旅の理由
皆が水晶球に手をかざし、魔力を込めると、全員が『暗黒空間』へと移動した。
その『暗黒空間』へと移動した4人は、薄汚れた一本の通路に立っていた。
「ここが暗黒空間……?」
エルは震える声で、呟いた。
「暗黒空間ではありますが、そう広くはないです」
モニカが言う。こちらは結構堂々としている声だ。
「モニカはここに来たことあるんだな? じゃあ最前列を頼む。俺がフォローする。俺の後ろにエル、最後尾にアヤナだ。後ろも警戒するように。……アヤナ、最後尾も危険だが頼まれてくれ」
「大丈夫、任せてよ」
ドアをくぐり、通路を進むと、鉄格子の牢屋があった。その内部は広い。
「ウェインさん。あそこ、牢の中にあるのが魔界へのゲートです」
「よし。基本は俺が封印する。もっと強力な封印魔法で封印しなおす。エルは白魔法の準備、アヤナは周囲の警戒を」
と、先頭のモニカと、続いてウェインが鉄格子の牢屋に入ったところで、モニカがその鉄格子の扉を閉めた。
「モニカ……?」
そしてモニカは内部から閂をかけ、完全にウェインとモニカ、エルとアヤナを遮断した。
ウェインとモニカが牢の中、エルとアヤナが牢の外だ。
「モニ……!?」
内部!? 内部に閂がある!?
これはつまり、牢屋に類する施設ではないということか!?
「モニカ! どういうことだ!?」
「ウェインさん。あちらを」
答える代わりにモニカは部屋の隅を指さした。
身体が漆黒で覆われた人間のような生物が、ゆっくりと立ち上がっている。
人間のような、と断定できたのは、彼から発生する瘴気によるもの。とても普通の人間には思えなかったからだ。
「誰だ!」
ゆっくりと、彼は言葉を返してくる。
「私は『ファントム』と名付けられている。アッシュの亡霊とも呼ばれているな……」
意思疎通できるか不安だったが、言葉は通じるらしい。
「アッシュの亡霊?」
ファントムと名乗ったその男は、漆黒の肌、簡素な服、そして武装はなく素手だった。黒髪に黒い瞳。
「私は『悪魔の生命力』を基に、アッシュを模して造られた」
「魔法生命体か」
「似ているが少し違う。私の脳はアッシュの25歳の時の記憶を持ち、魔力を持ち、技術を持っている。魔法により造られた点では違いないが、基本的に構造は人間と一緒だ」
「どういうことだ?」
「説明してやるといい、モニカ」
ファントムと名乗ったその男は、モニカに言った。
「ウェインさん。今まで言ってませんでしたが、私は水晶球に封印をしたけれどすぐに破られたんですよ……。そして内部に入って、このファントムに会いました。
ここはアッシュが『不老不死』の研究をした場所なんです。そしてファントムは、今の言葉通り、悪魔の生命力を基に、アッシュの25歳時点での身体と魔力を持ち造られました。造ったのは祖父の時代のようです。大量の魔力を流し込めば作り上げられるよう、水晶球は設定されていたそうです」
「モニカ。お前、そこまで知ってて、何故それを黙っていた?」
「私はあの日、ファントムと話をしました。今、世間ではアッシュの再来と呼ばれる魔法使いがいる、と……。ファントムはそれに興味を示し、戦うことを望みました」
「なんだと!?」
「それで私は肝心なところは伏せて、ウェインさんがこのファントムと一対一で戦えるようお膳立てしました。この牢屋のような部屋も計画です。ここは普通の牢屋とは違って、出るのは自由ですが入るには中の閂を外す必要があります。そしてこの部屋、この牢、この鉄格子は、暗黒空間での物質です。魔法を防ぎます。強力な魔法でもほぼ外に影響は与えません。逆にエルさんレベルの白魔法も、こちらには届きません」
「どういうことだモニカ!」
「だからウェインさん、一人でファントムを封印してください。私はどちらにも手出しはしませんから」
エルとアヤナが悲痛な叫び声をあげる。
「なんでこんなことするの、モニカちゃん!」
「こらモニカ、なんてことしてくれるのアンタは!」
「エルさん、アヤナさん:…。私はね、ウェイン先生に憧れてます。それは『アッシュの再来』の異名で呼ばれてたからです。ウェインさんが一人でファントムを封印できるなら、私もその実力を認めなければならないってことですよ」
「……。要するに、だ」
ウェインは言った。
「俺が一人でファントムを封印すれば、モニカは反省するってわけだな?」
「そうです」
「封印できず、殺してしまうかもしれないが」
「構いません。あなたがアッシュの亡霊より強いと証明できるなら、なんでも」
牢の中、ウェインが再び目をやると、ファントムは戦闘態勢に入っていた。
皮膚から悪魔の瘴気が放たれている。
「アッシュの亡霊よ! 名乗ろう、俺はウェイン・ロイス! 悪魔は捨て置けない。ここで封印する」
ファントムは答えた。
「私は厳密には『悪魔』に属さないが……できるものなら封印してみせるがいい」




