眠りの中へ
同じリズムの振動で、ウェインは意識を取り戻した。
「ここは……?」
「あ、起きた?」
まず自分の身体だが、レーンに背負われていた。その後ろからディアが回復魔法を使っている。
「少しでも止血しようとしてるんだけど、なかなか、ね……。早くエルのところまで行かないと」
「ああ……。なあディア、俺が意識を失ってからどれくらい経つ?」
「多分、10分くらいってとこ。意外と短いはず」
「レーン、状況は? 悪魔たちは倒せたのか?」
レーンは肯いた。
「あの破邪の剣のおかげで、グレーターデーモンすらラクに倒せるようになってな。それまで何発も当てなきゃいけなかったのに、一撃当てれば悪魔たちは消滅するようになった。まるで紙細工だったよ。それで近いヤツ、大きいヤツから撫で切りにしていったら、残りはバラバラに逃げてしまった。追撃したくても、俺の体力も限界だったしな。そういうわけで一応は俺たちの勝ちだ」
「まあ全滅にはできんか……」
「エルダーグレーターデーモンをウェインが倒してくれたのは大きかったぞ。あれで指揮系統がなくなり、組織だった攻撃もなくなったからな。で、俺たちはエルがいる場所まで撤退してるってわけだ」
「そうか……俺たちのほうも色々あったが、まあ概ねヨシとすべきだと思ってる。エルたちと合流したらアヤナにでも聞いてくれ。悪いが俺、今は喋る気にならんよ」
「いいさ。だが気はしっかり持て。できればエルのところまで意識を失うな。ウェインは出血が酷すぎて、死ぬ一歩手前ぐらいなんだから」
「そんなに酷いか……?」
「かなり酷い」
「そっか……。ディア、回復魔法は今はもういい。ファントム戦後、エルにヒーリング受けたから、俺の身体がそろそろ回復魔法を受け付けなくなってきてもおかしくない」
「わかったわ。でも意識を失ったら、またかけるわよ。本当に瀕死なんだから」
「意識を失わなきゃいいんだな? よし。あ、レーン。そこだ。その先に神殿がある。エルとアヤナとモニカはそこにいる。ファントムを封印してくれているはずだ」
「ねえファントムって何?」
「あぁ……『アッシュの亡霊』ってヤツがいてな。そう呼ばれているそうだ」
「ふーん」
神殿近くにまで来ると、見張り役をしていたモニカが手を振ってくる。
「ウェインさん、しっかり!」
「ああ……」
「索敵警戒にアンダーグラウンドソナーを使ってたんですけど、二人分の足音しかしないし、片方はやけに体重が重いしで、なんなんだろうと思ってました」
そこから移動し、ウェインは水晶球から繋がっていた例の空間の牢屋の中で降ろされ、寝かされた。エルもアヤナも駆け寄ってくるが、ウェインを見たエルの顔が悲壮感に満ちている。
「やあエル……この怪我は、治せそうか?」
「治すわ、絶対に!」
「一度気絶して、そのまま運ばれてきたんだが、気絶する前は血を吐いてた。右胸と左の脇腹が貫通するダメージを受けている」
「わかったわ。もう喋らないで」
「喋ってないと眠りそう:…」
「じゃあ喋ってて!」
「喉乾いたな……水が欲しい」
モニカが水筒を指差した。
「水ならありますけど?」
だがレーンが首を振る。
「だめだ。今飲ませたら死ぬぞ」
「そうよ。今はダメ」
エルも同じ意見のようで、水は飲ませて貰えなかった。
「エル……エルはどこだ?」
「ここよ。今、回復魔法を発動させたとこ。大丈夫? 痛くない?」
「あんまり痛くはないなぁ……それよりエル。俺さ、本当にエルのこと好きなんだぞ」
一瞬、エルの手が止まった。
「具体的に言えないけど。エルの匂いとか好きだし。笑った時、可愛いし」
「ウェイン、今そんなこと言わないで。治ったら、その時言ってよ!」
「治るかな……もう痛くないし熱くもないんだ……冷たい感じ……眠い……」
「大丈夫だから。大丈夫だからしっかりして! ……二重に簡易結界も張るわ。アヤナ、モニカ、手伝って!」
「眠い……エル、近くにいるか?」
「いるわ! ここよ! ……だめ、極大回復魔法でも止められない! みんな、これから禁呪法を使いたいと思います。魔力を使って、誰かの体力をウェインに注ぎ込むの。体力余ってる人、いる?」
レーンが手を挙げた。
「正直かなり疲れてるが、無理は効くぞ」
だがモニカが大声を上げた。
「私が適任じゃないですか! エルさん、私でお願いします」
「ん? なんでモニカが適任なんだ?」
「後で聞いてくださいレーンさん。とにかく今はウェインさんの回復が最優先です!」
ぼんやりと聞いていたウェインだが、モニカの言いたいことはわかった。
「へへへ、モニカ」
「ウェインさん!?」
「あまり気を使う必要はないからな……」
「気を使いますよ! 私、今回ウェインさんが死んだら後を追いますからね!」
「ばーか」
モニカが顔を覗き込んでくるが、もうその顔がハッキリしない。エルもすぐ近くにいるはずだが、声が聞こえない。いや、もう何の音もしない。ただただ、眠い。
「……眠い」
そう呟いてから、ウェインは再びゆっくりと意識を失った。




