表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス
40/300

片想い?

 ウェインが時々使う、少しグレードの高いレストラン。

 白を基調とした内装で、灯りも少し灯っている。

 席について、コース料理を注文した。

 間もなく食前酒が運ばれてくる。


 テーブルには蝋燭の灯り。

 向こうにはエルの笑顔。

「なあエル。今日、本当に楽しかったか?」

「うん。楽しかったよ。なんで?」

「あまりどこにも行かなかった気がしたから。以前お付き合いしていた女性は、デートで俺のことを色んな場所に連れて行ってくれた」

「その人は、ウェインのことを連れて一緒に色々行きたかったんでしょう?」

「いや俺だって、エルを連れていろんな場所に行きたかった」


 運ばれてきた食前酒に口をつける。

「私、ウェインと『一緒』ならどこでもいい。ウェインは基本、魔法学院と学生寮の往復だけしか興味ないみたいだったから。でも、それはそれでいいの。デートスポット巡りをしたいとも思わないわ」

「そうか。悪いな、ロマンチックじゃなくて」

「ぜんぜん」


 オードブルが運ばれてくる。ワインを新たに開けた。エルのことを考えて、少し甘めのものを注文していた。

「なあ。今更だがエル。本当に旅をするんだな? 危険であってもだ」

 エルは少し真面目な顔になって、肯く。

「ええ。もちろん一生、ではないけれど。とりあえず少しはね。何か心配?」

「そりゃ心配だよ。わざわざ危険なことするんだからな」

「でも。ウェインが一番近くで守ってくれる」

 悪戯っ子のように笑うエルだ。

「まあそれはそうだが。俺は、なんで急にエルがそんなこと言い出したか、よくわからないんだ」

 エルは何度か肯く。

「最初は……何かの書物か何かだった気がするけど。貴方のことを知れば知るほど、昔の貴方と今の貴方は『違う』って思えて」

「そう?」

「うん。昔は対人関係は望まず一人でいることを好んだみたいだけど。今は色々と振る舞っている……少なくとも私よりは、快活に」

「……」


 ウェイターにより、スープが運ばれてきた。

「えっとね。それがウェインの『師匠』と『旅』をしてから、色々変わったって……何かのインタビューに書いてあったわ。そうなんでしょう?」

 ウェインは肯いた。

「ああ。それで俺の『世界』はとても広がった」

「うん。だから私も同じように、って思った」

 エルはそう言ってから、続ける。

「それにレーンが前衛にいるんだもの。模擬戦であの人の強さが凄く分かった。ウェインとレーンと一緒なら、むしろラクスで強盗に遭遇するほうが危険なんじゃないかしら」

「かもしれない。ただ実際、何が起こるかはわからないからな」


 スープが下げられ、メインディッシュのローストビーフが運ばれてきた。何か(ウェインにはよくわからない)のピラフも。

 エルは真っ直ぐな瞳で、言う。

「それより私は、アヤナとモニカちゃんのことが気になるの」

「え?」

 突然出てきた二人の名前に、ウェインは首を傾げた。

「なんだ、アヤナとモニカって」


「私ね。ウェインのこと、好き」


 突然の、衝撃的とも言える発言。ウェインは歓喜しながらも、固まった。

「え? あ、どうも……」

「でもウェインは気づいてないかもしれないけど、アヤナだって、ウェインのこと好きみたい。もちろんモニカちゃんもね」

 ディアが言っていたことを、漠然と思い出す。

「……。モニカは直球すぎるが、あまりアヤナのことはわからないな」

「フランソワーズ家は古参で名門の貴族だわ。でも最近は目立たず、発言力が落ちてきている。そこにウェインが加われば、国内での復権も容易くなる」

「政略結婚」

「そう。ラクスでだって恋愛結婚は6割くらいよ。普通は、結婚と言えば親と親が決めるモノ。家と家との繋がりだし、もともと貴族の女のアヤナは政略結婚だと決まっている。でもアヤナの結婚相手がもしウェインなら、アヤナはとても幸せになれるでしょう?」

「うーん……」

「モニカちゃんの場合は言わずもがな。モニカちゃんはウェインのことを熱愛・心酔している。確かにまだ未成年だけど、後二年で結婚できる年齢になるんだから」

「まぁ……」

 ローストビーフ系のメインディッシュを食べ終える。

 食後のコービーに口をつけながら、エルが言った。

「私としては。ウェインが本当に……二人のうちのどちらかを好きになるんじゃないかと心配だった。それさえなければ……私は今まで、ここまで、迷うことはなかった。ウェインが前から私のことを好きでいてくれたこと、それは私だって気づいていたわ」


「そうか……。確かに俺はアヤナやモニカと親しい。だがそれは職務上のこともあってだ。何せ弟子だし、彼女らを一人前にすることが今の俺の本来の仕事なんだからな」

「うん」

「でもそれを抜かせば、エルのことが一番好きだよ」

 自然と、そんな言葉が口から出た。

「本当?」

「本当さ」

「嬉しい!」

 エルが顔をほころばせた。


 いい雰囲気のままデザートを食べ終えたが、エルが、顔を赤くしてもじもじと何かしている。

「エル、どうかした?」

「その……リンダがね、クラスメイトの」

「うん。彼女がどうかした?」

「あのね……この後、ホテル取ってくれたの……」

「え」


「でもごめんなさいウェイン! 私、まだその初めてで。勇気出ないの」

 少し、微笑ましくなった、ウェインは今日のデートでもともとそこまで考えていない。

「いいさ、そういうのはナシってことで」

「ごめんね。男の人って、こうやるのが当然だって聞いたから」

「俺は今日だなんて考えていなかったよ。もっと仲良くなってからだ」

「ごめんなさい!」

「だからいいって。それより、そろそろ出ようか」

「次、どこ行くの?」

「洒落た酒場で軽く飲もうか。……エルはソフトドリンクでもいいよ。俺は今日という喜びに、少し浸りたいし」

「じゃあ私も飲む」

「大丈夫か? 結構ワイン飲んでたけど」

「もうちょっとなら大丈夫」

「じゃあ軽くな。その後は……互いにダンスホールってガラでもないだろう。風呂は魔法学院のでいいから、寮まで送るよ」

「まだ一緒だね」

「そうだね」


 次の、少しお洒落な酒場で乾杯して、軽く飲んで。

 もう段々と本格的な『夜』が近づいてきたので、ウェインはエルを女子寮まで送った。


 その夜。エルの気持ちが知れたこと、エルが自分を好きだと言ってくれたことで、ウェインは有頂天だった。

 ただ『好き』の熱量は、自分のほうが上なのではなかろうか。

 まだまだ、エルとは仲良くなりたい。

 『好き』って感情は、どこから来るのかよくわからないけれど。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ