ俺の身体がラクスまでの移送に耐えられるかは問題だが」

「多分、もうちょっと移送は難しいと思う。数日はこのままよ」


 散らかったハサミや包帯、消毒液や薬草などを片付けながら、エルは言った。

「ウェイン、助かって本当に良かった……」

「ああ。俺もそう思う」

 エルはゆっくりと、ウェインのベッドに歩いてきた。

「ねえウェイン。三日前、ウェインが瀕死だった時に言った言葉、覚えてる?」

「うん?」

「私のことが、本当に好きだって……」

 意識して口に出た言葉ではなかった気がしたが、それを言った記憶はある。

「ああ、そう言えば」

「あの時、私も言った。ウェインが治ったら、その時に言ってって。……ウェイン、私のこと、本当に好き?」

 ウェインは肯いた。

「ああ。本当に好きさ」

 エルはベッドの上のウェインに、身体を預けてきた。

「本当?」

「本当だよ」

「アヤナやモニカちゃんよりも?」

「ああ。彼女たちは関係ない」


「嬉しい……キス、したい……」


 そしてゆっくりと、ウェインとエルの唇が重なった。

 少し時間の流れが止まる。

 ゆっくり唇を離したエルは、とろけそうな声で言った。

「溶けて、混ざり合いたい……」

「うん……」

 再び、キスをする。長い、長いキス。


 と、その時。

「ただいまーッス。ウェインさんの様子はどうですか?」

 突如帰ってきたモニカに、その現場を見られた。


 エルは跳ね上がるように立ち上がり、直立不動に。


 モニカは目を大きく開いて、ぶんぶんと手を振っている。

「なに、どうしたのよモニカ。早く入りなさいよ」

「だ、ダメっス。今はお取込み中です!」

「はぁ?」

「とにかく今はダメなんですー!」

 ウェインは苦笑した。

「もういいよ。皆、入ってきてくれ」

 モニカの後ろから、アヤナ、ディア、レーンと部屋に入ってきた。


「ウェイン! 意識が戻ったのね!」

「ああ。アヤナたちのおかげだ。ありがとう」

「いつも無理するから、ウェインは死にかけるのよ」

 そう言うアヤナは、笑顔だった。

「耳が痛いよ。お前には散々、危険回避を説いてるくせにな」

「まー、あの状況じゃしょうがないかも」

 アヤナは手をひらひらさせた。

 続いて、ディアが顔を覗き込んでくる。

「……やあディア。元気か?」

「うん、私は深い怪我とかしてないしね。ウェインがあの時エルダーグレーターデーモンを倒してくれたおかげだよ、わりとこの地域は安定してきてる」

「最近現れた魔物は撤退を開始したか?」

「ああ、うん。よくわかるわね」

「まあな。後でエルに聞いてみてくれ」

 そしてウェインとディアはハイタッチをした。


 次はレーンだ。武装している彼だが革鎧を着ていない。

「レーン、ありがとう。数日前の魔物とだって、よく戦って持ちこたえてくれた」

「いや、ギリギリだった。当時はもうディアと一緒に逃げようかってところだったからな。本当に今回のMVPはウェインだよ」

「レーンは怪我とかしてないのか?」

「防ぎ、躱しきれない攻撃で手傷は何度か負ったが、どれも軽傷だ。革鎧は壊れてしまったが、身体は戦闘行動に差支えはないくらいだな。それもモニカにすぐ治してもらったし。……エルはずっと、ウェインの怪我に付きっ切りだったよ」

 二人、拳を突き合せる。


 最後はモニカだ。

「この度はすいませんウェインさん……」

「いや、もう気にするなと言っただろう? モニカは今までと同じでいいんだよ」

「ありがとうございます。それとウェインさん、今回のことは私が独断でやったことで、父は何も関与していません。『ロンリー・アッシュ』の団体も、です」

「そうか。わかった」

「いえ、きちんと調べてみてください。ウチの人たちに迷惑がかかると困るので……」

「わかった。あとで調べてみる」

 するとモニカは耳元で、小声で言った。

「あと、さっき、エルさんとの逢引きを邪魔してしまい、誠に……」

「いや、いいよ……」

「私、これからはウェインさんとエルさんがうまく行くように、応援しますから! できるだけ二人きりの時間を作らせるようにしますから!」

「いやそんな気を使わなくても」

 モニカは今度はエルの両手を、両手で掴んで顔を見上げている。

「エルさん、頑張ってくださいね! 私応援してますから!」

「いや……あの……えっと……はい」

 エルは顔を真っ赤にしている。


 そろそろいいだろう。ウェインはエルに、さっき『ファントム』と会ったことを話してもらうよう頼んだ。自分で話すには、まだ傷が痛む。

 エルの言葉に、一同、静まり返って耳を傾けていた。


「結局、アッシュは何をしたかったのかな?」

 アヤナの問いに、モニカが答える。

「ファントムは魔法学院やラクスに敵対することはないそうですが……『悪魔の肉体』を持っているんです。魔法学院からは良く思われないでしょう。討伐隊が組まれる可能性だってあります」

 ウェインは言う。

「ラクスに『災厄』が降りかかる時に助けに来る、的なことは言ってた。アッシュは予言の分野では特に何もしてないはずだが」

 ディアは肩をすくめた。

「結局、抽象的でよくわからないわね。それとも『不老不死』の研究の成果なのかしら」

「『不老不死』はあのシステムじゃ組めない。スポンサー受けする話だと言っていたな」

「じゃあ益々もってアッシュが何を考えて自分のコピーを作ったのか不思議ね」

「そうだな」

 『不老不死』を目的としていないが、その研究課程で生まれた産物だろうか。

 ……だったら論文にするくらいでいい。例の水晶球を造り上げる必要はない。

 深く考えてみても、結局謎だった。




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