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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス
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倉庫の中

 翌日。エル、レーン、ディアを連れてウェインはアヤナの家の前へと来ていた。

 門を抜けると緑が広がり、まるでラクスではないどこかのようだ。

「前も来たことあるけど、大きな家だよなぁ」

 扉を叩く。扉が開き、中から中年の女の召使いが出てきた。

「お久しぶりです、ウェイン様」

「お久しぶりです」

「事情は聞いております。アヤナ様はもう家の裏の倉庫にいるはずです。こちらです」

 彼女についていくと、大きな倉庫があり、扉は開いていた。気配を感じてか中からアヤナが出てくる。


「おはよ、みんな。私、ちょっと色々調べてたわ」

「おはよう、アヤナ。なんか探検みたいでわくわくするな」

「この倉庫は高価な物はないから、適当に持って行っていいわよ」

 アヤナに促され、倉庫に入る。色々なジャンルのものが押し込まれていた。もし一つ一つ検品するとなると、かなりの日数が必要だと思えた。

「ざっと見、一応使えそうなのはそこに置いておいたわ」

 剣、ナイフ、鎧、杖、魔法石などが一か所にまとめて置いてある。

 金属鎧もあるにはあるが、個人用に調整しなくてはならないし、そもそもレーンやウェインには必要のないものだった。スピードを殺してしまうからだ。


 その中の一振りのショートソードに、ディアが食いついた。

「これ、なかなかの逸品なんじゃない? どうレーン?」

 レーンはその剣を受け取り、引き抜いて刀身を見ている。

「そうだな。重量バランス、刃、捻じれなし。素の状態でもなかなかいいね。後は魔法の加護がかかっているな。高質化と……なんだろう。随分と強化されている」

「ウェインは? コレいらない?」

 ウェインは肯いた。

「うん。俺の場合は剣は緊急防御用だからな。必要ないよ」

「じゃ、私、コレもらっていい?」

 アヤナは肯いた。

「いいわよ」

「やったぁ! なんか鞘からしてオーラ出てる」

 ディアは余程気に入ったようだ。なによりである。


 ウェインは並べられた品物を見て、言った。

「あと杖は……魔法の補助ができるものが色々あるが、エルには補助は必要ないだろう。むしろアヤナに必要っぽい」

「う」

「魔法石……ちょっと低品質だな。これだとこの『質』に引っ張られてしまう。これも、俺達には不要だな。むしろアヤナに必要っぽい」

「またそうきますか」

「革鎧があるが……随分と古びている。ちょっと強度が心配だ。魔法の加護はかかっているが、これなら市販品をジャンに付与させればいいし」

「そっかぁ」

「いや、コレはバラしてエルのプロテクターの一部にできるかも。どうだ、レーン?」

「そうだなウェイン。試してみる価値はありそう」


 ウェインは次の革鎧を見た。

「こっちの革鎧は質がいいぞ。強化もされているし。……これ、サイズは何かで調整するとしてさ。レーンかディアにいいんじゃない? ほら前衛だから」

 ディアはその革鎧を見て、言う。

「サイズは調整するとして。レーンにいいかも。ほらレーンが使ってる革鎧って、もう自然崩壊しそうだし」

 ウェインは呟いた。

「あー。ドライ砦の東の夜、俺がめっちゃ魔法を浴びせたから。じゃあレーン、どうだ? 良さそうに思えるが」

 レーンは肯く。

「そうだな。どこかで新調しようとは思ってたし」

「通常サイズのコレを、どこまで調整できるかはわからないけど」

「いや俺の場合『革鎧』である必要ですらないんだ。軽くて動きやすければ何でもいいから」


 ウェインは肯いてから再び他の革鎧に目を通し……小さめのものを指差した。まあまあ魔法の加護が込められている。

「エルにさ。これはどう? もっと部位は削って軽くさせるといいと思う」

 ディアがぴょんぴょんした。

「いいと思うよー! エルの守りを固めるのは最善だと思うし」

「エルはどう思う? デザインとか」

 エルはコクンと肯いた。

「はい。機能性があれば。私はデザインがどうこうとかは構わないので」

 いかにも本職の魔法使いである。

「じゃあ決まりだ。コレはエル用に貰っていこう」

 ジャンなら革鎧の調整もできたはずだ。

「なあアヤナ。お前は革鎧を使わないのか?」

「うん。なんか動きづらくって」

「じゃあプロテクターを作ってもらえよ。今後、アヤナが高い位置でポジショニングする機会だって増えるはずだから」

「そうね。じゃあこっちのを素材にして作ってもらおうかしら」

 そんなこんなで戦利品を手に入れ、後はジャンに頼もうと、一旦そこで解散することにした。ジャンに魔法で強化してもらうため、レーンの革鎧ボロなどを持ち寄る必要があったのだ。



 5人は魔法学院で集合した。

 『付与研』の扉をくぐる。ジャンは毎度のように、暇そうに、そこにいた。

「おお、ウェイン。それにレーンさんやお弟子さんたちも」

「仕事を持ってきたよ、ジャン。今回は防具の強化をしたいんだ」

「防具……革鎧ですな。格安で承りますよ」

 今回強化するのは三つ。レーンの革鎧の新調。それと、アヤナの家の倉庫から持ってきた二つの革鎧をカスタマイズして強化。それをアヤナとエル用にする。

「革鎧からプロテクターへの仕様変更というのは?」

「魔法使いが着るんだ。動きやすさを重視して、胸当てを基本に。あとお腹も? 他は内臓や急所に届かないように、全体的に守るのではなくピンポイントで守るような設計にする」

「それだと矢の直撃や剣、槍の突きでは防御効果が得られない部分が出てしまいますが、構いませんか? 衝撃も分散させづらい」

「構わないよ」

 ジャンは仕様を聞きながら、紙に何やらデザインしている。

「逆にこっちの革鎧は前衛用だ。普通に強化してほしい」

「わかりました。仕上がりに三日といったところですか。値段は合計でこれくらい」

 ジャンは紙に数字を書き込んでいく。ウェインは少し、目を丸くした。

「顔見知り価格で安いって言っても。これ相場より安すぎじゃない?」

「ウェイン関連のものを引き受けると、謎の組織から謎の資金がほんのり僅かに部費に入るんで」

「えぇ……」

「そしてウェイン。この価格をタダ同然にできる裏技があるんですが」

「……まさか、アレ?」

「はい。このステッカーを広告として、装備に貼っていただければ。実費より安く」

 ウェインは後ろを向いて、打診した。

「なあ。ちょっと革鎧がダサくなっちゃうけど……ステッカー貼る?」

 みんな、割とどうでも良かった。ウェインはジャンに言った。

「じゃあ……お願いするよジャン」

「はい、承りました。お任せください」

 前衛の要・レーンと、後衛の防御に不安が残るエルとアヤナの防御面を強化した。これでチームは一段と安定するであろう。

 しかしぽつんと、ディアが言った。

「でもさ。あの調子でステッカー貼ってたらさ。剣も鎧も楯も兜もステッカーだらけにならない?」


 アヤナが言う。

「専用にカスタマイズされてるっぽくて、私は好きだな」

 ディアは意外そうだ。

「そうなん?」

「流石に冒険譚の英雄主人公にそんな格好されたら、引くけど」


 一仕事終えて。ウェインは言った。

「すまない。俺はこの後、ちょっと魔法学院に定時報告なんかがある。今日のところはこれで帰らせてもらうよ」

 ウェインが言うと、レーンも答えた。

「おぅ。今日のところは解散でいいだろう。次はそうだな……三日後の朝、革鎧を受け取るためにここに来るんだ。その時集まろう」

「俺は学院にいなきゃ寮にいるはずだから、用事があれば呼んでくれ」

 その日は、そこで別れた。


 次の日は教育実習。

 その次の日はオフだったので、午前中は魔法の訓練と論文執筆。午後は学院の陸上部に混ぜてもらって、身体訓練を行った。

 この訓練にはエルもアヤナも一緒だった。二人とも、せっかく得た体力が錆びつくことを恐れているようである。


 話が動いたのは、その次の日だった。



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