漆黒の再会
呪文が、聞こえた。
この声は……間違えようはずがない、エルだ。
ゆっくりと目を開けると、そこにエルがいた。
エルもウェインの視線に気づいたらしい。ぱあっと顔が明るくなる。
「え、る……?」
「あ。ウェイン大丈夫? もう無理に喋らなくても平気よ?」
「いや、大丈夫だ。ここは……? 痛っ!」
周囲を見渡した。どこかの家の一室のようだ。自分はベッドに寝ている。時間は昼頃だろうか。鼻を突く消毒液の匂い。ふと自分の胸元に目を向けると、包帯でぐるぐる巻きになっている部分が多かった。そして身体のあちこちが痛い。
「俺……助かったのか?」
「そうよ! 大丈夫、意識が戻らないことだけが心配だったの。もう大丈夫だよ」
「あの時から……どれくらい経った?」
「今日で三日目。ウェインはずっと寝てたわ」
「そっか……」
「ここはカドニ村のラグトさんの家の一室。借りたんだ。結界も徐々に強いものに張りなおしてる。即席の集中治療室ってわけね。痛みはどう?」
「まあ痛むけど、なんとか我慢できるよ」
「まだ肋骨が三本折れたままくっついていないから痛むと思うけど、もう命に別状はないわ。最初は血液が足りなかったり、内臓をやられてたり、折れた肋骨が肺に刺さってて大変だった。本当に、死んでもおかしくない状態だったんだから」
「すまなかった。ありがとうな、エル……」
「私も基本は魔法だけで、外傷を扱うのは研修受けた時以来だったから、巻いた包帯とかはレーンに監修してもらったわ」
その白魔法の特性から軍医っぽいイメージのエルだが、魔法を使わない手当てはそれほど習熟しているわけではないらしい。
「今回ウェインは、一時的に大量に白魔法をかけ過ぎたせいで、一時的に白魔法の効きが鈍くなっちゃったけど、これからは私も外傷の手当てとかならったほうがいいかな?」
「うん。魔法との相性は良いし、手に職つけとけばいつでもどこでも就職できるし。基礎ぐらい知っておけば、魔法での応用もできそうだ」
[そうだね」
エルはニコニコと笑っている。
「手間かけさせちゃって、悪いな」
エルはぶんぶんと顔を振った。
「私だけじゃないよ。特に結界はアヤナとモニカが手伝ってくれたし」
「あ、そうだ。他の皆は?」
するとエルの顔が曇った。
「面白い話じゃないから、言いたくないんだけど……ウェインは知りたいよね?」
「ああ。教えてくれ」
「今朝のことなんだけど、この村の周囲に悪魔の大群が出たの」
「なんだって!?」
「村の柵は貧弱だし、村に被害が出かねない防衛戦をやるよりは機動防御をやるって、レーンとディア、アヤナとモニカは村の外で戦ってるわ。時々帰ってくるけど、敵の動きが奇妙みたい」
「奇妙?」
「レーンの言葉を借りるなら、陽動のような感じ、みたいよ。村へ攻めてこないらしいの」
「今は? 村はガラ空きなのか?」
「あ、心配しないで。村で戦える男の人も何人かいたし、レオン王国軍もいるわ」
「レオン王国軍?」
「うん。ウェインの怪我があまりにも酷かったから、通信魔法を使ってラクスと連絡を取ったわ。こまかい説明はできなかったけど、ラクス防衛軍の一個分隊が馬車付きでウェインの救出に来てくれることになったの。多分、明日か明後日くらいに到着予定よ」
「へぇ。あれ? でもそれはラクス防衛軍だろ? 今村にいるのはレオン王国軍?」
「うん。国境の基地とも通信が取れて、近くにいた軍人さんが守りにきてくれたの」
「数は?」
「6人。一個班ね。パトロール部隊が手近なところにいたみたい」
何やら胸騒ぎがした。
「そうだ、ファントムは!?」
「すぐにあの牢の中からこっちに移送して、この村の別の場所に結界を張って封じ込めているわ」
「その、封じ込めるアヤナとモニカが出撃中だろ? 今は誰が封印を見張っている?」
「え? レオン王国軍の魔法使いだけど……」
「一個班6人じゃ、魔法使いはいても一人だけのはずだ。危ない。封印が破られるかもしれない」
「え」
「あれだけの魔力、そうそう長く封じ込めておくことはできない。怪我を負わせたとかならともかく、絞め落としただけなんだからな」
「まさか……」
「ちょっと見てくる。場所はどこだ?」
ベッドから立ち上がって、バランスを崩した。転びそうになる。
「ウェイン。封印なら私が見てくるわ」
エルがそう言ったその時。
「もう、その必要はない」
ウェインは歯を食いしばった。
ファントム……数日前に戦ったアッシュの亡霊が、手に例の水晶球を持ちながら、部屋の入り口に立ってこちらを見ていた。




