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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス

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53/318

魔法


 ウェインとファントム。お互い同時に、呪文の詠唱に入った。これは互いの魔法障壁が強いという前提で、中級の魔法では障壁が破れないと互いが判断したからだ。

 先に上級魔法を完成させたのはファントムだった。巨大な炎の球が空中に出現し、それがウェインを襲う。

 それはウェインの魔法障壁で減衰し、細かくなった炎がウェインの身体に降りかかった。

 ……魔法学院の制服は耐麻法力に優れ、また難燃性だ。炎にまかれたらパリィなりをして火を消さねばならないが、運よくそこまでの被害はなかった。

 ウェインの上級爆発魔法は少し遅れて完成した。それはファントムの魔法障壁で減衰し、ファントムの『悪魔の皮膚』を多少傷つける程度で終わった。

「上級使ってるのに、この程度かよ……」

 ウェインの言葉を受け、モニカが牢の外のエルとアヤナに言った。

「互いに、ある程度は高度な魔法を使ったのに決定打には程遠いです。長期戦になりそうですね」

「こらモニカ! ちょっとここ開けなさい!」

「モニカちゃん!」

「だめです。お二人は、ウェインさんとファントムとの戦いをよく見ていて下さい。魔法学院に報告するにしても、ラクスから助けを呼ぶにしても、それは必要なことのはず」

 牢の外から、魔法の打撃音がした。アヤナの魔法だろう。だがそれは牢の前にはビクともしなかった。

 ファントムはゆっくりと前進しながら呪文詠唱を始める。ウェインは回り込むように歩きながら呪文詠唱。だが、上級魔法の完成はまたしてもファントムのほうが早かった。

 互いに上級魔法を放つ。それは先ほどと同じように、互いの魔法障壁が大部分を防ぐ。貫通してきたエネルギーはごく僅かだ。しかし、ウェインのほうは軽く痛みを感じる程度には衝撃があった。やはり、少し押されてる。

 このまま上級魔法を撃ち合っていたら負ける。ウェインは、今度は高速詠唱法を使った速攻で押すことにした。

 ファントムもその意図を察したらしく、もう長い呪文詠唱は行わない。

 ウェインとファントムは、ジリジリと距離を縮めた。そこから、互いの高速詠唱法による連撃が始まる。


 爆発魔法、炎の魔法、闇の魔法、風の魔法。互いに色々な魔法を作っては攻撃するものの、互いの魔法障壁を貫けない。だが一撃一撃を受けるにつれ、魔法障壁は少しずつ削られてゆく。

 そして。魔法障壁を失っていく速度はウェインのほうが僅かに早い。

「くそっ!」

 ウェインは左右に動き回り、少しでもファントムの魔法を躱そうとする。いや、一部は実際に躱せた。だが代わりに体力を失っていく。

 ウェインはこれまで、上級魔法でも、高速詠唱法の出来でも、魔法障壁でも、僅かながら後れを取っている。体力はアドバンテージに見えるが、相手の肉体は『悪魔』のものだ。恐らく体力でも勝てはしない。

 ウェインがファントムより勝っているところ……恐らく少ない。しかしそこを使って的確に攻めねばならない。でないと敗北……死を意味する。、


 ウェインは後ろにステップすると、今度は上級魔法の更に上の魔法、『極大上級魔法』の準備に入った。呪文を唱え始める。このクラスの大きな魔法だと、長い時間と相当な精神の集中が必要だ。

 それを見たファントムも、呪文を唱え始めた。それはウェインと同じもの。同じ魔法をぶつけようと言うのだ。

「やってやるぜ……」

 ウェインの用意した魔法、それは『極大上級魔法』の一つ、別名『爆炎の弓矢』と呼ばれるものだ。術者がまず両手を相手に伸ばし、コントロールをつけるために一旦片手を胸元まで戻す仕草が弓に見えるためそう名付けられた。だが放たれるのは、矢ではなく強大な爆発魔法の球体だ。ラクスの魔法学院内でも、使えるのは数十人程度ではなかろうか。

「くらえっ! はあっ!!」

 ウェインは『爆炎の弓矢』を発射した。

 同時にファントムも『爆炎の弓矢』を発射する。


 それは互いにぶつかって、牢の中央で巨大な爆発を引き起こした。


 ウェインの魔法障壁は破られ、強大な魔法の発射直後だったためパリィもできず、ただ爆風に吹き飛ばされた。

 ファントムも同様に魔法障壁は破れ、爆風に吹き飛ばされたが……早く立ち上がったのはファントムのほうだった。少し呼吸を乱している。

「俺の最大魔法が……。『アッシュの亡霊』、化け物かよ……」

 ウェインは既に肩で息をし始めていた。

「ウェイン・ロイス。それはこちらも同じ意見だ。君はまだ若いのだ。もし私と同じ年齢まで研鑽を積めば、私をも凌駕する存在になっていたかもしれない」

 今の魔法の衝突が二次被害でエルたちに行ってないか、横目で見る。牢の中にいるモニカは防御魔法で防いでいたが、牢の外へは魔法は届いていないようだった。

 ともあれ、今は強力な魔法のせいで互いに魔法障壁に護られていない。ウェインは高速詠唱法で爆発魔法を生成し、何発も発射した。

 ファントムも同様に爆発魔法を打ち込んでくる。

 互いに相殺する部分もあったが、数としてはウェインが多くの魔法を浴びていた。


 だめだ。呼吸も乱れ、魔力も乱れている。ウェインは魔力を調律すると、魔法障壁を張り巡らせた。ファントムも同様に魔法障壁を張り巡らせる。

 ウェインは荒れた呼吸で思っていた。ファントムは年齢の差もあると言ったが、確かに今の時点ではウェインは互角にはなっていない。押され気味だ。

 ウェインは精神を集中させると、呪文を唱え、ファントムに風を送り込んだ。

 ただの風ではない。毒を持った風だ。

「ウェイン、こんな密閉空間で毒を使うか? それとも相打ち覚悟か?」

 ファントムも風の魔法を使い、毒の風を押し返す。ウェインは自分で作り上げた毒の風を消失させた。

 これは毒の風が脅威になると思って使ったわけではない。確かめておきたかったのだ。

 ファントムを見た瞬間から考えていたことでもあった。


 ウェインのアドバンテージ。それは『装備』と『体術』だ。ウェインにはショートソードとナイフがあるが、ファントムは素手だ。そしてウェインには魔法学院の制服と革鎧があるが、ファントムは服一枚。ウェインは剣や柔術が少し使えるが、アッシュが棒術に精通してきたのは晩年期。ファントムの説明を素直に信じるなら、今の25歳相当の時期なら戦闘用の体術を学んですらいないはずだ。

 そう……白兵戦ならどうなるか。

 それにウェインは少しなら『瞬活』も扱える。

 上回る箇所と言えば、このあたりなのだ。



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